2018.09.18

欧州制覇へ揃った充実の陣容…「二兎を追う」リヴァプールの挑戦が始まる

リヴァプールは攻守にタレントを揃え、CLを勝ち抜く陣容を整えた [写真]=Getty Images
欧州フットボールをこよなく愛するライター/エディター

「なんでリヴァプールがポッド3なんだ!」。そんな嘆きが方々から聞こえてきそうな抽選結果だった。UEFAクラブ係数によるポッド分けの妙により、フランス王者パリ・サンジェルマン(PSG)、セリエAで2位だったナポリに、昨季チャンピオンズリーグ(CL)準優勝のリヴァプールが加わるという“死の組”ができあがった。なかなか刺激的なグループである。リヴァプールの初戦は、ホームでのPSG戦だ。昨季の大会で計32ゴールを挙げたロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネ、モハメド・サラーの3トップは今季も健在だが、それに負けないくらい強烈なネイマール、キリアン・ムバッペ、エディンソン・カバーニのトリオを相手に、いきなり真価が問われる大一番となる。


チームの課題を克服させた新キャプテン

今季も強力3トップは健在だ(左からサラー、フィルミーノ、マネ) [写真]=Getty Images

 おそらく、レッズがパリのゴールに迫ることはそう難しくない。実に28年ぶり、プレミアリーグ創設後は初となる開幕5連勝を飾ったリーグ戦でここまで挙げた11ゴールのうち、8つはフィルミーノ(2)、マネ(4)、サラー(2)の「9番、10番、11番」によるもの。欧州でも彼らの勢いは止まらないだろう。だからこそ、カギは守備。ネイマール率いる欧州屈指の攻撃陣をストップできれば、それは他のどんなチームとも渡り合えることの証明にもなる。そして今季のリヴァプールは、守備が非常にいい。プレミア開幕5試合で2失点、クリーンシート3回。「らしくない」と言えばそうなのだが、ここまで安定感が抜群なのである。

 ユルゲン・クロップのチームは元々、失ったボールをできるだけ前で奪い返すゲーゲンプレッシングによって“DFによる守備機会”を減らすのがセオリーだ。だが、当然ながら90分の中では攻め込まれる場面も必ずあり、そこでの守備が長らく課題とされてきた。だが、クロップ就任から4季目を迎えた今の守備陣には、クラブ歴代1位の移籍金を支払ったDFフィルジル・ファン・ダイク(7500万ポンド=約114億円)と、2位のアリソン(6700万ポンド=約99億円)が並んでいる。

 ファン・ダイクは今年1月の加入以来、DFの世界最高額がバーゲン価格だったと思えるほど、目覚ましい存在感を見せている。マーキングにおける強さ、ハイボールを跳ね返す高さ、フィードの質といった個人能力の高さはもちろん、常に正しい位置取りで仲間をカバーし、オランダ代表で新キャプテンに任命されたことからもわかるようにリーダーシップにも優れる。パワフルにハリー・ケインを完封し、ジョー・ゴメスやトレント・アレクサンダー・アーノルドといった若手がルーカス・モウラに抜かれれば素早くカバーリングに入るなど、2-1の勝利に大きく貢献したリーグ戦第5節トッテナム戦のプレーには、その実力のほどがよく出ていた。

ピンポイントな大型補強で堅守をベースに

ファン・ダイク(左)、アリソン(右)らDF陣にも大型補強を行い、守備力も強化した [写真]=Getty Images

 GKのボーンヘッドによってレアル・マドリーに敗れたキエフの夜は、今年5月のこと。“夏休みの宿題”を課されたクロップは「アリソン」という答えを出した。第4節レスター戦で足元のボールを相手に奪われて失点を許すという大失態をやらかした際には、ファンの脳裏に悪夢がよみがえったかもしれない。それでも、そのワンシーンを除けば、彼のプレーは安心して見ていられる。

 カネに糸目をつけず、交渉相手の“言い値”を飲んででも、絶対に必要な選手をピンポイントで獲得する。そんな強引な補強策が実って、絶対的な軸が2つできた。彼らのリードに助けられ、対人に強い21歳のCBゴメス、鋭い攻撃参加とクロスを武器とする19歳の右SBアレクサンダー・アーノルドも開幕から思い切りよくプレーができている。彼らは今季、通年で活躍できたなら、クラブとイングランド代表の最終ラインを今後10年に渡って任せられる存在になるだろう。若い2人のバックアップには、中央ならポカも多いがハマれば無敵のデヤン・ロヴレンと、故障癖はあるものの出場すれば冷静沈着なプレーが光るジョエル・マティップが、右には経験豊富なナサニエル・クラインや、万能型の新戦力ファビーニョが控える。ローテーションの舵取りさえ間違えなければ、プレミアとCLの両方で堅守を維持できるだけの陣容だ。

 左SBはチームで最も層が薄い箇所だが、レギュラーのアンドリュー・ロバートソンは、今やこのポジションでプレミアの第一人者と呼ばれるまでになった。小柄ながら粘り強い守備を見せつつ、抜群の走力でゲーゲンプレッシングの一翼を担い、時にはウイングのように攻め上がり、時にはMFのように中央からパスでの崩しに参加する。チームのために汗をかき続けるカルトヒーローとして、彼はすっかりコップの人気者。「ロボ」の鉄人ぶりをもってすれば、シーズンを通じて1人で左サイドを支えることも不可能ではないように思える。

 そんな面々で形成するGK+4バックの守備陣は、戦術スタイルこそ違えど、堅守速攻でならしたラファエル・ベニテス監督の時代以降で最も堅いユニットになりつつある。もちろん、今のリヴァプールにおける主役は間違いなく3トップの破壊力だが、もし主攻の誰かを欠いたり、コンディションが落ちてきたりという不測の事態があっても、堅守というベースがあれば、しぶとく勝ちを拾い続けることができる。

指揮官は「二兎を追う」ことを宣言

リーグ戦との日程も懸念されるが、クロップ監督は「目の前の試合でやれることを全力でする」と一蹴した [写真]=Getty Images

 解説者のギャリー・ネヴィルは、本心ではレッズを忌み嫌うマンチェスター・U出身者ながら、客観的に見て今季のリヴァプールは「プレミアで優勝できる」と思っているらしい。ただし、彼は「サラー、マネ、フィルミーノの状態をベストに保てれば」という条件をつけ、そのためには「2月、3月、4月でCLを去り、休める週があれば」と言った。極端な話、二兎は追わずプレミアに集中せよ、というメッセージだった。

 だが、もちろんクロップにそのつもりはない。「集中しない試合の準備なんて、どうやればいいんだい? 目の前の試合でやれることを全力でするのが我々の仕事だ」とキッパリ言い放ち、もちろんローテーションはするだろうが「二兎を追う」ことを堂々と宣言している。

 アグレッシブで魅力的、でもどこかアンバランスで危なっかしい。それがリヴァプールというチームのカラーであり、劇的展開を自ずと呼び込んでしまうクラブ体質が、数々のドラマティックな物語を紡ぎ出してきた。ただ、ストーリーの結末は奇跡の勝利ばかりではなく、あと一歩での印象的な敗北になることも多い。現に、昨季のCL準優勝を含め、クロップ政権だけで彼らは3度もカップファイナルに敗れている。

 現指揮官がアンフィールドにやってきてから、10月でちょうど3年だ。彼は就任直後の自己紹介で「Doubters(疑う者たち)」を「Believers(信じる者)」に変えると言ったが、9割方、その公約は果たされたと言っていい。だが、残り1割の「疑う者たち」を信じさせるには、どうしてもタイトルが要る。クロップはそのための肝が“無駄な失点を減らすこと”だと考え、お金と意識をピッチの後方に向けることで“しぶとく、確実に勝ち続ける”ためのスカッドを編成したはずだ。

 もうこれ以上、シルバートロフィーはいらない——。欧州の頂点を目指す挑戦が、再び始まる。

文=大谷 駿

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