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元独代表GKエンケの死から5年…サッカー選手とうつ病の関係

2014.11.11

[写真]=Bongarts/Getty Images

 ハノーファーやドイツ代表で活躍したGKロベルト・エンケがこの世を去って、10日で5年が経った。

 2009年11月10日、ハノーファーの練習場へ向かうはずだったエンケは自宅近くの踏切で列車にはねられ、32歳という若さで逝去した。ハノーファーで素晴らしい活躍を見せ、2010年の南アフリカ・ワールドカップに臨むドイツ代表で正GKを争うと目されていたエンケの突然の死。さらにそれは自殺だったことにより、ドイツ国民のみならず、多くの人間がショックを受けた。

 エンケは故郷のクラブでキャリアをスタートさせるとボルシアMGを経て、ポルトガルのベンフィカに1999年移籍。そこで活躍すると、バルセロナへとステップアップを果たした。しかし、適応に苦しみ定位置を確保できず、トルコのフェネルバフチェへとレンタル移籍したが、そこでもサポーターから批判を浴び、失意のままスペインに戻ったエンケは、2004年1月に当時2部のテネリフェへ移り、復調すると、2004年7月、ハノーファーへの移籍が決まり、母国復帰を果たした。

 エンケは2008年に発売された『ワールドサッカーキング』第100号内のインタビューで、バルセロナ所属時について「思い出は今でも僕を苦しめる」と回顧。3部相手のカップ戦で敗北を喫したことにより、周囲からは失格のレッテルを張られ、突如試合のメンバー外になったことで「はらわたが煮えくり返った」と振り返った。

 さらに悩みながら決断したトルコ移籍も最初の試合で0-3の敗北を喫すると、エンケに対して空き瓶や花火が飛んでくる事態となった。一試合で「ここにはいられない」と考えたエンケは、すぐにクラブへ「辞める」と告げ、当時は普通のステップを踏んで移籍することが考えられないほど、「精神的に参っていた」と告白している。

 エンケは死後、夫人の告白によりうつ病にかかっていたことが明らかになった。キャリアで困難を極めたバルセロナ移籍後にうつ病を患ったと言われている。さらに大きな衝撃がエンケを襲う。2006年、先天性の心臓病を患っていた愛娘のララちゃんが2歳でこの世を去ってしまった。これがエンケの精神面に決定的なダメージを与えてしまった。

 エンケは最愛の娘を失った6日後に試合に出場したが、「悲しみと絶望で、何かをやっていないと気が変になってしまいそうだった。実戦から離れれば離れるほど、復帰するのが難しいことは分かっていたから、なりふり構わず出場したんだ」、「ロボットみたいに無意識に動いていたんだろうな」と同誌のインタビューで当時の心境を語ると、ビッグクラブへの移籍や大きな栄冠を手にすることを「人生のドン底に落ちてから、その考えが無意味に思えるようになった」、「今あることすべてに感謝しようという考えに変わった」と告白している。

 同誌のインタビューの結びで、ハノーファーでキャリアの最後までプレーするか問われ、「代表でのポジションをつかみかけたことに新たな希望を感じ始め、欲が生まれてきたのかもしれない」と話しつつ、「ここにはララのお墓があるんだよ」と、生涯ハノーファーでプレーすることを誓ったエンケだったが、1年後に愛娘のもとへと旅立ってしまった。

 厳しい競争にさらされるプロサッカーの世界において、その多くが精神疾患に苦しんでいるとの報告も近年されている。FIFPro(国際プロサッカー選手協会)は、現役選手の約25%、引退した選手の約40%が精神疾患にかかっているとの報告を出している。

 エンケと同郷の元バイエルン所属のセバスティアン・ダイスラーは、周囲からの期待やプライベートのトラブルなどにより、うつ病を発症。度重なるひざの負傷もあり、2007年に27歳とキャリアのピークを迎える年齢で現役を退いた。元ブラジル代表FWのアドリアーノもアルコール依存や、うつ病に苦しんでいたことを代理人が告白。2011年、シャルケを率いていたラルフ・ラングニック監督はバーンアウト(燃え尽き症候群)により、辞任をしている。

 ドイツ誌『FOCUS』は10日、エンケの死後5年が経過したことに合わせ、サッカーとうつ病の現在の関係を考察。エンケの死から「ほとんど学べていない」と論じた。

 エンケの死後、精神疾患の患者を支援するため、ロベルト・エンケ財団を設立したハノーファー。その会長であるマルティン・キンド氏は、ダイスラーやラングニックのように精神疾患を持つ選手が症状を告白することは稀なケースと話す。エンケは非常に限られた周囲の人間にだけ症状を告白し、精神科の診察は受けていなかった。

 ドイツサッカーリーグのマキシミリアン・トゥルク氏は、若年層の選手たちへの心療内科医によるケアが成長を助けると話すなど、リーグや協会の取り組みはエンケの死を機に、様々な取り組みを行っていると話す。一方で、『FOCUS』誌は選手に対するファンの勝利に対するプレッシャーは以前と変わっていないとし、スポーツ精神科医であるヴァレンティン・マルクサー氏は、「アスリートはファンやメディア、クラブが勝利こそ全てと認識している」ことにより、選手が専門科医の診療を受けない、症状を告白しないことを問題視している。

 エンケの夫人であるテレサさんは9月、『BBC』とのインタビューで、「うつ病はもはやタブーではありません」とコメント。「対処法を多くの人が考え、病気をオープンにするようになりました」、「多くの人が勇気を持って『助けを必要としている』と告白してくれるようになりました」と、一般社会でのうつ病への認知が広がり、以前より状況は改善していると言明した。

 一方でエンケが現役時代、多大なるプレッシャーにさらされていたことにも触れ、「スポーツ選手は公の場でうつ病と公表する必要はありません。サポートはきちんと内部でするべきです。クラブやコーチはしっかりと彼らが復帰できること助ける必要があります」と言及。「スポーツとはとても大切なものです。でもスポーツ選手は、まず一人の人間であるということを認識しなければなりません。いいパフォーマンスをしているときはいいですが、人間はミスをします。それを尊重してほしいです。プロスポーツ選手に対する、より深い理解をしていただけることを望みます」とインタビューを結び、スポーツ選手にかかるプレッシャーへの理解を求めている。

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