2017.07.11

【戸田和幸氏の2016−2017プレミアリーグ総括・後編】指揮官たちの“色”がプレミアリーグを変える

リーグのレベルアップには、監督の“色”が必要だと解く戸田氏[写真]=野口岳彦
サッカー総合情報サイト

下位チームまでもが潤沢な資金を持ち、“トップ6”が熾烈な優勝争いを繰り広げる――。近年のプレミアリーグは他のどのリーグにも増して「難しいリーグ」となった。その中で違いを生み出すのは、チームに明確なコンセプトがあるか否か。戸田和幸氏が、チームに変化をもたらす監督の重要性について語る。


インタビュー=国井洋之 写真=野口岳彦

 

“色”をつけられる監督がいるかどうか

昨シーズンの「アーセナルのトップ4陥落」や一昨シーズンの「レスター優勝」など、ここ数年のプレミアリーグではこれまで起こり得なかったことが起こっています。これはリーグ全体のレベルが上がっているということなのでしょうか?

2強のリーガ、1強のブンデスリーガなどに対して、プレミアリーグはよりレベルが高いんじゃないかと言われていますよね。確かにより多くのチームが優勝を争っているのは事実ですし、下位チームにもお金があって各国の代表選手がそろっているというのも事実です。ただ、それがそのまま「リーグのレベルが高い」ということに結びつくかというと、少し違った見方もあるのかなとは思います。例えばスペインの2強の下にはアトレティコ・マドリードがいて、セビージャやビジャレアルといったヨーロッパのコンペティションで活躍できるレベルのクラブが控えている。ヨーロッパリーグ(EL)でマンチェスター・ユナイテッドを苦しめたセルタは昨シーズンのリーガで13位でした。そう考えるとプレミアリーグのレベルだけが高いとは言えない部分もあります。

確かに近年のヨーロッパでの戦いを見ると、むしろプレミア勢は成績が振るいません。

スパーズ(トッテナム)はチャンピオンズリーグ(CL)のグループステージで敗れ、その結果回ることになったELでも決勝ラウンド1回戦でゲントに敗れました。サウサンプトンについてはELのグループステージで敗退してしまいましたし、マンチェスター・シティもCLベスト16でモナコに負けてしまいました。

プレミアリーグにはウィンターブレイクがなく、イタリア、スペイン、ドイツなどと比べるとカップ戦が一つ多い上、FAカップでの引き分け再試合という制度も存在するので、それらによる過密日程の影響でCLではなかなか結果が残せないという言われ方をされてきています。

その「スケジュール」というところで少しさかのぼってプレミア勢のCLでの結果を見てみると、07-08シーズンはマンチェスター・ユナイテッドとチェルシーの決勝でしたし、08-09シーズンと10-11シーズンにユナイテッドが、11-12シーズンにはチェルシーがファイナルに駒を進めて見事に優勝しています。

また、ベスト4に進んだチームの数を見ても、07-08シーズンと08-09シーズンはそれぞれ3チームがベスト4に進むという素晴らしい結果を残しています。ところが、それ以降は11-12シーズンの1チーム(チェルシーが優勝)、13-14シーズンの1チーム(チェルシー)、15-16シーズンの1チーム(シティ)のみ。つまり直近の5シーズンで見ると準決勝まで進むことができたのはわずか2チームという結果になっています。

これらは組み合わせも含め、様々な要素が絡み合っての結果とも言えますが、少なくとも「スケジュール」については、同じようなスケジュールでプレミア勢が4強のうち3つを占める輝かしい時代もありました。

ただしよりスピード化され、強度が高くなってきている現代のフットボールにおいては、それがシーズン後半における選手のフィジカルコンディションに影響を及ぼしていないとは言い切れませんし、もともとが激しいコンタクトプレーが特徴のプレミアリーグですから、いざ勝負というシーズン中盤戦以降のコンディションの維持が難しい問題であるということは間違いないと思います。

また、潤沢な資金を持つプレミアリーグは下位クラブにおいても、例えばハル・シティやサンダーランドにも各国の代表選手がそろっています。しかし、昨シーズンのサンダーランドが他のチームと比べてどうだったかと言うと、純粋な戦力で比較すればやはりリーグの中では下の方に位置づけられると思いますし、これといった特徴のある何かを持つことなく降格してしまいました。

本来は下位クラブほど勝つための「何か」が必要だと思うんです。それはとにかく失点を少なくする為の守備なのか、またはしぶとく勝っていくための緻密なセットプレーなのか、はたまたものすごく攻撃的なサッカーなのか。そういう“色”をつけられる監督がどれだけいるかという視点でプレミアリーグを見ていますが、実際そういった監督がどれくらいいるでしょうか。

“色”をつけられる監督が多いほど、本当の意味でレベルが高いということでしょうか?

例えばウェスト・ブロムウィッチのトニー・ピューリス監督は、「地味で面白くない」という理由で地元サポーターからはあまり人気がないそうです。ですが、プレミア的な視点で言うと「地味」な、固い守備とセットプレーをベースにしたしぶといフットボールで、今までの監督キャリアにおいてクラブを一度も降格させたことがありません。与えられた予算規模と戦力で求められる結果を残すためのフットボールをするという意味では、とても色のある監督の一人だと思いますし、仮にウェスト・ブロムウィッチがオーソドックスな4-4-2のサッカーをやっていたら同じような結果を残すことは難しかったと思います。そう考えるとやはり監督の力は非常に重要ですよね。

ハルでは昨シーズン途中にマルコ・シウバという監督が就任しました。彼は自分と同い年(39歳)のポルトガル人監督ですが、彼の試合中のリアクションを見ていると本当は選手にもっと違ったサッカーをさせたいんだなというのが伝わってきました。とはいえ、ハルの選手たちの顔触れを見てみると、外国人選手を含め身体は大きいですが細やかさには欠ける選手たちがそろっている。現地で観戦していて、監督の思い描くサッカーとチームがリンクしていないなと感じましたし、結果、ハルは残念ながら降格してしまいました。

逆に古き良きイングランドスタイル、たとえそれがキック&ラッシュに近いシンプルなものであっても、15-16シーズンのレスターのように明確な狙いがあり、やるべきことを徹底して実践すれば、十分ビッグクラブを苦しめることができるということは実証されています。

チームとして明確なコンセプトを構築できているかどうかということですね?

プレミアリーグは他のリーグと比べてお金が使える分、どうしても毎シーズン多くの選手が入れ替わりますから、「コンセプト」というようなものを構築する時間がなかったり、そもそもがもっとシンプルで分かりやすいものを好むという土壌があるのかなと。その国にはその国で好まれるスタイルというものがありますから、イングランドの国民性としてより盛り上がるのは古き良きスタイルだということは実際にあるのではないかと思います。

エティハド・スタジアムで試合を見た時も、シティの選手がビルドアップを行う際に横パスやバックパスを使うと、即座に立ち上がって文句を言うファンがいたりしました。またサウサンプトンのホームゲームにおいても、相手のプレスをかいくぐるためにキーパーを使って低い位置で上手に逆サイドへつないだ場面があったのですが、意外にもスタンドからは拍手が起こらない。逆に、積極的に前へ進んで体をぶつけ合い、ゴール前の局面が多くなると大きな歓声が上がっていました。

それはレスターのキングパワー・スタジアムやリヴァプールのアンフィールドにおいても共通して感じたことです。やはりイングランドにはイングランドの人たちが好む古き良きイングリッシュフットボールというものが残っていると思いますし、それは最先端の戦術とはまた別軸にあるような気がします。

チェルシー、スパーズ、シティ、リヴァプール、アーセナル、ユナイテッド、優勝を狙えるチームがこれだけあって、下のチームまで名前が通った選手がいる。競ったチーム、試合の多さという意味では常に大きなエネルギーを使うことになるので、確かに「難しくて厳しいリーグ」という意見は間違っていないと思います。ただ、一ファンとしては国内リーグが盛り上がるのと同時に、ヨーロッパの舞台でも活躍してほしいなという思いがある。アーセナル対バイエルンの「2ー10」のような試合を見るのはやはりショッキングでしたから。

 

[写真]=野口岳彦

2シーズン目を迎えるコンテ、ペップ、モウリーニョに注目

プレミアリーグにもアントニオ・コンテ(チェルシー)を筆頭に、マウリシオ・ポチェッティーノ(トッテナム)、ユルゲン・クロップ(リヴァプール)、ペップ・グアルディオラ(シティ)と、色のある監督が増えてきています。

そういう意味では、様々な「色」を持つ監督がやってきたことで、プレミアリーグはこれからもっともっと変化していくと思います。当たり前のことではありますが、サッカーは選手だけで行われるものではなくチームとしての方向性を決める人間が外側にいる。ですから監督の役割というものは非常に大きいと考えています。

プレミアリーグにやって来たコンテ監督、グアルディオラ監督の印象はいかがでしたか?

コンテ監督は就任1年目でいきなり結果を出しましたから「すごい」の一言です。シーズン当初は4バックでスタートして順調に見えましたが、リヴァプールとアーセナルに完敗したところでスパッと3バックに切り替え、勝てるチームを作ったのは流石だと思います。負けたことがきっかけではありましたが、システムを変えたところもそうですし、ジエゴ・コスタと(エデン)アザールの守備をある程度免除して彼らの持つ攻撃力を存分に発揮させつつ、守備面を中盤以降のラインできちんとカバーさせるという仕組みを作った。チームを変えていくのに適した選手、キャラが立った選手がいたのは幸運だったと思いますけど、コンテはそこで選手に委ねるのではなく、ある程度の枠組みを決めたと思います。

それでもイタリアでやっていた時よりは確実に緩くしていたと思いますし、本来ならよりシステマティックに組織的にやりたかったとは思います。ですが、選手のキャラクターを見極め、結果を残すという視点で方法論を見つけて選手にうまく合わせながら得た結果だと思います。

一方のシティは、ビルドアップのところがなかなかうまくいきませんでした。そういう意味ではグアルディオラ監督志向するサッカーに適した人材が足りなかったということだと思います。(ジョン)ストーンズでは難しいかなと思いますし、新シーズンはサイドバックも入れ替えるでしょうね。ただ攻撃に関しては(ガブリエル)ジェズスが加入してからモビリティ、スピードとコンビネーションの部分で大幅にレベルを上げました。シーズン終盤は内容が非常に良かったので新加入の選手次第という部分もありますが、新シーズンはもっと期待ができると思います。

変化の過程にあるチーム、変化を求められているチームがある中で、トッテナムだけは継続路線というか、ここ数年で積み上げてきたという印象があります。改めて現在のスパーズの強さはどこにあると思いますか?

まずは選手のレベルが高い。超一流に達した選手はまだいないと思いますが、(ハリー)ケインや(デレ)アリは超一流の領域に入りかけている。他の選手も(クリスティアン)エリクセンをはじめ、(トビー)アルデルヴァイレルト、(ヴィクター)ワニャマ、(カイル)ウォーカーなどは皆インターナショナルレベルですし、アスリートとしても優秀なレベルにあります。近くで見ると身体が大きくて動きも速く、その上で技術力も高くチームのためにプレーができる。ポチェッティーノ監督の下で鍛えられて成長してきた選手が戦術的にまとまったコレクティブなプレーができています。

若くて能力があって、身体的にもたくましい選手がいる。そしてしっかりとした哲学を持つ監督がいる。だからどんな局面でもしっかりと戦えるチームになりました。1月に新しい練習場も見てきましたけど、言葉を失ってしまうくらい素晴らしいものでした。あれだけ環境が整えば、このクラブから出ていきたいという選手はなかなか出てこないでしょうし、ここでプレーしてクラブと一緒に上がっていきたいと思える場所になったんだと思います。スパーズはこれからまだまだ上がっていけるんじゃないですかね。

ただ、ホワイト・ハート・レーンのような歴史があって、雰囲気のあるスタジアムなくなってしまう寂しさもありますね。

アーセナルとの最後のノースロンドンダービーも現地で見てきましたが、確かにあのスタジアムがなくなってしまう寂しさはあります。ただ、同時にファンにとってはすでに建設中の新しいスタジアムに対するワクワク感もあると思うんですよね。キャパシティもこれまでの3万6000人から大幅に増える。アーセナルのエミレーツ・スタジアムのキャパシティが約6万人なので、6万1000人に増やしたらしいんですが、そんなところもライバル心の表れなのかなと思いますね。

最後に新シーズンのプレミアリーグについて、戸田さんが特に注目している点を教えてください。

まず「継続」という部分で、2シーズン目を迎えるコンテやペップ、(ジョゼ)モウリーニョがどんなチームに仕上げていくのか楽しみですね。クロップのリヴァプールもここまで続けてきたものが花開くのか、それとも停滞してしまうのか、そういうところにも興味があります。逆に変化を求められているアーセナルがどんな方向にチームを変えていくのかもすごく興味深いですね。

それから個人的には昇格チームのブライトンにも注目しています。僕がスパーズにいた時にコーチをしていたクリス・ヒュートンが監督をしているので、どんな戦いを見せてくれるのか期待しています。他には吉田(麻也)のサウサンプトンは監督が変わってどうなるのか、岡崎(慎司)の3シーズン目はどうなっていくのか、伏兵としてどのチームが出てくるのかなど、挙げればキリがありません。

また冒頭に話をしましたが、イングランドらしいという意味ではバーンリーのようなチームがあっていいと思うんです。ロングボールを中心に走って飛んで身体をぶつけて愚直にゴールを目指す。そんなイングランドの伝統的な部分も捨ててほしくない。

昨シーズンはコンテにグアルディオラと世界的な監督が新たに加わったことで、イングランドに新たな刺激が加わったのは間違いありません。他にもクロップ、ポチェッチーノ、そしてモウリーニョといった監督の存在もあってプレミアリーグは今後さらに変わっていくと思います。

ずっと続いてきたイングランドらしさを残しつつ、新たな風が吹き込むことによってさらにプレミアリーグは面白くなっていくと思いますし、新シーズンは再びヨーロッパのコンペティションで大きな結果を残してくれることを一ファンとして期待しています。

 

[写真]=野口岳彦

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【戸田和幸氏の2016-2017プレミアリーグ総括・前編】アーセナルはなぜトップ4を逃したのか?

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