2019.04.15

【コラム】主将剥奪から2カ月ぶりに復帰…イカルディの過去、現在、そして未来は?

イカルディ
ピッチ外での話題にも注目が集まるイカルディ。その去就は…? [写真]=Getty Images
1998年にローマに語学留学し、同市内のアマチュアクラブ、ロムーレアの練習に参加。カルチョだけでなく全てのアッズーリをこよなく愛し、日伊協会会報誌『CRONACA』では、イタリアに特化したスポーツ記事を連載中。2017年11月『使えるイタリア語単語3700(ベレ出版)』を共同執筆。イタリア語検定協会事務局員。日伊協会にて4月より『カルチョで旅するイタリア』が開講。

 2月13日、インテルに激震が走った。アルゼンチン代表FWマウロ・イカルディに対する主将剥奪のニュースがイタリア全土を駆け抜けたからだ。寝耳に水の通達を受け、落胆のイカルディは招集を拒否。約2カ月もの間、戦列を離れる事態にまで発展した。すでに4月3日のジェノア戦で招集を受け、この試合でPKを決めており、“イカルディ騒動”は一先ず終結した模様だ。しかし、契約延長交渉は未だ決着を迎えることはできていない。この騒動を振り返りながら、イカルディとはいったいどんな人物だったのか、そしてこれからの去就を予想したい。


 イカルディの主将剥奪の知らせは、ドライなものだった。「新主将はサミール・ハンダノヴィッチになった」。インテルの公式ツイッターには、イカルディの名前はなく、ただ、新しい主将がハンダノヴィッチに委ねられることとなったとだけが記されていた。イカルディは、トレーニングセンターのアッピアノ・ジェンティーレを去り、翌日に控えていたラピド・ウィーンとの招集を拒否した。

 シーズン中の主将剥奪は異例の出来事だ。規則違反を犯したり、戦術批判を行った主将がその座から降ろされることは起こりうることだ。だが、イカルディに関しては“今季”、取り立てて問題視するようなことはなかった。強いて言えば、契約更新問題がこじれていることはあるが、今回の件とは関係がないものとみられる。ただ、過去には問題があった。それゆえ“今季”と記したのだ。

■略奪愛、ウルトラスとの衝突

イカルディ

イカルディと妻のワンダ・ナラ [写真]=Getty Images

 最初の騒動があったのは2013年。6歳上のワンダ・ナラとの略奪愛が明るみに出た。それも、あろうことか同胞であり、サンプドリアのチームメイト、マキシ・ロペスの妻だったから、不倫やプライベート問題をあまり報じないイタリアでさえも大騒動となった。母国の重鎮、ディエゴ・マラドーナは「裏切りものだ。私の時代であれば、仲間から順番にひっぱたかれていただろう」と声を荒げたが、イカルディは何事もなかったかのように子連れのワンダ・ナラと2014年に結婚した。

 2015年夏、ロベルト・マンチーニ監督から主将を任命された時も、イカルディがインテルの主将にふさわしい人物なのかどうかという議論が沸き起こった。それでも、マンチーニは今回の主将剥奪問題が生じたあと、「私はイカルディと一度も問題があったことはない。極めて重要な選手であり、インテルの歴史にとって大切な選手だった。それゆえ、主将に選択した」と回想している。監督との軋轢はなかったようだ。けれども、ウルトラスとの衝突はあった。2016年冬に発売した自伝『常に前に』の中で、試合後のウルトラスとのエピソードを綴った。「子どものためのプレゼントとしてユニフォームをゴール裏に投げたにもかかわらず、ウルトラスのリーダーがそれを奪い、投げ返してきて、さらに侮辱してきた。子どもの前で偉ぶり、抑圧的な態度をとったすべてのサポーターの前で自分は『恥を知れ!』と叫んだ」と激白。これにウルトラスが当然反発し、「我々との関係は終わった」と言い放っている。イカルディは自らの記述に対し謝罪の意を示したが、実はこの時も、主将の座が剥奪される危機に直面していた。

インテル

「お前は男じゃない、キャプテンじゃない」と批判的なバナーを掲げるインテルのウルトラス [写真]=Getty Images

 “ユヴェントス・キラー”とは、イカルディの異名だ。サンプドリア時代の3ゴールを含め、イタリア最強のユヴェントスから通算8得点を決めている。ユヴェントスが獲得に動いていることも十分理解できる。自分たちの天敵を迎え入れてしまえば、脅かされることもないからだろう。賢い選択だ。2014-15シーズンと17-18シーズンにはセリエA得点王にも輝き、今ではセリエAを代表する選手となった。だが、主将としての振る舞いとしては、どうだったのだろうか。

 彼は苦境に立たされたとき、言葉でチームメイトを鼓舞するようなタイプではない。その点にルチアーノ・スパッレッティ監督は不満を持っていたとも報じられている。歴代の主将にはスタジアムの名にも冠したジュゼッペ・メアッツァや、ジャチント・ファケッティ、ジュゼッペ・ベルゴミ、そして現副会長のハビエル・サネッティといった錚々たる人物が存在した。こういったレジェンドたちと常に比較されたイカルディにも同情の余地はあるが、主将を剥奪されたあとのリアクションはいただけないものだ。招集を拒否し、その後もひざの問題を理由にトレーニングの参加を見合わせた。2月28日にはインスタグラムに長文を投稿。「インテルを愛している。しかし、決断を下す者は、自分をリスペクトしてくれ」と訴えた。この主張にインテル上層部、とりわけスティーヴン・チャン会長が不快感を覚え、イカルディとの決裂はさらに近づいたように見えた。実際、ユヴェントスのパウロ・ディバラとのシーズン後のトレードの可能性までも噂に上がった。妻で代理人のワンダ・ナラの存在もインテルにとっては厄介な存在だ。ソーシャルメディアを駆使し、自らの姿を妖艶に披露するだけでなく、クラブを非難する言葉をぶちまける。サポーターから煙たがられるだけでなく、イカルディの実の妹、サイラからも「マウロのキャリアを壊した」と激しく批判されているほどだ。

■2カ月ぶりに復帰

イカルディ

復帰戦ではPKでゴールを記録 [写真]=Getty Images

 しかし、そんな中でも状況は好転する。3月6日、イカルディとワンダ・ナラ、そして昨年12月13日からインテルの幹部に就任したジュゼッペ・マロッタが会談を行ったことを突如、インテルが発表した。ここから双方の対立がようやく雪解けしていくこととなる。インテルはエース不在のまま臨んだ3月14日のヨーロッパリーグ・ラウンド16セカンドレグでフランクフルトを相手に敗戦を喫したが、17日の大一番、ミラノ・ダービーには劣勢が予想された中で勝利。イカルディもインスタグラムで、ミラノの象徴であるドゥオーモを青く染め、チームの勝利を祝福。そして、いよいよ26日にチームのトレーニングに合流を果たした。2月13日以来のチーム復帰だ。

 31日のラツィオ戦では出場が見送られ、インテルはこの試合に敗戦。今度はスパッレッティ監督が非難の的となった。しかし、ベルゴミやアンドレア・ピルロはスパッレッティ監督を擁護した。さらに、インテルを指揮し、日本代表を率いた経験を持つアルベルト・ザッケローニも「私も同じ選択をしただろう」と語った。スパッレッティ監督はローマ時代、フランチェスコ・トッティとの関係もポジティブなものではなかった。それゆえ、スパッレッティ監督の、中心人物との関わりを問題視する声も上がったが、ザッケローニは「イカルディはトッティではない。イカルディがトッティと同じようなパーソナリティーを持ち得ているようには思えない」と続けている。

 ただ、こういったスパッレッティ監督の采配に賛同する声もあったが、激化するチャンピオズリーグ出場権争いを考慮する中、イカルディを使わざるを得ない状況に迫られることとなった。ジェノア戦を前にスパッレッティ監督はイカルディの起用を明言。手のひらを返したように、「我々にとってはクリスティアーノ・ロナウド、リオネル・メッシ以上に価値のある選手。マウロはチームを手助けするのではなく、けん引するのだ」と話した。かくして、イカルディはジェノア戦で約2カ月ぶりの出場を果たすと、自ら獲得したPKを沈め、アシストも決めるなど、復帰戦を白星で飾った。

■移籍か、残留か…

イカルディ

去就に注目が集まるイカルディ [写真]=LightRocket via Getty Images

 イカルディ問題はこれで沈静化したのだろうか。答えは「ノー」だ。代理人のワンダ・ナラが2021年6月に切れる契約に関して要求しているものは、5年の契約延長と800万ユーロ(約10億円)の年俸であるが、今シーズン限りで退団する可能性は極めて高い。それは、来シーズンの新監督にアントニオ・コンテが就任する見方が強まっているからだ。規律を重んじるコンテが、イカルディをチームの中心に据え置くとは思えない。何かとお騒がせなワンダ・ナラの存在にも目をつぶっているわけにはいかないだろう。

 ユヴェントス、ナポリ、アトレティコ・マドリード、さらにはレアル・マドリードが移籍先候補にあがっており、最有力はユヴェントスと報じている現地メディアもある。イカルディは来シーズン、どこでプレーするのだろうか。それは夏の移籍市場を迎えなければわからないが、これからもメディアを賑わす存在であることだけは間違いないだろう。

文=佐藤徳和/Norikazu Sato

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