準決勝での勝利後、円陣で選手に声をかける浮嶋監督 [写真]=AFC
中国を“集団”に変えるために日本人指揮官が「強調してきたこと」とは? 浮嶋敏監督、母国とU17アジア杯決勝で再戦へ
「『どこが相手でも関係ない』と言いたいところですけど……ね?」
そう言って茶目っ気たっぷりに微笑んだのは、U-17中国代表の浮嶋敏監督。22日に行われるAFC U17アジアカップ決勝の対戦相手は、監督の母国である日本である。特別な感情は、当然あるだろう。
2019年途中から21年途中にかけて湘南ベルマーレのトップチームを率いていた浮嶋氏が中国サッカー協会からオファーを受けたのは2024年のことだった。U-15中国代表(つまり2026年現在はU-17中国代表)の指揮官として招かれることとなった。
一つ上の世代は元アトランタ五輪代表DFの上村健一監督を招いており、日本の育成年代の指導者に中国の若年層を託そうという少し前なら考えられないような施策が行われた結果だった。
中国サッカー協会には元中国代表FWであり、富士通(現・川崎フロンターレ)でプレーした経験を持つ高升氏(FC東京MF高宇洋の父親でもある)がおり、浮嶋監督とは同時期に富士通でプレーしていた間柄。だから呼ばれたというわけではないそうだが、やはり高氏あってこその日本人監督路線ではある。
逸材も多いと言われる中国の2009年世代を託された浮嶋監督は、AFC U17アジアカップでの“U-17ワールドカップ出場権獲得”、つまり8強進出をマストの目標と定めて準備を進めてきた。
中国が最後にU-17ワールドカップへ出たのは2005年のこと。GK王大雷らを擁したチームはその前年に行われていたAFC U-16選手権(日本の藤枝市で開催)で優勝を飾り、世界大会でも8強まで進む大躍進を見せている。
だが、その後は低迷を余儀なくされ、全大会で予選敗退。08年大会以降はすべてグループステージ敗退か底にも届かぬ1次予選敗退となってしまっていた。それに呼応するように、U-20、五輪、そしてA代表のカテゴリーも振るわない戦績が続いている。
その中で今回のチームは1次予選や事前の親善試合でのハイパフォーマンスもあって期待値も高く、久々の世界切符が強く期待されていた。5月5日に開幕を迎えたAFC U17アジアカップでは、インドネシア、カタール、そして日本と同居するグループに入ることとなった。
ところが、もっとも与しやすいと見られていた(必ずしもそうではないと思うのだが)インドネシアとの初戦を0-1で落とす苦しいスタートに。さらに続く日本との試合も1-2と惜敗。絶体絶命の状況に陥ってしまった。
浮嶋監督が「風当たりは強かったですね」と苦笑いを浮かべたように、この敗戦を受けて中国国内からは厳しい批判の声も出ていたが、指揮官は「そこまで内容が悪かったわけではない」と前を向き、選手たちを鼓舞。結果、最終戦でカタールを2-0と下し、得失点差で上回っての8強進出。すなわち21年ぶりの世界大会出場を決めることとなった。
この試合について「僕の一番の仕事である世界大会出場を果たせて良かった。何より、選手たちが本当に勇気を持ってやってくれました」と浮嶋監督は胸を張って振り返るように、逆境にあっての強さが光る試合となった。
大きなプレッシャーを乗り越えた選手たちの中には歓喜の涙をこぼす者もおり、一皮むけて自身を付けた様子もある。続く開催国サウジアラビアとの準々決勝を3-1と快勝すると、オーストラリアとの準決勝も2-0の粘り勝ち。優勝した04年日本大会以来の決勝進出となった。
浮嶋監督は準決勝後の記者会見にて、「最初はあんなに苦労してたチームが今こうも強い秘密は?」という趣旨の質問について、こう答えている。
「初戦もそんなに悪かったわけじゃないと私は思っています。20本のシュートを打って(公式記録上は19本)入らなかった。今日は入った。最初のゲームと今日のゲーム(準決勝)でそんなに差はないと思っています」
特に育成年代において、結果より過程を重視する文化を持つ日本人指導者が好んで使う言い回しだが、あるいは中国の人たちの価値観とは少し違うのかもしれない。
また浮嶋監督はサッカーの例え話として、サバンナの肉食獣であり、集団での狩りの成功率がライオンやチーターなどを凌ぐことで知られる“リカオン”のあり方を、一つの理想像として中国の選手たちに語って聞かせたと言う。個々は持久力と粘り強さがあり、集団としては巧みに役割分担して共通のミッションをこなしていく、つまり「コレクティブな集団であろうということは強調してきた」と言う。
これまた記者会見で象徴的な場面があり、中国人記者から得点した選手への称賛のコメントを求められた浮嶋監督はこう答えている。
「個人が点を取ったわけではなくて、ボールを奪った選手がいて、パスを繋いだ選手がいて、そして得点が生まれています。みんなの得点なんです。守備も同じで、ゼロに抑えられた理由は、みんなで守ったから。得点も失点も全員が関わってものだという考えを私はしているので、特に個人の評価はないです」
ある種の“塩対応”とも言えるので「大丈夫なのかな」とちょっと心配になってしまうところだが、どうしても個人主義傾向のある中国サッカーにおいて、集団として攻守一体に戦う重要性を説くには、このくらい徹底しておく必要があるということなのかもしれない。
つまり、一頭のライオンが際立つスタイルではなく、リカオンのサッカーというわけだ。全体として身体能力に秀でた選手が多いのは従来の中国と共通する部分だが、テクニカルな選手も多く起用されており、集団的なパスワークの意識も強い。このため、試合を観ていると、“日本サッカーっぽさ”を感じることもある。
日本との決勝は、グループステージ第2戦での再戦となる。浮嶋監督は、この母国の代表について「アジアで一番強いと思いますし、クオリティは本当に一番」と敬意を示しつつ、「2度目の対戦なので、選手にとって凄く良い機会になる」と、この試合を通じてのさらにチームを“もう一化け”させたい考えだ。
21年ぶりのアジア王者を目指す中国チームの指揮官は、「日本の弱点は見えているけど、1度やったのでこっちの弱点も見られちゃっていると思うからね」と笑いつつ、“日中決勝”への強い思いをにじませていた。
日本と中国が相撃つ注目のAFC U17アジアカップ決勝は、現地時間22日20時(日本時間22日26時)に開幕することとなる。
取材・文=川端暁彦
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By 川端暁彦
