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“ドイツの至宝”ゲッツェが下した最大の決断…別れの先に待つ新たな栄光へ

2013.08.02

[ワールドサッカーキング0815号掲載]

ドルトムントで育ったマリオ・ゲッツェが下した「辛い決断」は、更なる成功を目指す向上心の現れだ。新たなクラブ、新たな仲間、そして新たな指揮官とともに、ドイツサッカー界の“至宝”が新たな栄光へと歩み出す。
ゲッツェ
文=トーマス・ツェー Text by Thomas ZEH
翻訳=阿部 浩 アレクサンダー Translation by Alexander Hiroshi ABE
写真=ゲッティ イメージズ Photo by Getty Images

 ドイツサッカー界の“至宝”マリオ・ゲッツェは今年、恐らく自身のキャリアにおける最大の決断を下した。

「本当に辛い決断だった」

 バイエルンへの移籍が決定してから約3カ月経った今も、当時を振り返る彼の表情はどこか悲しげだ。

 8歳で黄色と黒のユニフォームに袖を通し、17歳でトップデビュー。ドイツ屈指の名門でレギュラーに定着し、2010-11シーズンからは2シーズン連続でマイスターシャーレを掲げた。「ユース時代も含めてほぼすべての時間をドルトムントで過ごした」という彼にとって、移籍という決断は簡単なものではなかったはずだ。ミュンヘンへ移り住んだ今も「心のクラブ」と公言するドルトムントへの思いを隠すことはない。

 しかし一方で、バイエルンへの加入は紛れもなくゲッツェ本人の“願い”だった。愛するクラブへ感謝を示しつつ、「後ろを振り返ることはない」と語る彼は、既に新天地での飛躍を視界に捉えている。

「これから新しい物語が始まるのさ」

 3冠を達成した王者を更なる高みへ導くためにやってきた“天才”が、その思いを打ち明ける。

サッカーの世界に移籍はつきもの

――衝撃の入団発表から約3カ月が経った。改めてバイエルンに入団した理由を教えてほしい。なぜ国外のクラブではなく、ドルトムントのライバルへ移籍したんだい?

ゲッツェ 以前から、叶えたいと思っていたことがあった。一つは「世界一のクラブでプレーすること」。そしてもう一つは「大きなチャレンジに挑むこと」。この2つの願いを叶えられる唯一の方法が、バイエルンへの移籍だった。クラブの理念や運営方針、チームメートや監督、そして将来性を考えても、すべてがバイエルンに集約されていると感じたんだ。

――メミンゲン(ドイツ南西部)生まれの君は、同じバイエルン州のミュンヘンへ移り住んでも違和感を感じることなく生活できそうだね。

ゲッツェ うん。祖父母はまだメミンゲンに住んでいるし、ミュンヘンは東へ100キロほどしか離れてない。それに今は弟のファビアン(3部リーグのウンターハヒンクに所属)と一緒に住んでいるから、ミュンヘンでの生活に何の不自由も感じていないよ。

――バイエルンと契約に至った経緯を改めて教えてほしい。

ゲッツェ シャフタールとのチャンピオンズリーグ(CL)準々決勝の後、バイエルンがドルトムントと移籍金(3700万ユーロ=約48億円)の面で合意に達したんだ。だから僕はチームのみんなに「移籍することになった」と伝えた。とてもシンプルな出来事だったよ。

――退団を決めた時はどんな気持ちだった?

ゲッツェ 本当に辛い決断だった。僕はユース時代も含めてほぼすべての時間をドルトムントで過ごしてきたからね。クラブとは強い絆で結ばれている。常に心にあるクラブだと言ってもいい。ただ、いつまでも過去にとらわれるつもりはないよ。友人にはちゃんと別れを告げたし、気持ちは切り替わっている。これから新しい物語が始まるのさ。後ろを振り返ることはない。

――ユルゲン・クロップ監督は残念がったことだろうね。

ゲッツェ そうだね。僕自身もとてもやるせない気持ちになったよ。繰り返しになるけど、移籍が決まるまではドルトムントのために全身全霊を込めてプレーしてきた。だけど、サッカーの世界に移籍はつきものなんだ。誰もがキャリアアップを願い、最高の結果を出したいと思っている。僕の場合は、その到着点がバイエルンだったということさ。

――ウェンブリー・スタジアムでのCL決勝は、君にとって新旧クラブの対決となった。残念なことに君はケガで出場できなかったけど、どんな気持ちで観戦していたのかな?

ゲッツェ その時はまだドルトムントとの契約下にあったから、当然チームを応援していたよ。ただ正直なところ、応援というよりもピッチで一緒に戦いたい気持ちが強かったことを覚えている。

グアルディオラから学ぶことは多い

――晴れてバイエルンの一員になったけど、新しいチームに合流した初日はナーバスになったんじゃない?

ゲッツェ もちろん、最初は緊張したよ。練習場やクラブハウスはドルトムントより何倍も大きいし、メディアの数も以前とは比較にならないほど多かったからね。でも「ナーバス」って表現は正しくない。新しい環境に来たら、みんながそうなるものさ。緊張はしたけど、僕の場合は気持ちが落ち着くまで時間は掛からなかった。チームメートの半分がドイツ代表で顔なじみだったことも大きかったと思う。

――最初はケガもあって、思うように練習に参加できなかったみたいだね。

ゲッツェ そうなんだ。イタリアのリーバ・デル・ガルダでトレーニングキャンプがあったんだけど、練習への参加を許してもらえなくてね……。ドクターと一緒にミュンヘンへ引き返すはめになったよ(苦笑)。それからはひたすらジョギングとランニングのメニューを消化した。もっとも、その成果もあって徐々に回復してきている。この調子で早く万全のコンディションを整えたいと思っているよ。

――バイエルンで一番仲がいい選手は誰なんだい?

ゲッツェ トニ・クロースかな。年齢が近いし、2人とも若くしてプロの世界で戦っている。代表でも一緒にプレーしているしね。僕のロッカーはフランク・リベリーの隣なんだけど、トニはこうアドバイスしてくれたんだ。「気をつけろよ。アイツは必ずいたずらを仕掛けてくるからな」ってね。何かとんでもない悪ふざけをするみたいだよ(笑)。彼のおかげで今のところ被害には遭ってないけどね。

――ジョゼップ・グアルディオラ監督の最初の印象は?

ゲッツェ とてもポジティブで明るい。それに、選手のやる気を刺激するのがうまい。彼のサッカー哲学をちょっと知っただけで気持ちが前向きになるんだ。普段はとても落ち着いていて、どの選手にも平等に接しているし、全員のことをよく知ろうと努めている。権威を振りかざすようなことはないし、恐怖でチームをコントロールしようとするタイプの監督でもない。選手を信頼して話をしてくれるから、僕らも「この人のためなら」と思わずにいられない。グアルディオラから学ぶことはとても多いよ。

――もうグアルディオラ監督とは十分にコミュニケーションが取れているみたいだね。

ゲッツェ 彼はとても気を遣って話してくれるからびっくりしている。「調子はどうだ?」、「環境には慣れたか?」、「ケガの回復を焦る必要はない」という感じで、選手の立場になって考えて、声を掛けてくれるんだ。

ライバルクラブへの電撃移籍は「本当に辛い決断だった」としながらも、バイエルンでの新たな物語を心待ちにするゲッツェ。新シーズンへの意気込みは、ワールドサッカーキング0815号でチェック!

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