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【インタビュー】香川真司、2年目の決意「より一層チャレンジしていく」

2013.07.23

昨夏、名門マンチェスター・ユナイテッドの一員となり、スター集団の中、加入1年目にして堂々たる活躍を披露。しかし、本人に慢心はない。「より一層チャレンジしていく」

インタビュー・文=岩本義弘 写真=鷹羽康博

 ドルトムントのリーグ2連覇に大きく貢献し、マンチェスター・ユナイテッドへとステップアップを果たした香川真司。さらなる飛躍を期待された昨シーズンのリーグ戦成績は20試合出場6ゴール4アシスト。同じく昨夏加入したロビン・ファン・ペルシーが得点王を獲得したため、その活躍ぶりはややかすんで見えた。しかし、負傷により約2カ月間離脱していたことを考えれば、まずまずの結果と評価すべきだろう。

 第28節ノリッチ戦ではアジア人初となるハットトリックも記録。昨年8月、今年5月とクラブの月間MVPにも2度選出され、ある程度のインパクトを残した。昨シーズン限りで退任したクラブの英雄、アレックス・ファーガソン前監督も「来シーズンはさらに活躍できる」とその能力に太鼓判を押す。それに呼応するように本人も“勝負の2年目”を前に強い決意を見せる。「来シーズンはより一層チャレンジしていく」

イメージ通りの得点、自分の形を示せた

――マンチェスター・ユナイテッドに加入して1年目にプレミアリーグ優勝を達成しました。率直な感想を聞かせてください。

香川真司 リーグ優勝というのは、みんなで1年間ともに戦った結果で、タイトルを目指して戦った結果として勝ち取れたことはうれしかったです。

――優勝が決まって、家族や友達からはどんなメッセージが届いたんですか?

香川真司 「3連覇できて良かったね」というメッセージは印象に残っています。ドルトムントで2連覇して、続けてユナイテッドでも優勝できたのでそういう言葉をもらったりしました。自分自身も3年連続でリーグ優勝できてうれしいですけど、今シーズンは課題の残る1年だったので、悔しい気持ちと半分半分という感じですね。

――ユナイテッドでの1年間はあっという間でしたか? それとも長く感じましたか?

香川真司  いつもそうなんですが、年明けからシーズン終了まではすごく長く感じました。今年もそうかなって思いましたけど、思い返すと比較的早くシーズンが終わっちゃったなっていう感じもありますね。

――世界屈指の人気を誇るホームスタジアム、オールド・トラッフォードでプレーしてみてどんなところが素晴らしいと感じましたか?

香川真司 サポーターの声援やあの独特の雰囲気がチームの力になるんだと感じています。今シーズンは逆転勝利する試合が多かったですけど、例えば0─1で負けていて1点を返して追い付いた時にサポーターが作り出すスタジアムの雰囲気というのは、明らかにチームを勢い付けますし、2点目がすぐにでも入るんじゃないかという気持ちになる。スタジアムの一体感はすごいですね。一方でサポーターが一つひとつのプレーをシビアに判断するというか、彼らが選手にしか分からないようなプレーをよく理解しているというのは感じます。

――それはサッカー選手にとってうれしいことですよね?

香川真司 そうですね。プレーをちゃんと理解した上で拍手してくれたり、逆にブーイングが起きたりするので、サッカー選手にとっては良い舞台だと思います。オールド・トラッフォードには世界中からファンが見に来ていて、それだけにファンが求める理想も高いですし同時にサッカーを理解しているので、プレーする側にとってはすごく楽しい場所です。

――客席とサポーター席の近さはどうですか?

香川真司 プレミアリーグはどのスタジアムもそうですけど、すごく熱狂的な雰囲気があるので好きですね。ゴールを決めた時もサポーターと一体になれるし、本当に最高の環境です。

――リーグ第28節ノリッチ戦では見事なハットトリックを決めましたね。

香川真司 ハットトリックを決めるというのはすごい難しいことですし、想像もしていませんでした。そういう意味でオールド・トラッフォードで決められたハットトリックというのは自分の中ではすごく印象深い出来事ですけど、そういう点に絡める試合をもっともっと増やして継続していかなければなとは思います。

――3点目につながるファーストタッチは意図的にあれだけ大きく出したんですか?

香川真司 はい。自分の良さでもある前を向いた状況でのファーストタッチでうまく仕掛けることができました。

――世界のトッププレーヤーでもワンタッチであそこまで大きく出す選手はほとんどいないと思います。そのままドリブルしたり、トラップしてシュートを狙ったり、というのはよく見ますが。日頃からああいうプレーを練習しているんですか?

香川真司 そうですね。本当にあのプレーはイメージ通りでしたし、自分の形を示せたゴールだったと思います。練習というか、いつも意識はしていますね。ただ、自分がスピードに乗ってゴール前でボールを受けられるのは1試合に1回あるかないかですし、そういうチャンスを生かせたのは良かったです。

――あの3点目を決めた時の気持ちを改めて教えてください。

香川真司 さっきも言った通り、まさかハットトリックできるとは思っていなかったので、すごくうれしかったです。ケガで離脱してからゴールを決めていなくて、そういう意味もあってみんなが祝ってくれましたし、ありがたかったですね。

――そのノリッチ戦でも良い連係を見せていましたが、ウェイン・ルーニーは香川選手のプレーや感覚を一番理解していてかなり相性がいいように見えます。ご自身はルーニーとのコンビネーションをどう感じていますか?

香川真司 本当にすごい選手だと思います。彼は僕だけじゃなくて周りの選手を常に見てくれているし、選手個々の特長をすぐに把握してどんな選手ともマッチする。チームメートの特長を理解した上で瞬時にいいパスを出しますし、どういう動きをしたい、させたい、というのを選手によって合わせられる。味方と自分の両方を高いレベルに持ち上げてくれる数少ない選手で、僕自身も何度もうまく生かしてもらいましたし、プレーしていて楽しかったですね。

――香川選手もチームメートにうまく合わせられるタイプの選手ですが、それはプレーをよく観察して身に付けたものなんですか?

香川真司 うーん、どうなんですかね。やっぱり自分のプレースタイルと似てる雰囲気やスタイルを持った選手とは合わせやすいですね。だからといってその選手としか合わせられないようじゃ高いレベルで戦えないですし??。いろんなタイプの選手がいる中で、いかに高い次元のコンビネーションを生み出せるか、お互いの良さを出せるか、というのが大事なのは間違いないですね。僕自身ももっと味方のプレーを知る必要がありますし、逆に知ってもらうことも必要だと思っています。

――新シーズンは監督も変わりますし、選手も入れ替えがあると思います。これまで以上に活躍するためにもチームメートの特長を把握するのがポイントになってきますね。

香川真司 そうですね。やっぱり特長を把握してその選手を生かしたり、それにプラスしてその選手から良いプレーを引き出してもらう。本当に生かし、生かされるっていうのは絶対必要なことなんで、その連係をもっともっと深めていけるようにしたいですね。

デンベレはすごく印象に残っている

――昨シーズンは本職のトップ下だけでなく左サイドで起用されることが多かったですが、サイドでプレーしてみて一番難しかったのはどういう点ですか?

香川真司 サイドでのプレーは難しく捉えていなかったですし、実際難しいとは感じませんでした。というのも、周りにレベルの高い選手がそろっていて、攻守において彼らにすごくサポートしてもらったので。なので、そこまで苦しいとか感じることはなく、逆にどうやって崩すかということだったり、どうやって攻撃を組み立てるかっていうことを楽しみながらプレーしていました。

――試合によってはサポートが受けられない試合もあったと思います。例えばチャンピオンズリーグ(以下CL)の試合ではチームとしてなかなかボールを前に運べず、前線で孤立してしまう場面もありました。そういう時はどういうプレーをしようと心掛けていますか?

香川真司  前線へ運ぶための工夫や孤立しないような動きが必要だと感じますし、そのためにも自分自身のレベルアップが必要だと思います。自分はチームのコンビネーションの中で生きるタイプで、相手に押し込まれると攻撃が単調になったりして孤立してしまうことがあります。そういう時に「身体能力に優れた選手やパワーがある選手のほうがいい」と周りから言われるようじゃダメですし、もっと上のステージで戦っていく上でも、ボールをキープする力や当たり負けしないフィジカルを身に付けることが大事だと感じています。

――ユナイテッドではトップ下と左サイドの他にも、右サイドやボランチなど様々なポジションでプレーしました。自分にとってベストだと思うポジションはどこですか?

香川真司 自分が好きだったり、自分が一番生きるのではないかなと思うのはトップ下です。ドルトムントで経験できたことも大きいですし、いつもプレーしているポジションなのでやはりベストだと。ただ、ユナイテッドは選手層が厚いクラブなので、どんなポジションでもできる選手にならないといけないと思っています。だから、どのポジションで出ても、そこで常に結果を求めてプレーしています。

――ドルトムントのユルゲン・クロップ監督は度々、「ユナイテッドはまだ真司を生かし切れていない」と発言していますが、それについてはどう思いますか?

香川真司 すごくありがたい言葉ですね。ドルトムントを離れた後も、クロップが常に自分のことを見てくれているというのはうれしいです。戦術やサッカー観も含めてすごく大好きな監督ですし、そういう方に評価していただけるのは本当にありがたいことだと思います。ただ、自分は今、ユナイテッドでプレーしていますし、出場時間やポジションに関係なく結果を残さないといけないと思っています。

――確かにユナイテッドで結果を残すことが大事ですが、とはいえ、クロップ監督がチームを離れた選手をここまで気に掛けているのはとても珍しいことですよね。

香川真司 そうですね。クロップはヨーロッパでも注目されている監督ですし、実践しているサッカーのスタイルも高く評価されています。チームもCL決勝まで勝ち上がりましたし、そういう監督に見てもらえているのはやはりうれしいです。

――クロップ監督率いるドルトムントでは2年間プレーしましたけど、プレミアリーグで1年間プレーしてみて、ブンデスリーガとどういうところに違いを感じましたか?

香川真司 プレミアリーグのほうがフィジカルが強いかなと感じました。それと個人個人の能力も高いですね。特に一対一の場面でそのレベルの高さを感じますし、質の高い選手が多いと思います。一方でブンデスリーガは個人個人というより組織力の高さを感じました。あとプレミアリーグは上位チームの実力差があまりなく競争力が高い印象がありますね。

――ブンデスリーガでは約1カ月のウインターブレイクがありましたが、プレミアリーグは試合数が多くウインターブレイクがありません。その違いは大きいと思いますが、シーズンの過ごし方も変わったのではないでしょうか?

香川真司  そうですね。ドルトムントではウインターブレイクの1カ月のうち、2週間弱は日本に帰ってリフレッシュし、後半戦に向けて気持ちを切り替えていました。ですが、ユナイテッドではそれができないので、普段の生活からメリハリを付けています。それに、オフ自体はドルトムント時代より多いので、休む時は休むというオンとオフの切り替えをしっかりするようにしています。

――ではリーグではなく、ユナイテッドとドルトムントとの違いはいかがでしょうか?

香川真司 ドルトムントは若手が多かったので、チーム一丸となってハードワークして勝利を目指していました。一方、ユナイテッドは多くのタイトルを獲得していたり、ビッグゲームをたくさん戦っていたりする経験豊富な選手がたくさんいるので、チームとしての経験値の差は違うなと感じました。それと選手一人ひとりのポテンシャルが高くて、その能力の高さを生かしたサッカーをしているイメージがあります。ファン・ペルシーやルーニーといった世界的なストライカー、優秀なサイドアタッカーがそろっているのもチームの武器ですね。

――プレミアリーグはフィジカルの強さだけでなく、レフェリングの厳しさも話題に上がりますね。

香川真司  フィジカルの強さは本当にプレミアならではですね。レフェリングについても多少は感じます。「えっ」という判定もありますから、その点ではドイツの審判のほうが好きですね(苦笑)。

――マッチアップした選手の中で、特に印象に残った選手はいますか?

香川真司 トッテナムの(ムサ)デンベレはすごく印象に残っています。圧倒的なフィジカルを備えていて、その上で前への推進力、ドリブルやパス、フリーランニングにしてもすごい勢いを感じました。本当にすごい身体能力で、マッチアップして一番苦労しました。他にマッチアップした選手以外でも気になった選手はいますか?

香川真司 チェルシーの(フアン)マタはすごくいい選手ですね。ゴールに直結するプレーができて、たくさんのチャンスを生み出していますし、得点やアシストといった結果もしっかり残しています。彼は常にゴールにつながるプレーを考えていて、その選択肢の幅がすごく広いので、僕も見ていて勉強になりますね。

チャンピオンズリーグでどこまで行けるか楽しみ

――香川選手をユナイテッドに引き抜いたファーガソン監督が昨シーズン限りで勇退しました。サッカー界で一時代を築いた名将である彼は香川選手について「2年目はもっと活躍できる」と度々発言しています。これについてはどう思いますか?

香川真司 監督の言うようにやっぱり1年目より2年目、2年目より3年目と、どんどん、どんどんレベルアップしていきたいですね。自分自身に期待していますし、もっとこのチームに自分の色を、スタイルを、それに存在感を出せるようにしていけたらいいなと思います。

――ファーガソン監督とはシーズン最終節の後に一対一で会話されたそうですが、具体的にどんな話をされたんですか?

香川真司  監督の部屋に呼ばれて、まずは「チームに来てくれてありがとう」と改めて言われました。その後、監督が辞めるまでの経緯などについて聞いて、最後に自分について「ファンタスティックなプレーヤーだ」とか、「来シーズンはさらに活躍できる」とか、いろいろ言っていただきました。あれほどの監督がそういう言葉を発してくれるっていうのは選手にとって本当にありがたいことですし、彼の下で1年間プレーできたのは自分にとって素晴らしい経験でした。

――ファーガソン監督の後任となるデイヴィッド・モイーズ監督にはどんなイメージを持っていますか?

香川真司 エヴァートンのサッカーは「フィジカルのサッカー」と言われていますけど、監督もメンバーも変わって、ユナイテッドに元々ある組織やサッカースタイルもあるので、どういうサッカーになるかは読めないですね。ただ、どんな要素をチームに採り入れるかとか楽しみな部分はもちろんあります。

――モイーズ監督のサッカーの一つの特徴としてトップ下を置くフォーメーションをよく採用しています。香川選手にとっては持ち味を発揮しやすいかもしれません。

香川真司 さっき言った通り、トップ下は自分が一番生きるポジションであるのかなとは常に思っています。そこで結果を残さないといけないですし、ユナイテッドのトップ下でもやっていけるという自信を得られたので、そこは自信を持って臨みたいと思っています。

――来シーズンの目標はまず試合に出て勝つことだと思いますが、その中でも特に重要視しているタイトルであったり、ポイントだったりっていうのはありますか?

香川真司 すべてのタイトルを求められるチームなので、どの試合にもチャレンジしていくというのは大前提として、その中で新シーズンはCLでどこまで行けるのか、というのは楽しみにしています。世界最高峰の舞台ですし、昨シーズンは決勝ラウンド1回戦で負けてしまったので。

――ドルトムント時代もCLではなかなか勝ち上がることができませんでした。やはり国内リーグ戦などとは何か違うのでしょうか?

香川真司  やはりホーム&アウェー方式で違う国で試合をするっていう難しさはありますけど、ただ同時に新鮮さもあって楽しさもあります。でもやっぱりラウンドが進めば進むほどレベルが高くなってきて、厳しい戦いになるっていうのはすごく感じますね。そこで勝ち上がっていくためにも、来シーズンはより一層チームとしても個人としてもチャレンジしていきます。

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