2013.06.11

モウリーニョの人材供給源となるか。来日したチェルシーユース指導者に聞く

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 イングランドのFAユースカップと言えば、若手選手の登竜門として知られる大会だ。過去、数々の名選手がこの大会で活躍し、スターへの階段を上ってきた。例えば、1990年代にマンチェスター・ユナイテッドの黄金期を築いたデイヴィッド・ベッカムたちの世代は、トップチームでプレーする前に1992年のFAカップを圧倒的な強さで制し、注目を集めていた。

 そのFAユースカップで近年、最も好成績を挙げているチームが、実はチェルシーだ。2010年と2012年の同大会で優勝を果たし、2013年は準優勝。ユース年代の大会ゆえに話題になりにくいものの、過去にDFジョン・テリーを輩出したことで知られるこのアカデミーは、この数年で目覚ましい成果を残している。20歳のMFジョシュ・マクエークラン(昨シーズンはミドルスブラにレンタル)や、すでにトップデビューを果たした18歳のMFネイサン・アケを筆頭に、将来有望なヤングタレントを次々と生み出しているのだ。

 そんなチェルシーアカデミーから指導のヒントを学べるクリニックが、5月下旬に大阪府のJ-GREEN堺で開催された。「チェルシーのFC技術、情熱すべてをキミに」というスローガンを掲げる『adidas Chelsea FC Clinic 2013』。これはチェルシーで実際に指導に当たった経験を持つコーチ陣が、日本の子供たちを直接指導するクリニックである。近年、イングランドで最も成功しているチェルシーアカデミーのメソッド、方法論とはどのようなものなのだろうか。クリニック終了後、来日したコーチ陣を統括するヘッドコーチ、スティーブ・ウィネット氏に話を聞く機会を得た。

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――このクリニックの目的とは?
ウィネット氏 これは我々だけの力で実現したプロジェクトではありません。アディダスのサポート、そして世界各国で我々を助けてくれるスタッフのサポートがなければ、このような機会はなかったでしょう。チェルシーとアディダスがタッグを組み、我々チェルシーの持つ知識や哲学、そして育成年代に役に立つユニークなプログラムをグラスルーツのレベルで伝えていく、それが我々の目的です。

――日本の子供たちを指導して、どう感じましたか?
ウィネット氏 とても充実したトレーニングができたと思っています。日本の子供たちは足元のテクニックが高く、創造性があり、素晴らしい情熱を持っていると感じました。クリニックは短い時間でしたが、できればもっと彼らを見たいと思いました。

――ユニークなメニューが多かったように思いますが、これはチェルシーのアカデミーで実際に採用しているトレーニングメソッドなんですね。
ウィネット氏 そうです。参加者のレベルや年齢によって柔軟に組み合わせていますが(今回のクリニックは小学生から高校生までの年代で実施)、我々は世界的に一貫したコンセプトにもとづき、各国で指導を行っています。

――そのコンセプトとは、具体的にはどういう点が特長でしょうか。
ウィネット氏 まず、アグレッシブで攻撃的であること。それから、戦う姿勢を表現することです。ですから、クリニックのプログラムにもその点を考慮しています。より高いレベルでは、スピードやパワーを含めた総合的なフィジカルの強さも重要ですね。もちろん、フットボールのスタイルは時代によって変化していくものですが、少なくとも現代のフットボールでは、スピードやスタミナを含めた高いレベルのフィジカルが求められるようになっています。特にプレミアリーグではそれが顕著です。

「クリニックは日本の子供たちとのコミュニケーションに重点を置いている」とウィネット氏が言うように、当日のトレーニングセッションは終始なごやかな雰囲気と笑顔の中で行われた。だが、実際に高校生年代のクリニックで行われたメニューを見ると、攻守を切り替えるスピードと状況判断、そして積極的なチャレンジを意識づけるメニューが多く組まれていた点が印象的だ。

 例えばシュート練習なら、シュートを打った選手がすぐに守備側に切り替わって次の選手のシュートを防ぎ、さらに次の局面ではまた攻撃側に回る。局面が目まぐるしく切り替わる中で、考えながら動くことを意識させる。さらに、守備側が緩慢な動きで突破を許せば、コーチから「本気で守れ! もっと激しく当たれ!」という声が飛ぶ。球際の激しさ、攻守のスピーディーな切り替えとハードワークが強調されている点は、やはりプレミアリーグのクラブならではのトレーニングメニュー。一流のクラブのトレーニングの一端を垣間見ることができたのは、参加した子供たちだけでなく、取材者にとっても滅多にない貴重な機会となった。

 来シーズンからジョゼ・モウリーニョが監督に復帰し、期待感が高まっているチェルシー。この夏は戦力を整え、新チームを構築する重要な時期に当たる。その中に、優れたアカデミーから育った逸材たちがどのように組み込まれ、新たなサイクルを形成していくのか。来シーズン以降のチェルシーの大きな見どころの一つとなりそうだ。