試合の流れを左右する選手交代 [写真]=Getty Images
監督の手腕を量るうえで1つの要素に挙げられるのが「選手交代」だ。果たしてプレミアリーグの指揮官たちは、選手交代からどれくらいゴールを生み出しているのだろうか?
4月30日に行われたプレミアリーグ第34節のリヴァプール対トッテナムは劇的な幕切れとなった。リヴァプールが3-1と2点リードして迎えた77分、トッテナムのFWソン・フンミンが1点差に迫るゴールを決めると、試合はそこからさらにヒートアップ。84分から出場したFWリチャーリソンが、クロスに飛び込み90+3分にスパーズが3-3に追いついたのだ。トッテナムのライアン・メイソン暫定監督の采配がズバリ的中した瞬間だった。
だが、試合はまだ終わっておらず、そのわずか1分後にはリヴァプールのFWディオゴ・ジョッタがDFラインの背後に抜け出すと、恐ろしいほど冷静にゴールに流し込んで決勝点を奪って見せた。ジョッタもまた残り30分のところで投入された交代出場選手だった。劇的な幕切れに歓喜したリヴァプールのユルゲン・クロップ監督は、喜びのあまり足を痛めたようで「ハムストリングだと思う。内転筋も痛めたかもしれない。とにかく痛いよ」と試合後に振り返った。
ついでに審判の判定も批判して物議を醸しているクロップ監督だが、彼の政権下で途中出場の選手が後半追加タイムに決勝ゴールを奪うのは今回が6度目。これはプレミアリーグの歴史においてジョゼ・モウリーニョ監督(現:ローマ)と並び最多タイだというのだ。交代出場の選手が終了間際にゴールを決めるのは珍しいことではないが、それが決勝点となると案外と少ないようだ。今シーズンに限ればクロップ監督にとって2度目のこと。8月のニューカッスル戦でも、71分に投入したMFファビオ・カルヴァーリョがCKの流れから90+8分に決勝ゴールを叩き込んでいた。
今シーズン苦しんでいたリヴァプールだが、ここにきてリーグ戦4連勝。トップ4入りは難しそうだが、このままいけばヨーロッパリーグ(EL)出場権は確保できるかもしれない。現役のプレミアリーグの監督としては最長任期となる7年半もチームを率いるクロップ監督は、名実ともに世界的な名将だ。だが、今シーズンは選手交代について少し懐疑的な声も聞かれるようになっていた。今年1月のFAカップ4回戦のブライトン戦では、79分にカーティス・ジョーンズ、85分にファビーニョを投入すると中盤のバランスが崩れチームは劣勢に。そして後半の追加タイムに、日本代表FW三笘薫にあの“二段式ボレー”の決勝ゴールを叩き込まれたのだ。
そのため選手交代に関して少し批判を浴びたクロップ監督だが、今回のジョッタのゴールが示す通り、どうやら勝利を呼び込む彼の魔法の采配は失われていないようだ。2019年のチャンピオンズリーグ(CL)準決勝のバルセロナ戦では、ファーストレグを0-3で落として絶体絶命のピンチに追い込まれるも、セカンドレグを4-0で制して大逆転で決勝に駒を進めた。あの“アンフィールドでの奇跡”を演出したのも監督の采配だった。後半から出場したMFジョルジニオ・ワイナルドゥムが122秒間で2ゴールを決める活躍を見せたのである。
そんな強烈なインパクトを残してきたため、今シーズンは少し物足りなく感じてしまっただけだろう。クロップ監督の“交代策”はまだまだ錆びついていないようだ!
それでは、今シーズンのプレミアリーグではどの監督が「選手交代」でインパクトを残しているか見てみよう。
[写真]=Getty Images
■最多交代はトーマス・フランク
クロップ監督(33試合で142回)を抑え、今シーズン最も選手交代を行っているのがブレントフォードのトーマス・フランク監督だ。今シーズンからプレミアリーグも他のリーグにならって交代枠が5つに増えた。そうなると潤沢な資金を誇るビッグクラブが交代枠を最大限に有効利用するかに思われたが、現在9位のブレントフォードを率いる49歳のデンマーク人指揮官が意外にも最多となっている。
データサイト『Transfermarkt』によると、フランク監督は34試合で151回(1試合平均4.4回)の選手交代を行っている。次点のクロップ監督とスティーヴ・クーパー監督(ノッティンガム・フォレスト)の142回を抑えて堂々の1位だ。
ちなみにフランク監督は151回の交代で、投入された選手がゴールを奪ったのは8回。これは今シーズンのプレミアリーグ中で4番目の数字である。中でもインパクトを残している選手がコンゴ民主共和国代表FWヨアヌ・ウィサだ。今シーズンのリーグ戦で34試合に出場して5ゴールを決めているが、そのうち3ゴールが途中出場によるもの。8月のクリスタル・パレス戦では、79分に投入されると、その9分後に貴重な同点ゴールをチームにもたらした。
■全5枚を消費
今シーズンから交代枠が5つに増えたプレミアリーグで、毎試合のようにきっちり5枚の交代カードを切った指揮官は2人だけ。いや「2人だけだった」と言うべきか。一人目はアストン・ヴィラで暫定監督を務めたアーロン・ダンクス氏。スティーヴン・ジェラード元監督を解任した後、ウナイ・エメリ監督を招聘するまでのつなぎ役として10月末に2試合を指揮。2試合とも選手交代枠を使い切り、結果は1勝1敗だった。
もう一人はサウサンプトンを率いたネイサン・ジョーンズ前監督だ。ラルフ・ハーゼンヒュットル元監督の後任として11月からサウサンプトンの監督に就任するも、成績が振るわずわずか3カ月で解任された。指揮した全8試合で5度の選手交代を行ったが結果は1勝7敗。そして、途中出場の選手がゴールに絡むことは一度もなかった…。
■テン・ハフの手腕
今シーズンのプレミアリーグで最も交代出場の選手がゴールを奪っているクラブはマンチェスター・Uだ。今シーズンからチームを指揮し、見事に悩める名門を立て直したエリック・テン・ハフ監督は、32試合で123回の選手交代を行っており、1試合平均3.8回と決して多い方ではない。それでもリーグ最多となる「10ゴール」を交代出場の選手が決めているのだ。
FWアントニー・マルシャルは今シーズンここまで4ゴールだが、そのうち3ゴールが途中出場によるもの。10月の“マンチェスター・ダービー”ではマンチェスター・Cに3-6の大敗を喫したが、マルシャルは途中出場からPKの1点を含めて2ゴールを奪って見せた。
そして期待の“新星”FWアレハンドロ・ガルナチョも監督の期待に応えている。売り出し中の18歳は、11月のフルアム戦で途中出場から90+3分に決勝ゴール。MFクリスティアン・エリクセンとの壁パスでボックス内に猛ダッシュで侵入すると左足でゴールに流し込んで見せた。記念すべきプレミアリーグでの初ゴールが劇的な決勝弾となったガルナチョは、喜びを爆発させてユニフォームを脱ぎ、イエローカードを貰ったが、そこはご愛敬ということで。
ちなみに、テン・ハフ監督の10ゴールに次いで交代選手のゴールが多い指揮官はクロップ監督とニューカッスルのエディー・ハウ監督の9ゴール。そしてブライトンのロベルト・デ・ゼルビ監督とフランク監督の8ゴールと続いている。
いよいよ最終盤を迎えたプレミアリーグ。果たして、今後はどの監督の交代策がズバリ的中するのか? 交代出場の選手に注目したい!
(記事/Footmedia)
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