2014.06.04

チームに夢を託して 李清敬(FC KOREA総監督兼代表)

李清敬

「FC KOREAが頑張ることで、いろんなことが生まれると思うんです」

 FC KOREA総監督兼代表で、在日コリアン2世の李清敬(リ・チョンギョン)さんは、そう語る。

 現在、関東サッカーリーグ1部に所属するFC KOREAは、在日コリアンや韓国からの留学生によって構成されているクラブだ。2012年には全国社会人サッカー選手権大会、昨年には関東リーグ1部で優勝を果たすなど、近年の活躍は目覚ましい。2014年シーズンはアマチュア最高峰リーグのJFLを目指してリーグ戦に臨んでいる。過去2年はJFL昇格が懸かる全国地域リーグ決勝大会で涙をのんでおり、今シーズンへの意気込みは強い。

 しかし、李さんとFC KOREAが目指しているのは、チームの勝利だけではない。FC KOREAは、それにとどまらない“いろんなこと”を創造する力を秘めている。

日本一のクラブに勝利。そして祖国の代表に

 李さんは1958年に神奈川県川崎市で生まれ、生後間もなく東京都の江東区へ移り住んだ。在日コリアンが多く住む地域は全国に存在したが、引越し先はサッカーが特に盛んな場所だったという。李さんがサッカーを始めたのも、ごく自然なことだった。

 朝鮮大学校を卒業した後、在日コリアンの優秀なプレーヤーによって結成されたチームである在日朝鮮蹴球団に所属することに。国籍規定により日本サッカーリーグに参加することはできなかったが、日本リーグの強豪チームと年に数度、親善試合を行った。日本全国を回り、国体選抜や地域のクラブチームと試合をすることも多々あったという。在日朝鮮蹴球団での一番の思い出は、当時隆盛を極めていた読売クラブに練習試合で勝利したときのことだ。

「読売クラブのルディ・グーテンドルフ監督から、試合終了後に『おまえらは何者なんだ? 何人なんだ?』『なぜ日本リーグに出られないチームが、日本最強のチームに勝つんだ?』と、親しげに声を掛けられたんです。僕たちは自分たちの事情を説明しましたが、グーテンドルフ監督は驚きの表情を浮かべていましたね」

 朝鮮民主主義人民共和国の代表に選出されるという機会にも恵まれた。当時のナショナルチームには、1966年ワールドカップでイタリアを破り、ベスト8に進出した際のメンバーがコーチとして在籍していたのだという。クウェートで1980年に行われたアジアカップの準決勝で韓国と対戦した際は、何万人もの韓国人サポーターがスタジアムに詰め掛けていた。ピッチに立てなかったことは唯一の心残りだが、当時20代前半だった李さんは、ベンチで感動をかみしめた。

在日フットボーラーの拠点、FC KOREA

李 清敬

 約10年間の現役生活が終盤に差し掛かると、李さんは指導者の道を歩み始める。大学院で指導理論を学んだ後、東京朝鮮中高級学校サッカー部のコーチと監督を計5年間務めた。

 指導者としてサッカーに携わる傍ら、FC KOREAの設立にも力を尽くした。

「在日コリアンでプロになれる選手がいる一方、そうでないプレーヤーもいる。そんな中、FC KOREAが一つの拠点になればいいなと思ったんです」

 2002年の設立当初はクラブのスタッフ内に温度差があった。「よし! FC KOREAで上を目指そう!」と高らかに言っても、当時は東京都リーグ1部の下位チームだったため、冷ややかな目を向けられたという。しかし、そんなFC KOREAも今や関東リーグのチャンピオンにまで上り詰めた。資金力や営業ノウハウのあるクラブと比べれば、成長に時間がかかったが、李さんは自らが高い目標を掲げたことが、クラブの発展につながったのではと考えている。

 現在の肩書きは、FC KOREAの総監督兼代表だ。いわば二足のわらじを履いて、クラブの運営にも力を入れている。

「総監督としては、現場に適度な距離感で接するようにしています。チームの絶対的な中心は監督ですから、彼をフォローするのが私の役目です。経営者としては、まだまだですね。もっと自分が足を動かして、選手たちにいい環境を提供していかないといけない」

 李さんの言葉には、選手たちへの温かい思いやりが感じられる。現在はアマチュアとしてプレーしているFC KOREAの選手たちだが、李さんは彼らの更なるステップアップを望んでいる。

「安英学(横浜FC)が高校生のときに指導しましたが、特別な選手だったわけじゃありません。でも、彼は努力と諦めない気持ちで、成功することができた。その流れに乗って梁勇基(ベガルタ仙台)や鄭大世(水原三星ブルーウィング/韓国)が表舞台に登場したけれど、次はFC KOREAで頑張っている選手がいい思いをしてほしいですね」

 FC KOREAを経由してJリーグや海外でプレーする選手が、近い将来出てくるかもしれない。このクラブは、在日フットボーラーの夢と希望を担っている。

FC KOREAの可能性と、夢

 現在、東アジア諸国の外交関係は、決して望ましいとはいえない。そのような状況下、スポーツは重要な役割を果たす、と李さんは口にする。

「ヘイトスピーチのような民族差別や、政治的な問題もあって、情勢的に良くないじゃないですか。そんな世の中で、スポーツが果たす役割は大きいと思います。確かにJリーグの試合で横断幕問題もあったけれど、日本サッカーが成長したのは、外国からいい選手が来たりしたからだと思うんですよね。FC KOREAもその一角として、日本のために何かできたらなと思います」

 在日コリアンはもちろんのこと、FC KOREAに興味を持つ日本人のサッカーファンもいるという。FC KOREAは朝鮮半島と日本の交流の懸け橋になり得る存在でもあるのだ。

 李さんは自らの夢を、感慨深げに語る。

「昔は、統一チームの監督になることが夢でした。ですけど、ヴェルディやコンサドーレで指導していた韓国人監督の張外龍(チャン・ウェリョン)に同じことを言われちゃったんです(笑)。だから今は、FC KOREAで平壌やソウルに行って試合をするのが僕の夢ですね。日本で生まれ育ちましたけど、自分の国が二つに分かれている現状を見ると、やっぱりしんどいですし、単にサッカーだけやっていていいのかなっていう部分があるんです。ですから、FC KOREAが統一の役割を担えればいいかなと思います」

 FC KOREAのエンブレムには、朝鮮半島のシルエットが描かれているが、そこにいわゆる38度線は存在しない。祖国への純粋な願いが、クラブのエンブレムに込められている。

 在日コリアンに夢と希望を与え、さらに朝鮮半島と日本の懸け橋になる。そして、祖国統一の使者にもなる。

 李さんはその思いを、FC KOREAに託している。

文=柳澤公平(サッカーキング・アカデミー
写真=上坊浩之(サッカーキング・アカデミー

●サッカーキング・アカデミー「編集・ライター科」の受講生がインタビューと原稿執筆を、「カメラマン科」の受講生が撮影を担当しました。
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