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データで読み解くバルセロナ、『メッシではないキーマン』と『バルサ攻略法』とは?

2011.12.15

Text and date Aldo by MACCAGNI, Tlanslation by Mitsuo OGAWA, [写真]=ムツ カワモリ

 世界王者を目指すバルセロナの大会初戦は今夜。クラシコで宿敵レアル・マドリードを圧倒し、満を持して世界一の座をつかみ取りにきた欧州王者の強さはいかほどのものなのか。イタリアで活躍するデータベース・マネージャーが、バルサの強さをデータから読み解く。

 前編の「グアルディオラのバルサはどんなプレーをするのか?」、「バルサの弱点は?」に続き、今回は後編として「バルサの攻守における隙のなさ」、「バルサのキーマンはメッシではなくチャビ」、「バルサ攻略法とバルサの必勝パターン」にフォーカスする。

※参照データは昨シーズンのチャンピオンズリーグ全13試合と今シーズンのチャンピオンズリーグ、11月1日のプルゼニ戦までの4試合の計17試合が対象

■「バルサの攻守における隙のなさ」

 バルセロナの中央からの攻めが強力であることはデータからも説明できる。バルサの全ゴール数のうち、中央からの攻撃によるものは62.0パーセント。全体平均の47.0パーセントを15ポイントも上回る。ドリブル突破もバルサの大きな武器で、一対一のドリブル突破を仕掛ける回数は1試合平均で30回。その成功率(ボールを奪われることなく、次の有効なプレーに至った確率)は実に53.3パーセントを記録する。全体の平均値がそれぞれ20回、45.0パーセントであることを考えると、そのドリブル能力の高さが分かる。

 連動性の高いパスワークを続けていれば、それを追いかけ続ける相手は疲弊していく。同じ距離を走るにしても、自分たちの意思でプレーするのと、相手のパス回しをひたすら追いかけるだけでは、精神的疲労は大きく違ってくるはずだ。心身ともに相手を疲れさせ、優位性を確立していく。これもグアルディオラ戦術の大事な要素と考えるべきだろう。

 また、高い位置からの強烈なプレッシングも今のバルサの大きな特徴だ。彼らがチャンピオンズリーグにおいて、どこでボールを奪ったかを調べ上げていくと、全体の平均値よりも8メートルも相手ゴールに近いことが分かる。「守備でもアグレッシブでダイナミック」であることがデータでも証明された形だ。

 このアグレッシブなプレッシングは、グアルディオラが監督になってから持ち込まれた要素と言える。それまでのバルサは、パス回しには定評があったが、個人技のある大物選手は守備を免除されていて、ボールを奪った場所のデータも平均的なものだった。しかし、今のバルサにそうした“特権”を持つ選手はいない。たとえそれがリオネル・メッシであれ、全選手に献身的な動きが求められる。それが今のバルサであり、グアルディオラの哲学なのである。

■「バルサのキーマンはメッシではなくチャビ」

 バルサのキーマンは誰か? メッシ、チャビ、あるいはカルラス・プジョル……。先に述べた通り、ペップ・バルサではチーム全員が献身的に動いている。チームとしての機能性を武器としている点では、全選手がキーマンと言うべきだろう。ただ、ここではあくまでデータを元にキーマンと呼ぶべき存在が誰なのかを探っていきたい。

 チーム最大のスター選手であり、3年連続のバロン・ドール受賞も視野に入れているメッシ。年々成長を続ける彼は、グアルディオラが監督になって点取り屋としての特徴を強く打ち出すようになってきた。チャンピオンズリーグ17試合でのメッシの平均シュート数は6.1本。これは他のチームも含めたFW全体の平均である2.3本を大きく上回っている。また、ゴール決定率も17.1パーセント(平均は14.4パーセント)と非常に高い数値を示す。

 では、司令塔のチャビはどうか。数字のインパクトで言えば、チャビはメッシをも上回る。チャビのイメージは、ボールをキープして前線を見回し、的確なパスでバルサの攻撃全体をコントロールするものだろう。まずはキープで言うと、チャビの1試合平均のボール保持時間は5分35秒。これはバルサのポゼッションの6分の1にあたる。ちなみに他のチームも含めたMFの1試合平均ボール保持時間は2分19秒だから、チャビはまさに驚異的だ。

 なおも驚くのは、1試合平均のボール喪失率の低さとパスの成功数だ。喪失率とは、ボールタッチの総数に対する、ボールを奪われた割合(パスカットも含む)だが、MFの平均が31.5パーセントであるのに対し、チャビは9.5パーセントしかボールを失っていない。1試合平均のパス成功数に至っては112.7本で、全体平均の34.1本を3倍近く引き離している。この数字を見る限り、バルサの真のキーマンはチャビと言えるのではないだろうか。

■「バルサ攻略法とバルサの必勝パターン」

 さて、最後に現在のバルサを倒す攻略法はあるのかという問題だ。先ほども述べたが、彼らの弱点を見つけ出すのは本当に難しい。ただ、“無敵艦隊”を倒す方法が全くないわけではない。大きく分けて2つの方法があると私は考える。

 まず一つめの方法は、自軍ゴール前30メートルのエリアに11人の選手すべてを集結させ、徹底的に守備を固めるというものだ。まずは、自陣で彼らに思うようなサッカーをさせない。そして、ボールを奪ったらすぐにカウンターでバルサのゴールに突進する。この方法を実践してバルサを撃破したのは、一昨シーズンのチャンピオンズリーグ準決勝で対戦したインテルだった。当時、インテルを率いていたジョゼ・モウリーニョのその戦術は「カテナッチョの再来」と揶揄され、組み立てることを放棄して壊すことに専念する「アンチ・フットボール」の姿勢が批判されたりもしたが、絶対的な優勝候補だったバルサを打ち破ったことは紛れもない事実だ。

 もう一つの方法は、そこまで守備に徹せずとも、中盤から徹底的にバルサの選手にプレッシャーをかけ、彼らのパスサッカーを無力化することだ。ただ、バルサのパスワークを中盤で分断することは、口で言うほど簡単ではない。ゾーンで守ればそのギャップを巧みに突かれるし、マンマークすれば流動的なフリーランニングで引き剥がされる。

 中盤でのハイプレス合戦に持ち込む上で大事なのは、きれいなサッカーをしようとしないこと。単なるプレスではなく体格での優位を生かしてバルサの選手たちをパワーで圧倒することが望まれる。ボールを奪えないとしても、激しいプレッシャーを連続して行うことでバルサの精密機械のような連動性を狂わせる。高い集中力と忍耐が求められるが、その2つが噛み合えばバルサを止めるのも不可能ではない。

 ただ、それでもバルサに勝つのは簡単ではない。これまで多くのチームがこのプレス勝負に挑んだが、結末はほぼ同じだ。時間が経過するごとに消耗が激しくなり、バルサがトップギアに入ったところでパスワークのスピードに対応し切れなくなる。17試合でのバルサの総得点のおよそ6割が後半に挙げられたものだが、その数字が、彼らの“必勝パターン”を少なからず示している。

【浅野祐介@asasukeno】1976年生まれ。『STREET JACK』、『Men's JOKER』でファッション誌の編集を5年。その後、『WORLD SOCCER KING』の副編集長を経て、『SOCCER KING(twitterアカウントはSoccerKingJP)』の編集長に就任。『SOCCER GAME KING』ではグラビアページを担当。

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