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『最強ミラン』への歩み、イブラヒモヴィッチ「俺たちはもっと先まで勝ち上がりたい」

2012.02.16

「ミラン最強の証明」 カルチョ2002 3月号 掲載
 チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦のファーストレグ、ミランはファーストレグでアーセナルを圧倒した。1ゴール2アシスト。攻撃の中心にいたのは、やはりズラタン・イブラヒモヴィッチだ。

 イブラヒモヴィッチの加入でミランは変わった。ライバルに遅れを取っていたチームは息を吹き返し、名門としての自信と威厳、そして胸に輝く盾のワッペンを取り戻した。7年ぶりのスクデット奪還に成功したミランが、次に見据えるのは、チャンピオンズリーグ優勝だ。「ヨーロッパに強いチーム」と言われながら、ヨーロッパの覇者の座からは5年間も遠ざかっている。

 加入からの1年半で、ミランとともに、イブラヒモヴィッチも大きく成長してきた。今シーズンの彼は、昨シーズン以上にその力を遺憾なく発揮している。ミランは様々な補強を進めているが、主役がイブラヒモヴィッチであることに変わりはない。ミランの絶対的キーマン、イブラヒモヴィッチが今シーズンに懸ける思いを語ってくれた。


Interview and text by Gianni VISNADI, Organization and translation by Minato TAKAYAMA, Photo by Getty Images
 

『ゴールのことしか考えない選手だなんて思わないでくれ』

「イブラがいるチームがスクデットを獲得する」というのは、もはやイタリアサッカー界の常識みたいになってきたよね。今シーズンもそうなるだろうか?
イブラヒモヴィッチ──そうなることを願っているよ。いや、そう信じている。ミランは強い。今シーズンもその強さをピッチ上で見せ付けている。開幕当初は、チーム全体としてフィジカルコンディションに多少の問題があった。本調子になるまで1カ月近くを要したかな。だけど、そこから先のミランはノンストップで走り続けている。

順番に聞いていこう。まずはスクデット争いだ。ミランはアウェーゲームとはいえユーヴェに敗れた。世間は、ユーヴェがスクデットへの道を着実に進んでいると見ている。君は今シーズンのユヴェントスをどう評価している?
イブラヒモヴィッチ──確かに、ユーヴェは着実に勝ち点を積み重ねている。だけど、勝負はこれからだ。ミランは今後さらに良くなるはずだ。だが、ユーヴェはどうだろう? 今は確かに強いけど、今後さらに良くなる余地があるかどうかは疑問だね。

スクデット争いはユーヴェとミランに絞られたと思う?
イブラヒモヴィッチ──現時点ではそんな雰囲気だけど、まだ何とも言えないな。インテルが調子を上げているし、ローマのサッカーも形になってきた。俺はローマのサッカーが気に入っていてね。ローマは不気味な存在だと感じているよ。あとはウディネーゼに要注意だな。3月から4月にかけて、セリエAは大いに盛り上がると思う。首位争いも、チャンピオンズリーグ出場権の3位争いもね。まあ、スクデット争いについては、最後には俺たちミランが勝つものだと信じているよ。

君はミランのセンターフォワードだけど、前線に張るのではなく、しばしば下がってきたり、サイドに開いたりするよね。これは監督の指示なのか、自分の意思でやっているのか、どっち?
イブラヒモヴィッチ──俺の仕事はすべての攻撃に絡むことさ。基本的にはエリアの中央で仕事するけど、スペースを求めてサイドに開くこともある。もちろん、自分の意思でボールをもらいに下がることもある。特に、相手がべったりと貼り付くようにマークしてくる時は、俺が下がることで相手の最終ラインの形を崩すことができる。そうやって作ったスペースを使ってチームメートがフリーになるチャンスが増えている。俺はチームのために、チームメートのためにプレーできる選手でありたいといつも願っている。俺をゴールのことしか考えない選手だなんて思わないでくれよ。

ミランに加入したことで、ファン・バステンと比較されることが増えたと思うけど、自分では似ていると思う?
イブラヒモヴィッチ──ファン・バステンと俺ね……体格は似ているよな。あと、2人とも若い頃にアヤックスでプレーした。あとはセンターフォワードってこと。でも、共通点はそれぐらいで、言われるほど似ているとは思わないな。いずれにしても、俺はファン・バステンのキャリアを高く評価している。イタリアサッカー史上最高の点取り屋の一人だ。だから、ファン・バステンに似ていると言われることは誇りに思うよ。

『俺は多くのタイトルを勝ち取りたい』

今シーズンの君は今までになかったようなハイペースでゴールを量産している。その理由は何だろう?
イブラヒモヴィッチ──ミランのプレー自体が変わったことがまず挙げられる。俺自身も、エリア内でのプレーは以前より上達したと思う。今の俺を見たら、カペッロは褒めてくれるだろうな。カペッロは、俺がイタリアで最初に指導を受けた監督だ。俺がユーヴェに加入したのはまだ23歳の時で、センターフォワードではあったけど、ゴールを量産するタイプじゃなかった。シーズンでせいぜい10ゴールの選手だったんだ。それでカペッロにはいつも冗談混じりに文句を言われていたよ。「アヤックスでは観客を楽しませるプレーを教わっただけで、点を取る方法を教えてもらっていないのか」ってね。彼は俺の意識を変えるために、あらゆることをやった。「イタリアでは結果が重視される。FWにとっての結果とはゴール数だ」と毎日のように言われ、何百回とシュート練習をやらされたよ。そのおかげでレベルアップできたと思っていたけど、あの猛特訓の成果が本当に出たのは、今シーズンになってからだったみたいだ。どっちにしても、カペッロには感謝しているよ。

君はスクデットは何度も獲得しているけど、チャンピオンズリーグ制覇とは縁がない。そろそろ、ビッグイヤーを掲げる時が来てもいいとは思わない?
イブラヒモヴィッチ──俺は多くのタイトルを勝ち取りたい。もちろん、その中にはチャンピオンズリーグも含まれている。だけど、もしそれができなくても落胆はしない。俺はこれまでの自分のキャリアに満足している。その中には、ユーヴェで勝ち取った2つのスクデットも含まれている。俺たちはピッチ上で無敵だった。ユーヴェでのスクデットは取り消されてしまったが、家にはあの時もらったリーグ優勝の記念メダルを大事に保管しているよ。

だが、君はユーヴェがセリエAへの降格を命じられた時、ユーヴェを去る決断を下した。人々は君がユーヴェを見捨てたと見ている。
イブラヒモヴィッチ──それは心外だけどね。俺はユーヴェを見捨ててはいない。クラブ側から、「どこか他のチームを探してくれ」と言われたんだ。セリエB降格が決まった以上、俺を養うだけの資金的余裕はないということだった。俺だってキャリアの大事な時期を2部リーグで過ごしたいとは思わなかった。それどころか、チャンピオンズリーグに出られないチームに行くのも嫌だったというのが正直なところさ。だから、言われるがままに他の“就職口”を探したんだ。

君はインテルでプレーした3年間でスクデットを3度手にした。だけど、インテルを退団してバルサに移籍した途端に、インテルはチャンピオンズリーグ優勝を果たした。タイミングが悪かったとは思わない?
イブラヒモヴィッチ──どんな選択であれ、俺は後悔なんかしていないよ。俺に後悔なんて言葉は似合わないからね。信じないかもしれないけど、俺にとってはバルサでプレーしたのも良い経験だったんだ。チャンピオンズリーグは逃したかもしれないけど、リーガ優勝を体験できたしね。

君の自伝はその過激な内容で話題になっているみたいだね。でも、君は自分自身を露骨なまでに赤裸々に語っている。そこまでやる必要はあったのかな?
イブラヒモヴィッチ──赤裸々に語りたいと思ったから、自分の名前で本を出したんだよ。俺は、イブラヒモヴィッチという人間がどんなヤツなのか、世間に正確に伝えたかったんだ。相手が自分であれ、手加減はしなかった。すべて率直に説明したつもりさ。

盗みをしたことや、乱闘をしたことまで?
イブラヒモヴィッチ──自分を偽りたくないだけさ。俺には、本当の自分を世間に伝えなきゃいけない事情があった。分かるかい?

どういうことかな?
イブラヒモヴィッチ──俺は見ての通り、品行方正なお坊ちゃまじゃない。だけど、多くの場合、実際に俺がやった行動ではなく、イメージで悪者扱いされている。俺は30歳になった。ミランでプレーしている以上、責任があることも理解しているつもりだ。だけど、世間はそう見てはくれない。多くの人はイメージだけで俺を判断する。そんな状況を放置してはおけないよ。

ミランに来てからも問題を起こしていないわけじゃないよね。練習中にオニェウと大立ち回りをやらかしたんだよね?
イブラヒモヴィッチ──マンマ・ミーア! あれはいいんだよ。弱い者いじめをしたわけじゃないからな。オニェウは俺より大きいんだ。ちょっとした弾みでケンカになって、地面に倒れても取っ組み合いが続いていた。20人がかりで引き離されたら、どっちも鼻血を出していたよ(笑)。サッカーチームでは時には起きることさ。もちろん、必要ってわけじゃないけどね(笑)。

以前の君は、バロンドール受賞に大きな意欲を燃やしていた。30歳になった今、その気持ちに変化はある?
イブラヒモヴィッチ──何が何でもバロンドールが欲しいってわけじゃない。ただ、バロンドールが目標の一つであることは否定しないよ。

ここのところ3年連続でメッシが受賞している。次点になるのはバルサの仲間か、クリスチアーノ・ロナウド。君としては不利なのでは?
イブラヒモヴィッチ──次回もそうなるとは限らないだろ? ミランがチャンピオンズリーグで優勝したらどうなる? 俺への票が増えることは間違いない。誤解されたくはないけど、俺は、自分が最高のパフォーマンスを披露すれば、ミランにはチャンピオンズリーグ優勝の可能性がかなりあると思っている。当然、チャンピオンズリーグは狙っていく。それが実現すれば……バロンドールだって夢じゃない。まあ、その話はもうちょっと先にまたしよう。

チャンピオンズリーグで優勝してユーロ本大会を迎える、というのが君にとってはベストだろうね。ミランだけでなく、スウェーデン代表をヨーロッパの頂点に導くことも、バロンドール受賞への道となるはずだ。
イブラヒモヴィッチ──待ってくれよ。俺は別にチャンピオンズリーグで優勝できるなんて言ってないからな。そうなるように努力するってだけだ。実際のところ、ミランがチャンピオンズリーグで優勝するには“ツキ”が必要になる。スウェーデン代表となるともっと難しい。毎試合のように“奇跡”を連発しなきゃいけないだろうな(笑)。

最後に、目前に迫ったアーセナル戦の抱負を聞いておこうかな。
イブラヒモヴィッチ──難しいゲームになることは間違いない。簡単に勝てるとは思っちゃいないよ。だが、アーセナルだってミランを軽視はしていないはずだ。アーセナルは強敵だけど、俺たちはもっと先まで勝ち上がりたいと強く願っている。こんなところで立ち止まるわけにはいかないよ。昨シーズンの俺たちは、ベスト16でトッテナムに敗れた。同じ失敗を繰り返すことは許されない。チャンピオンズリーグの最低ラインは、前年以上の成績となるベスト8だ。アーセナル戦で負けるなんて絶対に許されないことだ。

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【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

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