ビーレフェルト戦後、取材に応じたアペルカンプ真大 [写真]=元川悦子
9月の国際Aマッチウイーク明け初戦となった10月1日のブンデスリーガ2部第10節デュッセルドルフvsビーレフェルト。田中碧、奥川雅也らと同じピッチに立つ中、ひと際、強い輝きを放ったのが、アペルカンプ真大だ。
ドイツ人の父と日本人の母を持つ21歳のMFは、2ゴール1アシストの大活躍を披露。ドイツ誌『キッカー』が選ぶ同節の2部MVP&ベストイレブンに選出されたのである。
「2ゴールともいいビルドアップからの素晴らしい得点だったので、本当に嬉しいです。前の試合(9月17日のハンブルガーSV戦)はあまりいいパフォーマンスができなかったので、自分なりにいい答えを出せた。それがよかったと思います」と試合後、本人は嬉しそうにコメントしていた。
アペルカンプは2000年11月生まれの21歳。菅原由勢(AZ)や瀬古歩夢(グラスホッパー)と同世代にあたる。東京都世田谷区で育ち、中学時代は三菱養和でプレー。今季オーストリア1部で公式戦9ゴールをマークする中村敬斗(リンツ)とは当時のチームメイトだったようだ。
「当時からプロになりたいという意識はあったけど、最初からドイツでやりたいと思っていました。ちょうどお父さんの仕事の関係でドイツに行くことになり、2015年からこっちに来て、デュッセルドルフのアカデミーに入ったんです」と彼は渡独の経緯を説明する。
幼少期から母親と日本語、父親とドイツ語で会話していたことから、15歳時点でバリバリのバイリンガル。初めてのドイツ生活にも全く戸惑うことなく、スムーズに適応できたという。そして、19歳直前の2019年9月にプロ契約を締結するに至った。
残念ながら、デュッセルドルフは2019-20シーズンに降格が決定。翌シーズンから2部での戦いを強いられているが、若いタレントにとっては逆にチャンスが増える。アペルカンプも同シーズンにはいきなり21試合出場6ゴールをマーク。大きなインパクトを残すことに成功すると、2021-22シーズンは26試合出場3ゴール。今シーズンはここまでの10試合全てに出場し、早くも3得点を奪っているのだ。
激しい競り合いやバトル、球際での攻防が重視されるブンデス2部にあって、彼の高度なテクニックと創造性溢れるプレースタイルは明らかに異質。チームの攻撃陣にリズムと変化をもたらしている。今季は4-2-3-1のトップ下をこなすことが多いが、同じ中盤を形成する田中碧と息の合った連係を見せることで、彼のストロングがより輝きを増している印象だ。
「自分は養和時代に1年間、右サイドバックをやった以外はずっと8番(攻撃的MF)か6番(ボランチ)。日本人のテクニックはドイツでも認められているので、良さを発揮しやすい環境にあると思います。去年から碧君が来て、一緒にプレーするのがすごく楽しいし、彼からボールをもらって、僕が前を向くシチュエーションが一番いい。それをもっと増やしたいですね」と大いなる手ごたえを感じている様子だ。
ビーレフェルト戦の47分に田中が奪った今シーズン初ゴールも、右に開いたアペルカンプがお膳立てしたものだった。田中は「本当やっとです。何気ないゴールですけど、ホッとしているし、すごく気持ちが落ち着いた」と話していたから、アペルカンプには感謝の念が強かったはずだ。
「僕も碧君に初めてアシストしたのはすごく嬉しい。今までも1~2回、碧君が僕のアシストから決められるところがあって、決めてくれなかったので(笑)、今回はよかったですね」と本人も安堵感を吐露していた。
中盤を構成する2人に加え、デュッセルドルフにはU-21日本代表候補の右SB内野貴史もいる。7月に左足首前脛腓じん帯を断裂し、長いリハビリを余儀なくされていた彼も今月中には復帰する予定。そうなれば、日本人トリオでチームをけん引できるだろう。
目下、デュッセルドルフはリーグ4位だが、昇格圏の2位につけるダルムシュタットとの勝ち点差は4。まだ序盤戦ということもあり、十分巻き返せる位置につけている。それだけに、躍進の原動力になってほしいものである。
「自分自身は1部に行きたいですし、チームとして上がれれば一番いい。それが今の一番の目標ですね」とアペルカンプもギラギラ感を前面に押し出している。
こういった目に見える活躍を続けていれば、近い将来の日本代表入りもあり得そうだ。2021年5月のUEFA U-21欧州選手権にドイツ代表として参加経験があるが、日本代表として戦いたいという思いは少なからずあるという。
「日本で生まれ育ったので、やっぱり日本代表としてプレーしたいという気持ちはあります。日本のA代表というのはサッカー選手として一番大きなこと。みんなが夢見ていることなので」と偽らざる本音を打ち明けた。
ただ、「仮にドイツ代表から声がかかったら?」という問いには「それはその時ですね…」とも。だからこそ、日本サッカー協会も早く彼を確保しておいた方がいい。FIFAワールドカップカタール2022後には、早急なアクションが待たれるところだ。
いずれにせよ、今のデュッセルドルフには、田中碧と並ぶとも劣らない逸材がいることを忘れてはならない。ここから先のアペルカンプの一挙手一投足を見逃す手はない。
取材・文=元川悦子
By 元川悦子