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イタリアが恋したアタランタ…中盤のキーマンが強さの秘訣を明かす

アタランタはベルガモの街に勇気をもたらしている [写真]=Getty Images

 それは、目を疑う光景だった。3月、イタリア北部ベルガモ。SNSで一人のイタリア人男性が、地元紙『レーコ・ディ・ベルガモ』を読み上げる。

「2月9日は1ページ。対して3月13日は1、2、3……10ページ」

 新型コロナウイルスにより、ベルガモ市内で亡くなった人々の実名と顔写真が入った、いわゆる死亡記事と呼ばれるページをめくり、その衝撃のページ数を伝えていた。

 その亡骸を移送したのが軍用車だったことにも戦慄が走った。霊柩車の数では対応し切れず、軍用車が遺体を運ぶ事態にまで発展したのだ。ベルガモでは2月23日に初めての感染者が現れ、それ以降、爆発的に感染が広まり、3月だけで昨年同月の約6倍となる6000人が命を落とした。静まりかえった市街地を軍用車が連なる映像は、砲弾が鳴り響かない戦争のようだった。

 そんな疲弊した街に、勇気をもたらしているのはベルガモを本拠地とするアタランタだ。“ラ ・デーア”(女神)の愛称を持つ彼らの存在は、傷ついたベルガモ市民にとって、暗闇の中の灯のような存在。彼らの戦いぶりが、大きな勇気を与えている。

 チャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦でバレンシアを4-1、4-3と破った勢いは、中断期間を経て再開したリーグ戦でも失われていない。いや、それどころか中断前以上の勢いを見せている。セリエA再開後初めての試合、6月21日のサッスオーロ戦では、4-1と大勝。スペクタクルなサッカーを展開する両チームの対戦だったが、アタランタの格は違った。

 その4日後に迎えた、20年ぶりのスクデットを目指す2位ラツィオとの決戦は、開始11分で2得点を許す苦しい展開となったものの、ロビン・ゴセンスの強烈なヘディングシュートで1点を返すと、ルスラン・マリノフスキーの矢のような弾丸ミドルが突き刺さって同点に。最後はコーナーキックからホセ・ルイス・パロミノが頭でたたき込み、見事な逆転勝利を収めた。

 

ラツィオには昨年の前半戦で3点のアドバンテージを追いつかれて引き分けるという不覚をとったが、そのリベンジを果たす格好となった [写真]=Getty Images

 今のアタランタにとっては、2点のビハインドなど容易に跳ね返せるようだ。たとえ相手がスーペルコッパ王者であっても、だ。さらには、敵地でウディネーゼにも勝利し、今、最も勢いのあるチームの一つであるナポリを迎え撃つ。前半はアタランタらしさが出ない拙攻が目立ったが、後半開始早々に一瞬の隙を突いて畳み掛ける。マリオ・パシャリッチがヘディングシュートを流し込んで先制。左サイドのゴセンスが、正確なシュートをサイドネットに決めて2-0とする。その後は、ナポリに押し込まれるが、ゴール前を固めた守備陣が踏ん張りをみせ、コンディションに不安があったヨシプ・イリチッチを温存しながらも無失点で勝ち切った。

 コッパ・イタリア覇者からも勝利を収めることに成功し、これで2月8日のフィオレンティーナ戦を皮切りに7連勝。続くカリアリ戦も1-0で勝利し、連勝を8に伸ばした。攻撃力はすさまじく、30試合を消化して83得点の破壊力だ。すでに昨シーズンに挙げたユヴェントスの総得点を上回ると言えば、さらに驚かれるに違いない。2位ラツィオとは17得点、首位ユーヴェとは20得点も差がつく、まさに異次元の領域に達している。

 小気味よいパス回しから前線にくさびが入ると、後方から次々と前線の選手を追い抜き攻撃に厚みをかける。テクニックを備える重量級FWドゥバン・サパタは、ジャン・ピエロ・ガスペリーニ監督自身が獲得を欲したわけではなかったが、昨シーズンは23得点とブレイク。今シーズンもこれまで14得点と、筋肉系のケガで10試合を欠場しながらもこの決定力の高さだ。その穴を埋めたのがスピードスターのルイス・ムリエルだ。チームトップの16ゴールをマークする男がベンチスタートなのだから、相手DFにとっては厄介でしかない。6月28日のウディネーゼ戦でも52分からの途中出場だったが、GKが一歩も動けない芸術的なフリーキックで2-2の同点とすると、最後はアウトサイドでカーブをかけた技ありのロングシュートをねじ込む逆転弾も決め、古巣相手に主役を演じた。CL決勝トーナメントのバレンシア戦で圧巻の4得点をマークしたイリチッチも、今シーズンは24試合の出場で、すでに昨シーズンを3得点上回ってキャリアハイの15得点と飛ぶ鳥を落とす勢いだ。

 そして、攻撃陣を牽引するのが主将のパプ・ゴメスだ。ナポリ戦では攻撃の起点になりながらも、時には最終ラインに下がって守備を見せるなど獅子奮迅の働きをみせる。若手が多いチームの中でイリチッチと同じ32歳と最高齢ながら、ラツィオのルイス・アルベルトと並ぶリーグ最多タイ13のアシストを記録している。

 攻撃陣が無双のアタランタは、今シーズンのリーグ戦で14選手が得点を挙げている。流れのなかだけでなく、個々の能力、ミドルおよびロングシュートにセットプレーと、どこからでも得点を挙げれるのが強みだ。主力で得点がないのはハンス・ハテブールと、今冬にミランから復帰したマッティア・カルダラのみ。カルダラは、イタリア代表を背負う逸材と期待されながら2016年にミランに移籍するもケガに泣かされ、完治したあともリーグ戦での出場機会は得られず、この冬アタランタに復帰した。しかし、ミランでの不調がミステリアスなほどコンディションを上げていて、最近では3バックの中央でも起用されている。2016-17シーズンには、センターバックながら7ゴールの得点力を示しているだけに、近くゴールも生まれるだろう。

 攻撃力が売りのチームで攻守に欠かせないキーマンの一人が、マルテン・デ・ローンだ。ミドルスブラ時代にプレミアリーグも経験する男は、『The Atlantic』のインタビューでガスペリーニのサッカーをこう分析している。

「僕らはほかのチームと違う。ほかのチームは最初の60から70分はとてもいいプレーをするけど、僕らは90分を通してアグレッシブなサッカーを展開する。ガスペリーニ監督は、常に最大限のクオリティをトレーニングでも要求するんだ。それに慣れるのに2、3カ月はかかったよ」

デ・ローンは今季ここまでリーグ戦28試合に出場 [写真]=Getty Images

 デ・ローンは、ヘーレンフェーンから移籍した2015年に初めてアタランタでプレーし、その後ミドルスブラでの1年間を経て、2017年に復帰している。2015年当時にチームを率いていたのは、ガスペリーニとは真逆の守備的なサッカーを標榜するエドアルド・レーヤ監督だった。

「ガスペリーニ監督はチームのメンタリティを変え、勝者の考えを植えつけた。それまではアウェイでの戦いといえば、負けないことが重要で、引き分けでも十分だった。だけど彼は、常に勝利を僕らに課した。戦術面はほかの多くのイタリア人監督と同じようにとても優れていて、“イタリア的”。だけど少し“オランダ的”でもあって、トータル・フットボールの考え方を持っている。DFや守備的MFも攻撃に参加し、FWも守備することを望んでいるんだ」

 しかし、完全なオランダ流ではないと話す。「監督はポゼッションスタイルを毛嫌いしている。攻撃的に前に出て、横や後ろにボールを下げることを嫌うんだ。トレーニングでもそれを意識してやっている。もし後ろに下げるようなことになれば、自分たちからプレッシャーを与えてしまうようなものだからね。そうではなく、絶えず前に出て得点を挙げるんだ」

 洗礼を受けた欧州の戦いについてはこう語る。「CLで重要なのはスピードだ。5分間もスピードを緩めて戦うなんてあり得ない。そんな戦いをすれば、痛い目に遭うだろうね。いつもはレモ・フロイラーとのコンビでピッチの中央をカバーするんだけど、欧州の舞台では僕らがサイドに広がり、ゴメスやイリチッチ、DFが攻撃に参加するためにスペースを与えるよう指示される。そうすればもしボールを失っても、僕ら守備的MFにはいいポジション取りができている。これが、大きな違いを生み出すんだ」

 ユヴェントスの黄金時代を築き、2006年ワールドカップでイタリア代表を優勝に導いたマルチェッロ・リッピも、アタランタに魅了された一人だ。RAI放送の『ラディオ・アンキーオ・スポルトゥ』に出演した名将はこう称賛する。「アタランタがCLの新星となることを我々は願わなければならない。イタリアのすべてのスポーツマンは、このチームに恋をした。アタランタはイタリアのフィダンツァータ(恋人)になったんだ。クラブの働き、組織、選手の選考、プレー、そのすべてに惚れ込んでいる。彼らを見ていると本当に心が弾むよ。アタランタはほかのどのイタリアのチームよりも、今日のインターナショナルなサッカーを展開している。リヴァプールのようなタイプのチームと言えるだろう。彼らのサッカーには未来がある」

 第30節では、3位インテルがボローニャに1-2と敗れ、2位ラツィオがミランに0-3と完敗を喫した。一方、ユーヴェはトリノに4-1と大勝。ユーヴェとラツィオの勝ち点差は7に開き、今年も“また優勝”の雰囲気が漂った。しかし、第31節、ユーヴェがミランに大逆負けを喫する“事件”が起きる。一時は2-0としながらも、終盤にまさかの4失点を許して逆転負け。絶対王者がここ数年、リーグ戦でこれほどの醜態をさらしたことはなかったが、暑さ、過密日程、無観客、そして5人の選手交代といった複数の要因が、リーグ戦の行方を不透明なものとしている。

 アタランタはサンプドリアを2-0と難なく退け、破竹の9連勝でユーヴェとの勝ち点差を9とした。今シーズンはやはり何が起こるか分からない。ただ一つ言えるのは、アタランタの強さは本物だということだ。

 例年とはあらゆる面で様相が異なる“カンピオナート・ファルソ”(偽のリーグ戦)で、アタランタがどこまで順位を押し上げることができるか。11日にはユーヴェとの直接対決が行われる。ここでアタランタが勝利すれば、両チームとの勝ち点差は6にまで縮まる。アタランタの奇跡の逆転優勝にも期待を膨らまさないわけにはいかないだろう。“ラ・デーア”(女神)の戦いから最後まで目が離せない。

文=佐藤徳和

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