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本田圭佑が持つメンタルの秘訣はそぎ落とすこと…メンタルトレーナーが説く勝負を分ける力とは

写真=兼子愼一郎(1、3枚目)、野口岳彦(2、4、5枚目)

浮世満理子(うきよ・まりこ)
大阪府出身。全心連公認プロフェッショナル心理カウンセラー。株式会社アイディアヒューマンサポートサービス 代表取締役。一般社団法人全国心理業連合会 代表理事。一般社団法人日本メンタルトレーナー協会 理事。

アメリカで心理学を学び、帰国後、「カウンセリングを日本の文化として定着させたい」という理念のもと、株式会社アイディア ヒューマンサポートサービスを設立。
プロスポーツ選手や芸術家、企業経営者などのメンタルトレーニングを行う傍ら、多くの方にカウンセリングを学んで欲しいと、教育部門アカデミーを設立、心のケアの専門家の育成も行っている。

競技を問わないメンタルの力

 昨今のスポーツ界において、「メンタル」の重要性は高まるばかりです。

 世界トップクラスの選手たちがしのぎを削る場面では、技術や体力で大きな差は生まれません。ほとんど実力差のない戦いで、勝負を左右する要素。それが、メンタルとなります。

 私はこれまでに、様々な競技のメンタルトレーニングを担当してきました。アテネ・オリンピックの男子体操団体で、キャプテンとして金メダル獲得に貢献した米田功さん。アメリカツアーに参戦しているプロゴルファーの上田桃子さん。プロテニスプレーヤーとして、2005年と2006年に全日本選手権連覇を達成した岩渕聡さん。今までに担当してきた選手たちは競技こそ違いますが、目標を達成するという目的は同じ。つまずく原因も、それを解決していく方法も非常に似かよっていて、選手たちはメンタルを高めることで結果を残してきました。

 サッカーにおいては、元日本代表で現在はベガルタ仙台のアンバサダーとして活躍している平瀬智行さんとの出会いにより、関わりを深めていきました。そして、去年のブラジル・ワールドカップを平瀬さんと現地で観戦させていただいたことで、多くの選手を担当してきた経験とそれまで抱いていたサッカーにおけるメンタルの重要性が、一つにつながっていきました。

 現在もサッカーとメンタルの関係性を切り出していますが、実際にサッカーにおいても他競技のメンタルトレーニングと通じるシーンは非常に多いと言えます。もちろん、選手個々のメンタル強化の他にも、メンタルをとおした成長や教育など、幅広く応用できることについても言えます。

本田圭佑が持つメンタルの秘訣はそぎ落とすこと

 サッカーでメンタルについて語られる際は、日本代表の本田圭佑選手が取りあげられることが多いと思います。本田選手のメンタルの強さは、目標から逆算して自分に足りない点、今やるべきことなど、過程を細かく考える目標設定が注目されています。

 ゴールから逆算して考えることはアスリートの特性だと思いますし、多くの選手が「日本代表になりたい」、「上のレベルにいきたい」というイメージをしているはず。しかし、本田選手のテレビでのインタビューなどを聞いていて他の選手と違うと感じるところは、純粋に目標を信じ続けられるかどうかという点です。目標を信じ続けることと、現実にまみれていくことの違いは実に大きいものです。

 目標に向かっていく力は、多くの選手が持っているものです。ただ、「価値観」や「思いこみ」など、自分自身に重りのようなものをたくさんつけていることが少なくありません。「目標はあるけれど、自分には無理だな」、「自分の身体能力はここまで」というような重りに引っ張られてしまうと、ポテンシャルを大きく伸ばすことはできなくなります。一方、本田選手の場合は重りの部分をすべてそぎ落としていると言えます。目標に向かっていくパワーを持っているということもありますが、自分をネガティブにさせる重りをそぎ落としているからこそ、純粋に目標に向かう力があるのでしょう。

 どんな選手でも、「もっと成長したい」と思った時に、ただ「メンタルを強くしよう」と思うことはおすすめしません。それよりも、本田選手のように「成長の足かせとなるようなものをそぎ落とす」という考え方が大事になります。成長しようと思うと、厳しい練習や作業が伴います。そこには、例えば「さらにパワーをつける必要がある」、「いろんなことを犠牲にしないといけない」と考えることもあるのではないでしょうか。

 しかし、本来はよりシンプルに考えることができるはず。多くの選手は、自分の思いこみや価値観、あるいは過去にうまくいかなかった経験などから、多くの重りをつけてしまいます。自らつけてしまった重りによって、「理想は持っているが自分には実現できない」と考えてしまう。

 本田選手は世界の舞台で戦っていますから、歯が立たないことやネガティブなこと、限界を思わされるようなことはそれこそ毎日のようにあると思います。しかし、厳しい状況にさらされてもそういうことに一切捉われずに重りをそぎ落としているからこそ、目標に向かっていく力をものすごく感じることができます。

 選手の中にも、「パワーがないとメンタルは強くならない」と考える方が多いですが、パワーがあるにも関わらず、余分なものをたくさんつけてしまうことで、ポテンシャルを落としてしまっている選手も少なくありません。メンタルを強くするには自分をネガティブにする余分なものを、徹底して排除する力が必要になっていきます。

メンタルを育む教育とは

 教育面に関しては、「自分の子供は天才」だと思って育てることは重要です。親御さんが思うだけではなく、実際に子供に言うことも大切になってきます。

 ただ、間違いやすいですが、「天才だから努力をしなくていい」ではいけません。「天才だから努力ができる」と育てていく必要があります。実際にトップクラスの選手たちはみんな、性格も親のタイプも違いますが、共通して天才だと思って育てられてきました。最近の「ほめて育て、しからない」という育て方とは違い、たくさんほめますが、ダメなことはしっかりとダメとしかる教育になります。

 注意すべきは、しかる際も「将来、一流選手になるなら、そういうことをしたらダメだよね」と、子供を天才と認める言い方になります。すると子供も、「自分は将来すごい選手になるんだから、弱い者いじめをしてはいけない」など、正しいプライドが構築されるのです。

 今の親御さんは子供への期待値が高く、情報も多く持っています。子供が練習していても「そんなやり方ではダメ」など、その場しのぎの情報を言ってしまうことや指導者にケチをつける場合もあります。情報に振り回されることで、基本がおろそかになっていることも少なくありません。親は焦るのではなく、長い目で育てていく必要があります。すぐに他人と比べてしまうこともありますが、大事なのは子供が今やるべきことをやり、数年後でも成長していくことです。日本は小さくまとまり伸びていかない子供が多いと感じますが、それは親の問題ということもあります。

 また、日本人はよくメンタルが弱いと言われますが、確かにストレス耐性は弱いと言わざるを得ません。アフリカや南米のように貧しいところからはい上がってきた子供と、靴から何からすべてそろった子供で、どちらがストレス耐性が強いのかとなれば、裸足でもプレーできる子供の方が強いと言えます。だからこそ、教育面ではもう少し負荷をかけることも必要かもしれません。子供の時から意識的に一人で何でもできるようにさせるなど、子供たちのストレス耐性を上げていく工夫は必要でしょう。

中高生から始められるメンタル強化術

 中高生にもなると、自分自身からメンタルトレーニングを採り入れることも可能になります。ところが、今の若い世代は失敗を怖れたり、自分自身に自信がないことが多い。そこで重要になるのが、「自己肯定感を高める」ことです。

 自分を肯定するというと難しく聞こえますが、小さな達成感を積み重ねることで自己肯定感は高めていくことができます。どんなに小さなことでも、達成感の積み重ねを習慣にすることが重要です。例えば、普段なら11分かかる家から駅までの時間を、走るわけではなく、少し意識して歩いて10分にするという、本当に小さなことからでも構いません。実際に10分で行くと決めて達成したのならば、自分で「よし、今日はひとつできた」と思うことが大切です。

 当たり前にできるような小さい目標でも、全部クリアする習慣をつけると自己肯定感は自然に上がっていきます。自己肯定感が高ければ足が痛い中でのシュート練習でも、「あと10本やろう」と決めてやりきります。反対に自己肯定感の低い子供たちは、足が痛くなればすぐにやめてしまう。ほんの少しの差ですが、積み重ねることで技術が上がり、メンタルも強くなっていく。そして、どの競技でもトップクラスの選手は目標を決めて練習しています。一方で、能力が高くてもトップに届かないような選手は、何となく練習している場合がすごく多い。ですから、練習以外でも達成可能な目標をたくさん決め、達成感を積み重ねていくということが非常に重要になってくるのです。

 ちょっとしたことでも目標をすぐに作り、クセづけをすると同時に、達成したことを書き出していくことも非常に効果的です。指導者でも選手に目標を書かせる方は多いですが、できたことを書かせる方は多くありません。フィードバックも、できなかったことだけで埋め尽くされてしまいます。それでは、子供たちは達成感を得ることはできません。現在のトレーニングの様子を見ていると、自己肯定感が上がっていかないと感じる場合が多い。どんなに小さなことでもいいですから目標を決めて、できたことを自分でしっかりと言えるような習慣を作ることが大切になります。「一番最初に練習に行く」、「ランニングで先頭を走る」ということでも十分です。そこで、「一番の自分」となっていることが重要です。

 オリンピックの金メダリストの中には、誰よりも早くナショナルトレーニングセンターに入ると決めていた選手もいます。その選手は水泳の北島康介選手と友達でしたが、「康介君よりも早く入る」ということを、勝手にゲームみたいに決めていました。「よし、今日は一番だ」と、自己肯定感を高めていくことで自信がついていき、金メダルにつながることもあります。何かを達成して自信を得て自己肯定感を上げていくことが、ハードな練習を乗り越えていく力にもなっていきます。

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