2012.09.21

日本サッカーの未来を日本人よりも深く考えて ゼムノビッチ・ズドラブコ(千葉県サッカー協会テクニカルアドバイザー)


「最初に見た日本のサッカーと今の日本のサッカー、だいぶ違います。日本のサッカー、たぶん世界で一番成長したんですね。この20年の中で」

 1993年のJリーグ開幕以降、急激に成長した日本のサッカーをこう評する。欧州のサッカーと日本のサッカーの両方を深く知るからこそ、過大評価とも思われかねない言葉も不思議と説得力を持つ。

 ゼムノビッチ・ズドラブコさんは、監督として母国ユーゴスラビアで3つのクラブを指揮し、5シーズン連続でリーグ優勝を成し遂げた。日本でも清水エスパルスを率いて2001年に天皇杯を制しており、指導者としては充実したキャリアを誇る。

 日本のサッカーに最初に触れたのは今からちょうど20年前。1992年、イビチャ・オシムさん率いるパルチザン・ベオグラードのスタッフとして初来日した。初めて見た時の印象は“スピードが怖い”だったという。「印象っていうのは、オシムさんといつも話してる。日本のサッカー、スピードある。怖いですよ。スピードのあるプレーを止めるのはね、なかなか難しいですよ。こっち、同時に出るともうこれ、戦術はないんですよ。スピードある選手は嫌ですよ」

 ちょうど20年前、すでに日本人選手の特長を見抜き、以降の成長を予測していたようだ。「この考え、オシムさんも同じね。スピードのある選手、あとはディシプリンとか一生懸命最後まで頑張るとか、日本の特長だから。『これはいいサッカーができる』って、僕もそう思ったんですよ」

 予想は見事に的中。93年にはJリーグが開幕、日本代表は98年以降ワールドカップに4大会連続で出場と、日本サッカーは右肩上がりの成長を遂げる。飛躍的な進化における最大のポイントは、日本人選手が海外でプレーするようになったことだと語る。

「昔はたくさん選手が行ったけど、成功したのは中田英寿と中村俊輔くらいね」と語る一方で、ここ数年で海外移籍を果たした選手の評価は高い。「最近はインテルの長友がいて、香川がドイツで優勝して、今度世界トップのマンチェスター・ユナイテッドのメンバーになって。他の選手も自分のチームでちゃんと出場できるから、本当に日本のサッカーは20年の中ですごいアップ」


 この約20年で日本サッカーのレベルが上がった背景には、まず競技人口の増加がある。ゼムノビッチさんは言う。「昔はやっぱり野球がね。僕が来た時にはあまりサッカーチームがなかったけど、すごいサッカーチームが増えて。部活だろうが町クラブだろうが、これがすごい」

 発足当初Jリーグは10チームだったが、今やJ1・J2を合わせて40チームが所属。その下にはJFLや学校の部活動、町クラブなどもある。競争相手が増えることによって全体的な底上げが図れた。

「その中でもちろん、やってることは日本のコーチとか、だいたいまとめてる。まとめることやってるから、選手をつくるのはまあまあよくて、どこでも平均的にはいい選手が出るんですよ」と語り終えると、眉をひそめた。日本のコーチが指導内容をまとめ、何でもそれなりにできる平均的な選手を多く輩出していることにはネガティブな一面もあるようだ。

 再び口を開く。

「次の問題は平均的にはみんな強いけど、それ以上に出てくる選手はなかなかつくれないこと。なかなかつくれないのは、これは特別の環境とか特別の指導とか特別の選手が必要」

 これまで高校や小さなクラブチームのコーチを始め、99年には清水エスパルスのユースとジュニアユースの総監督を務め、育成年代の指導に携わってきたゼムノビッチさんは自らの経験則から指摘する。日本の育成は長所を伸ばすよりも短所を消すことを優先して、どんなプレーでも一定のレベルでできる平均的な選手を生み出していると語り、顔を曇らせた。

「日本は選手の特長をあまり生かせていなくて、できないところをまずやらせる。何でもできる選手は普通になっちゃうからね、何か特長がないとダメだよ。何でもできる選手はいない」

 特別な選手を育てるためには、現在の育成システムが抱える問題を解決する必要がある。まずは公式戦の場をもっともっと増やすべきだというのがゼムノビッチさんの考えだ。「日本はずっとトーナメントが多くて、選手がなかなか1年間ゲームができない、試合の公式戦の数少ないから。一発で終わり、学校が多いから。その選手は来年まで何もないでしょ、公式戦」

 実戦の場が少ない影響も手伝い、一番成長できるはずの公式戦で選手がミスを恐れてリスクのないプレーを選択するため、自分の力をうまく発揮できていないという。「一番選手が伸びるのは公式戦の中で伸びるね。だから公式戦が少ない中で、『一発勝負だから負けたらおしまい』って選手の頭の中にある時はなかなか自分のいいプレーができないですよ。余裕がない。ミスしないプレーするから、自分のアピールとか力を出すのはなかなか難しい」

 ゼムノビッチさんは、育成年代では結果より内容を重視すべきと考えており、全国的なリーグ戦の導入や学年ごとの試合を提案している。「もちろん厳しいところもあるけど、どこかスタートしないといけない。まず、強い高校でスタートすればいいじゃないですか。これが一つの大きな課題。もう一つの大きな課題は、三年間の中で一つのチームしかないこと。学年ごとのチームないから。外国は必ず学年ごとにチームがあるんですよ。日本の選手は、コンスタントに試合出るのはないんですよ」

 今現在、学年ごとの試合は実現していないが、高校生年代のリーグ戦として高円宮杯U-18サッカーリーグが開催されるようになった。「今、少し考えが変わりましたね、リーグつくってるから。このリーグはね、意義があるリーグじゃないと意味ないからね。意義があるチーム、全国で関わってるリーグじゃないと意味ないですよ」と、新たな取り組みに期待を寄せる。


 来日当初に日本サッカーに感じた可能性は、時を重ねて確固たる確信へと変わったようだ。四半世紀近く飛躍的な成長の過程を間近で見てきたからだろうか、サッカー談義の終わりを極めてポジティブな言葉で締めくくった。

「日本のサッカーはね、間違いない。いい方向へ向かってる。W杯でもベスト16になったし、日本のチームはもっとできると思う。だから、もっともっと上目指していけばいい。これがすごい日本人のいいところ。どんなことがあっても、その次のこと狙ってるから。日本はきっと、もっと強くなると思います」

 20年にも及ぶ日本サッカーの歩みを駆け足で振り返ると、一呼吸置いて、「僕も来日して18年、もう日本人ですね。永住権のビザも取ったし」と笑顔を浮かべた。日本サッカーの今、そして未来を誰よりも深く考えているゼムノビッチさんが、どんな日本人よりも日本人らしく見えた。

インタビュー・文=若林祐樹(サッカーキング・アカデミー
写真=兼子愼一郎〈日本代表〉、犬飼尚子(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を、「カメラマン科」の受講生が撮影を担当しました。
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