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<選手権フォーカス>【山梨学院】「泥臭くてつまらない」がワクワクして新鮮 台風の目になれるか

2016.12.26

山梨学院のエースFW加藤拓己 [写真]=川端暁彦

 山梨学院は7年前に“初出場初優勝”を果たした選手権の優勝経験校だが、その後は全国大会でなかなか上位に食い込めず、難しい時期も過ごしてきた。今年からは優勝時のヘッドコーチで監督だった吉永一明氏がヴァンフォーレ甲府のコーチに転身。安部一雄新監督を迎え、心機一転のシーズンとなっている。

 川崎フロンターレのアカデミーで20年近く指導に当たってきた安部監督について、横森巧総監督(7年前の優勝時の監督)は「選手に対して優しいよね」と語るのだが、選手側の感想は少し違うかもしれない。「上手い選手はいないので、ならば走るしかない」とした安部監督は、攻守両面でのタフネスを追求。特に夏からは「相当走り込ませた」と振り返るように、かなり厳しい“鍛錬”を課してきた。

 ゲレンデリレーに加えて、1日30キロを走ることもあったというだけに、「ふて腐れる選手もいた」(安部監督)のも無理はない。ただ、あえてやり切らせることを選んだ。FW加藤拓己は「本当にキツかった」と振り返りつつ、走り勝つ部分について「自信は付いた」とも言う。安部監督が厳しいトレーニングを命じたのは、単に体力を付けるというより、メンタル面での効用を狙ってのものだろう。

 加藤は「上手い選手は一人もいなくて、泥臭い。観ていてつまらないと思う」と豪快に笑いつつ、同時に「走ること、(球際の)強さ、推進力。この3つだけは(負けないように)求めてきた」とも言う。U-17日本代表にも名を連ねる180センチ・78キロの“空飛ぶマッチョ”加藤目掛けてのロングボール攻撃をベースにしながら、「真面目に戦える」(横森総監督)10番のMF相田勇樹を軸にこぼれ球を拾いながら試合のペースを握っていくのが基本線。「地味で見栄えもしないチームだけれど、みんなで相手の攻撃を防ぎながら前に進もうとする力はある」と言う横森総監督の言葉には力がある。

 とはいえ、当事者が言うほど「つまらない」とも思えない。「(空中戦は)誰にも負ける気がしない」と不敵に言う加藤へのロングボール1本でワクワクできるチームというのも、日本ではなかなかないので、かえって新鮮ですらある。そして、対戦するチームにとって厄介極まりないスタイルだろう。実力派GK大野郁哉が最後尾を守るディフェンスが堅いだけに、なおさらだ。

 新たな指揮官、新たなスタイルの下で、新しい山梨学院を示す今大会。この山梨学院が“台風の目”となったとしても、それはサプライズではない。

取材・文=川端暁彦

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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