2014.11.11

“ムッシュ”リュディ・ガルシアは、ローマに14季ぶりのスクデットをもたらせるか

[ワールドサッカーキング12月号掲載]

2013年夏、イタリアへやって来たローマ初のフランス人監督は、わずか1年余りでチームをスクデットの有力候補へと押し上げた。高い手腕とその人柄で周囲の信頼を集める“ムッシュ”が、“永遠の都”ローマに14シーズンぶりの歓喜をもたらす。
AS Roma - Fiorentina
文=弓削 高志
写真=ゲッティ イメージズ

人々の心をつかむ人間味と柔軟性

 ローマを率いて2年目のリュディ・ガルシアは、“永遠の都”の人々の称賛と敬愛を一身に享受している。2000-01シーズン以来のスクデット奪回のカギを握るのは、クラブ史上初のフランス人指揮官だ。

 引き締めた口元からは、フランス流の皮肉めいた言い回しが飛び出すことも多い。だが、それでもガルシアからキザな印象を受けないのは、彼の柔らかい物腰の陰に、指導者としての信念と人間味が見え隠れするからだろう。

「昔と比べて、私は指導者として変わった。かつては、それこそ多くの同業者のように1日24時間、サッカーのことばかり考えていた。だが、人生には大事なことがたくさんあると気づいた今のほうが、ずっと良い指導ができていると思う」

 2年前の夏、ローマは疲弊し切っていた。経営陣は大きく変わったが、なかなか結果が出ない。選手たちは毎年変わる監督たちとの間に信頼関係を築けなかった。だが、フランス国外で初めて指揮を執るガルシアには何のしがらみもなかった。イタリア流を尊重しつつ、選手たちの意向を汲みながら自身のメソッドを柔軟に運用した。ハードトレーニングが慣例だった夏のキャンプも「10日間以上の合宿は必要ない」とばっさり短縮。彼の根底には、個人としての選手への深い信頼がある。

 ベテランたちの声に耳を傾けつつ、若手を抜擢して守備陣を立て直した。テクニックを備えた選手たちに前線と中盤を託し、攻撃サッカーでセリエAを席巻した。昨シーズンはローマ・ダービーでの勝利を含む破竹の開幕10連勝を飾って、最終的にリーグ2位でフィニッシュ。4年ぶりにチャンピオンズリーグ出場権を勝ち取っただけでなく、コッパイタリア準々決勝では国内最強のユヴェントスをも撃破した。選手にも上層部にも、そしてスタディオ・オリンピコのクルヴァ・スッド(熱狂的なロマニスタが陣取る南側ゴール裏席)にも、現指揮官の手腕を疑う者はもはや皆無だ。

母国で実績を積み上げ、永遠の都の指揮官へ

AS Roma v Hellas Verona FC - Serie A

 母国でさしたる成績を残せないまま、ガルシアが現役生活に別れを告げたのは28歳の時。しかし、10歳にも満たない幼少期から、“スッブテオ”と呼ばれる卓上サッカーゲームで日夜戦術研究に明け暮れていた彼は、指導者への転身をためらわなかった。大学でスポーツ分野の学位を取り、アマチュアチームで地道に経験を積んだ。1999年にアスレチックトレーナーとしてサンテティエンヌで採用された後、研究熱心さが目に留まり、チームの戦術アナリストになった。更には副監督へ昇格と、次々に肩書きを上書きしていった。

 ディジョンとル・マンで指導者キャリアを積むと、08年にはリールの監督に就任。これがガルシアにとっての転機となった。11-12シーズンにフランスカップとリーグ・アンの“ダブル”を達成し、欧州サッカー界で名を馳せるフランス人監督としてアーセン・ヴェンゲル(アーセナル)やローラン・ブラン(パリ・サンジェルマン)に続く新潮流の担い手として頭角を現した。今やヨーロッパ中が、ガルシアと彼が率いるローマを注視している。

 初めてのセリエA挑戦には、ピッツェリアでの特訓が効いた。ローマから監督就任の打診を受けた際、ガルシアはリールで行きつけだったピザレストランに慌てて駆け込み、店主のジルベルトに頼み込んで個人レッスンに励んだ。その結果、今や指揮官の受け答えにフランス語のアクセントはほとんど残っていない。

「監督のサッカーをチーム全員が理解している。一人ひとりが自分のタスクを遂行し、穴があればそこを埋める。チーム全体で相手に差をつける。これこそ、ガルシア監督がもたらしたローマの新しいスピリットさ」

 チームの中盤を司るミラレム・ピアニッチは、ガルシアの指導と人柄にほれ込んだ一人だ。「監督と一緒にタイトルを取る」と言い切り、今年の夏も数々のビッグオファーを断っている。

 だが、スクデットを争う3連覇中の王者ユヴェントスの牙城は容易には崩れない。トリノでの直接対決では、荒れた展開の末に2-3で敗れた。試合中、ユーヴェへ与えられたPK判定をいぶかしんだガルシアは、主審のほうを向くと、澄ました顔でバイオリンを奏でるジェスチャーをした。退席処分と引き換えに“いつもと同じ(ユーヴェ贔屓の)メロディだな”という、皮肉たっぷりのポーズを見舞ったのだ。

 試合後の論争を経て、ガルシアの言葉には更に力がこもる。「このチームは私の誇りだ。ユーヴェと実際に手合せしてみて、ウチのほうが強いと確信した。スクデットを取るのは、我々ローマだ」

 王者ユヴェントスもヨーロッパの列強クラブも決して恐れない。永遠の都のフランス人指揮官は、ニヒルに、そして果敢にタイトル獲得に挑む。

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