2019.08.14

【コラム】「規格外の男」デ・リフトの“これまで”と“これから”…イタリアの地で世界最高のCBへ

デ・リフト
今夏ユヴェントスに移籍したデ・リフト [写真]=Getty Images
1998年にローマに語学留学し、同市内のアマチュアクラブ、ロムーレアの練習に参加。カルチョだけでなく全てのアッズーリをこよなく愛し、日伊協会会報誌『CRONACA』では、イタリアに特化したスポーツ記事を連載中。2017年11月『使えるイタリア語単語3700(ベレ出版)』を共同執筆。イタリア語検定協会事務局員。日伊協会にて4月より『カルチョで旅するイタリア』が開講。

「規格外」の言葉が、この男にはまさにしっくりと当てはまる。マタイス・デ・リフト。アヤックス・アカデミーが輩出した最高傑作だ。


 今夏、デ・リフトの新天地を巡って熾烈な争奪戦が繰り広げられた。バルセロナ、パリ・サンジェルマンなどが候補に挙がりながら、最終的な移籍先はユヴェントスに決まった。移籍金は、ベースとなる7500万ユーロ(約89億円)に最大で1050万ユーロ(約12億円)のボーナスが加わる8550万ユーロ(約101億5000万円)。フィルジル・ファン・ダイクが2018年1月にサウサンプトンからリヴァプールに移籍した際の移籍金が8400万ユーロ(約100億円)を抜き、DFとしてオランダ人史上最高額の移籍劇になった。8月12日に20歳の誕生日を迎えたものの、契約締結時はまだ10代の青年。あまりにセンセーショナルな移籍ではあるが、それだけの金額に値するDFであることは誰の目にも明白だ。

 チャンピオンズリーグ(CL)奪還が悲願のユヴェントスとしては、喉から手が出るほど手に入れたかったセンターバックだ。しかし、ユーヴェは昨シーズンのCL準々決勝でこのデ・リフトを擁するアヤックスに敗北を喫した。しかも、勝ち抜けを許す決勝ゴールをデ・リフトに奪われたのだから、果たして、自分が所属したクラブよりも“劣る”クラブに移りたがるものか、という懐疑の念はクラブ側としてもあったはずだ。ユーヴェ移籍の線は薄いように思われた。だが、あの男からの“勧誘”が、大きな後押しとなった。それは、UEFAネーションズリーグ決勝での出来事だ。ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドが、ユーヴェに来るように諭したのだ。

「ユーヴェに移籍するように勧められてね。要求にちょっと驚いて、それで笑みをこぼしてしまったんだ。最初は何を言っているのか理解できなかったよ」とピッチ上でまさかの“交渉”が行われたことを明かした。さらに「子どもの頃は、C・ロナウドを真似てプレーしていたよ。特に、マンチェスター・U時代の彼にね。彼の名前が入ったユニフォームも持っていたよ」。大きな話題となったあのシーンが、実際にアシストとなったことを入団会見の場で明かしている。

デ・リフト

C・ロナウドと談笑するデ・リフト [写真]=Getty Images

 ただ、C・ロナウドの誘いだけが移籍を決めた要因となった訳ではない。「自分はまだとても若いが、アヤックスではたくさんの経験を積んだ。このユーヴェには守備を学ぶためにやってきた。(マウリツィオ)サッリ監督とは少し話した。お互いを知るために会話をすることは必要だ。彼がいることもユーヴェを選択した要因の一つだ。サッリ監督のサッカーやディフェンスラインのトレー二ングの仕方についてはとてもよく聞いている」

 さらに、この男の存在も忘れてはならない。敏腕であり、曲者でもある代理人、ミーノ・ライオラだ。イタリア南部サレルノの出身であるが、実は生まれて間も無く、オランダに移住し、その地の大学で法学を学んでいる。そういう経緯もあってオランダとの結びつきが強い。デニス・ベルカンプをアヤックスからインテルに移籍させたのもライオラだった。

 そのライオラは「ユーヴェに来るという選択は、長い時間をかけて熟考したもの。決して一日のおしゃべりで決まったようなものではない。DFの選手にとっては、最良の選択だ。というのもデ・リフトは、世界最高のDFになるということが頭にある。ユーヴェは彼の目標を達成するために手助けできる」と壮大な夢のために、守備大国イタリア最強のクラブを選択したことを明かしている。

 斯くして、デ・リフトは20代最初の記念すべき年をイタリアの地で戦うこととなった。移籍金だけを見ればすでに最高の評価を受けている。この弱冠20歳の若者は、どのような道程を歩んできたのだろうか。

 生まれた地はユトレヒト州にある人口約8000人の小さな村、アップカウデ。父はフィールドホッケーとテニスを、母はテニスをしていたことから、マタイス自身も幼少期はこれらのスポーツを行なっていた。だが、フィールドホッケーをやっていたとき、隣のグラウンドで友人たちがサッカーを楽しんでいたのを見て、サッカーに転向することを決意。6歳の時だった。それから3年の月日が過ぎ、アップカウデの同名のクラブから、アヤックスへと移籍する。名門クラブの門をくぐると、“肉体改造”が施された。「すぐに食事療法士のところに向かわされたんだ」。サッカーをやるには、オーバーウェイトだったようだ。

 それから順調に成長を遂げ、思春期を迎える。「16歳の時だった。自分はプロフェッショナルの道を歩めると思った。決して簡単なことではないが、サッカー選手としてやっていく能力が備わっていると自分には分かっていた」と、すでにU-15オランダ代表としてプレーしていた頃、自身の将来について揺るぎない確信を抱いていた。実際、その1年後の2016年9月21日のKNVBカップ、ヴィレム戦でデビューを果たす。勢いは止まらない。翌年3月に、ブルガリアとのテストマッチでA代表初招集を受け、出場も実現。17歳と7カ月10日での出場は、1931年以降の同代表最年少記録だ。さらに、5月24日のヨーロッパリーグ決勝のマンチェスター・U戦でも記録を作る。0-2と敗れほろ苦い記録となったが、17歳と285日での出場は、欧州カップ戦決勝の最年少出場記録である。同年代の仲間たちがプロ選手を夢見る頃、この若者はすでに遥か先の階段を上り、高台から誰もが見れない景色を目にしていた。

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ヨーロッパリーグ決勝でプレーするデ・リフト [写真]=VI Images via Getty Images

 今は世界トップクラスのセンターバックとして名を馳せるが、守備的MFとしてプレーする可能性もあった。『プラン・クライフ』の発案者の一人であるルーベン・ヨンキントはこう振り返る。「アヤックス・ユースの監督たちと口論したことがあった。我々は彼を中盤でプレーすべきだと考えていた。というのも彼の欠点がスピードや守備の読みであったからだ。守備的MFをこなし、インサイドハーフをやるべきだと。しかし、アヤックス・ユースの監督たちは、世界最高のセンターバックになれると考えていた。結局、彼らが正しかったね。実際にトップチームに上がると、センターバックとしてプレーすることとなったから」

 189センチ、90キロと堂々たる体躯を誇る。これだけの立派な体格を持っていれば、スピードや敏捷性が多少劣ることも当然だ。けれども、元オランダ代表で当時アヤックス・アカデミーのコーチを務めていたヴィム・ヨンクの提唱によって、デ・リフトが15歳の時、スプリントフォームの改造が実行される。100メートル走の元オランダ記録を持つトロイ・ダグラスが、特別コーチとして招へいされたのだ。こうして、欠点の一つであったスピードが改善され、今では、スピードを武器とする快速FWに難なく対処できるようになった。

 さらなる成長に向けて慢心もない。かつて、驚愕のプレースキックで世界を震撼させたオランダ代表のロナルド・クーマン監督もエピソードを語る。「以前、タクシーで一緒になったことがあって、私が一緒にプレーしたフリストフ・ストイチコフやロマーリオ、それからミカエル・ラウドルップのうち、誰が最も優れた選手だったか質問してきてね。誰が最も止めにくい選手だったとか、質問攻めにあったよ。彼は多くのことを知っているよ。私の世代のことを同年代の選手たちに尋ねても、彼のようには知らないだろうね」。飽くなき探究心が成長の糧となっているようだ。

 競り合った相手をなぎ倒すほど凄まじい威力を放つヘディング、激しく美しくもある深く鋭いスライディング、思春期に改善されたスピード、相手を無力化する一対一の強さ、その恵まれた体つきからは想像できない非凡な足元のテクニック。どれをとっても超がつくほどの一級品だ。さらには、18歳でアヤックスのキャプテンに任命されるほどのカリスマ性も備わっている。デ・リフトが思い描く世界最高のセンターバックへの道のりに、障壁などあるのだろうか。思いもよらない大ケガや、これまで経験したことのないような壁にぶち当たったときに、それを乗り越えられる不屈の精神が備わっているか。順風満帆に成長してきただけに、懸念される要素といえばその点一つだろう。けれども、そんな障壁もこの20歳ならことごとく突き破ってくれるだろうということは、想像に難くない。

デ・リフト

[写真]=Getty Images

 8月8日、マンチェスター・Uのベルギー代表FWロメル・ルカクがインテルへ移籍することが決まった。192センチ、95キロのフィジカルモンスターである。ユーヴェへの移籍の可能性も報じられたが、アントニオ・コンテ監督が獲得を切望し、最終的にインテルに加入することとなった。これで、ユーヴェ対インテルの“イタリア・ダービー”では、デ・リフトとルカクのヘビー級マッチのようなバトルが繰り広げられることとなる。最初の対決は、10月6日の第7節、インテルの本拠地サン・シーロで開催。19-20シーズンのハイライトの一つとなり得る凄まじいマッチアップとなるに違いない。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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