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選手のキャリアと移籍を考える【雑誌SKアーカイブ】

2020.03.19

冬の移籍期限最終日の1月31日、トルコに到着した香川は大歓迎するベシクタシュのファンと報道陣に囲まれた[写真]=Getty Images

[サッカーキング No.001(2019年4月号)掲載]

サッカー選手の移籍には、一種のギャンブルのような側面がある。異なる言語や生活環境、新しい監督やプレースタイル……。変化に適応し、かつピッチで結果を出すのは、簡単なタスクではない。選手のキャリアを考えるうえで、避けては通れない「移籍」について、日本人エージェントの第一人者、田邊伸明さんに話を聞いた。

インタビュー・文=坂本 聡
写真=ゲッティ イメージズ

「移籍したい」と考えて発言したことが素晴らしい

ドルトムントで出場機会を失った香川真司は、ベシクタシュへの期限付き移籍を選択した[写真]=Getty Images

――実は、今回の特集で香川真司を扱おうと思ったときに、ちょうど乾貴士(アラベス)がSNSで、セルジオ越後さんの記事に反論するという一件があったんですね。セルジオさんは「香川の移籍はタイミングが遅かった」と主張していて、つまり海外に行っても試合に出られないなら意味がないと。それに対して乾は、試合に出ることが一番だけど、そこでもがいて頑張ることにも意味があると主張した。それを見たとき、どちらの言い分も間違ってないと思ったんですよ。それで田邊さんにお話を聞きたかったんです。少し頭を整理したくて(笑)。
それは結局、誰のためにサッカーをしているのか、という話ですよね。端的に言うと、選手にとってサッカーは仕事なんです。誰だって仕事と向き合うときは、金銭的なことを考えるし、家族の都合だとか、子供の学校だとか、いろいろなことを踏まえてキャリアを選びますよね。その決断を他人がとやかく言うのはおかしい。だけど、「公人」と呼ばれる人たち、たとえば政治家は言動をチェックされます。

――はい。それは政治家が、有権者の税金を使って活動しているからですよね。
セルジオさんはサッカー選手も「公人」と捉えているんでしょう。選手は国の代表チームのために存在すると。つまり彼の論点は、選手の将来を考えたときに「もっと活躍するためにはこうすべきだ、そうすれば日本代表がより強くなる」ということなんです。

――でも厳密には、サッカー選手を「公人」と呼べるかどうか……。
だから、基本的には大きなお世話なんですよ(笑)。ただ、セルジオさんはそこまで分かったうえで、あえて言っていると思います。それが彼の仕事だから。それでも乾が反論したのは、そこに何かがあるということでしょうね。他人が知らない何かが引っかかって、反論せざるを得なかったんだと思います。だって、セルジオさんのロジックは今に始まったことじゃない。僕が20年前に稲本潤一(SC相模原)をアーセナルに移籍させたときも、セルジオさんに全く同じことを言われましたよ(笑)。

――なるほど(笑)。セルジオさんは常にナショナルチーム最優先ですもんね。そういう意味では考え方が一貫している。
でも、当時22歳の稲本と、30歳の乾では全く状況が違いますからね。それならカズ(三浦知良)にも同じことを言えるのか。横浜FCで試合に出られないならJ3に行け、と言えるのか。全員に同じロジックを当てはめることはできません。

――つまり、香川の移籍についても、試合に出るか出ないかという基準だけを当てはめるのは無理がある。といっても、香川は今シーズン前半戦、ドルトムントでほとんどプレーできませんでした。セカンドチームで活躍している香川を見るのは、ちょっとつらいものがありました。
僕が代理人だったとしても移籍を提案しているでしょう。香川は本当にすごい選手ですから。でも同時に、彼は21歳の若手ではないし、欧州で8年もプレーしている選手です。例えば彼が35歳までプレーするとして、あと5年間をどう考えているのか。それが重要です。4年後のワールドカップに香川が必要だ、と周囲が思うのは勝手だけれども、彼自身はそう思っていないかもしれない。それよりお金のほうが大事かもしれない。早く日本に帰りたいと思っているかもしれない。それは本人しか分からないんです。

――その点で言うと、象徴的だったのは、香川自身が移籍したいという意思を明らかにしたことだと思います。今までの彼なら考えられないし、サッカー界全体を見てもめずらしいことですよね。
そうですね。普通は言えません。それをなぜ言えたかというと、クラブが移籍に対してポジティブな態度を取っていたからです。チームメートもそうでしたよね。香川の現状に対して、これではもったいない、もっと活躍できる場所があるはずだ、とみんな思っていた。それは彼がドルトムントの一部として、チームから本当にリスペクトされている証拠ですよ。そういう背景があったからこそ、本人も気持ちをオープンにできたんだと思います。

――ドルトムントの人たちは、香川のこれまでの貢献を分かっていた。地元ファンに愛されている選手でもありますし。本人も悩んだでしょうね。
悩んだでしょう。でもやっぱりサッカーをしたかったんじゃないかな。お金じゃなくて、やっぱりボールを蹴りたかったのかもしれない。そこは分かりませんが、「移籍したい」と考えて、それを発言したこと自体は素晴らしいと思います。それは答えられません、じゃなくてね。自分の口で意思を表現できる選手はなかなかいないんですよ。

「ヨーロッパ」とひとくくりにできるようなものではない

高原は2003年に磐田からハンブルガーSVへ移籍。バイエルン戦で移籍後初ゴールを奪い、名GKカーンの連続無失点記録を止めた。高原の活躍が、その後の長谷部や稲本、香川や内田へと続く流れを作った[写真]=Getty Images

――香川が移籍先にトルコを選んだ決断についてはどう思いますか?田邊さんは2006年に、稲本をガラタサライに移籍させています。
トルコは難しいです。ドイツからトルコに行くのは、生活面でものすごく変わるわけではないんだけども、文化や習慣は全く違います。トルコの人々を理解するには時間がかかる。それにリーグのレベルも高いですよね。今はDAZNで放送するようになったので、みんな分かると思いますが。

――そうですよね。ブンデスリーガ以上にテクニカルだし、当たりもかなり激しい印象です。
そしてファンがとんでもなく熱狂的な国です。だから香川も大歓迎されたわけですが、そこできっちり結果を出した。あれをできるのが香川ですよ。移籍が成功するか失敗するかというのはすごく難しくて、他人には見えない成功もたくさんある。試合に出ていなくても、その選手のキャリアステージにおいては成功だった、ということもあります。だけど香川の場合は、誰がどう見たって「成功」と言うしかない。こういう見事な移籍の選択ができるのは、やっぱりさすがだと思いますよ。

――そこが29歳の選手ということかもしれないですね。ヨーロッパで8年もやってたからこその結果という。
香川は1回マンチェスター・ユナイテッドに行って、移籍の難しさを身をもって知っている。本人はスペインに行きたいと言っていたようですが、その選択肢も含めて、いろんなことを考えたはずだし、それをトータルに判断した結果がこの移籍だったと思います。

――僕たちは「日本/世界」という分け方で、海外の国々を一緒くたにしてしまいがちですけど、実際は同じヨーロッパでも国ごとに全く違うわけだから、その判断というのはかなり重要ですよね。例えば日本人選手はドイツが合っていると言われますけど、これは環境が他の国より整っているということですか?
ドイツはいろんな部分で日本に近いんですね。いや、日本が近いという言い方が正しいのかな。ドイツ人は日本人のメンタリティをよく理解してくれますし、日本人にとっても彼らのメンタリティは理解しやすい。スペインのようなラテン系の国は全く違います。

――田邊さんのような代理人にとっても、ドイツのクラブは仕事をしやすい?
ドイツのクラブは日本人選手をよく知っているので、その点では仕事をしやすいですよ。それは2003年に高原直泰(沖縄SV)が移籍して以降、ブンデスリーガで活躍してきた日本人選手たちが築いたものです。今シーズンは昌子源がトゥールーズに行ったし、すでに酒井宏樹(マルセイユ)もいるから、フランスのクラブにも日本人選手を見直してもらいたいですね。

――ベルギーリーグは再び、日本人選手を見直してきている気がします。今後、日本人選手にとって海外挑戦の中継地点のようになりませんか?
ベルギーのクラブは資金がないんですよね。植田直通(セルクル・ブルージュ)だって、実質的にはモナコが獲得して、ベルギーでプレーさせているようなものです。マンチェスター・シティが板倉滉と契約して、フローニンゲンにレンタルさせているのと同じです。

――ビッグクラブが若い選手を獲得して、ベルギーに送り込んで育てる、という場所になってきている。
そうしなければ移籍金を払えないからです。ベルギーのほとんどのクラブは、Jリーグのクラブを満足させる移籍金が払えません。だから、ベルギーにこれから日本人選手がどんどん増えますよ、とは言えないんです。

――なるほど。ベルギーの外国人枠が緩いとか、レベル的に日本人選手が通用するとか、そういう論点ではないんですね。ただ、ジェブさんがマネジメントしている冨安健洋(シント・トロイデン)は、ベルギー移籍がうまくいった例だと思います。アジアカップの試合を見たときは驚きました。こんなにいい選手だったかな、と思って。
冨安はすごく伸びましたね。ただ、彼にしてもシント・トロイデンが移籍金を払ってくれたから行けたんです。そのシント・トロイデンだって、今レンタルしている鎌田大地を買い取れるかと言ったら、たぶん買えないですよ。移籍金がすごい金額になっていますから。

――鎌田はフランクフルトと契約しているから、もう年俸や移籍金が上がっている。各国のリーグの間に、それだけ格差があるということですか?
そうです。「ヨーロッパ」とひとくくりにできるようなものではないし、ラテン系の国とそうじゃない国でも全く違う。シント・トロイデンのようなクラブは、ベルギーの中でも例外です。日本人選手が簡単にベルギーに行けるかと言うと、そんなことはないんですよ。

――先ほど話に出た植田や板倉のようなケース、つまり資金力のあるクラブが若い選手に投資して、そこからレンタルに出してプレー経験を積ませるという。これは海外では昔からよくある手法ですけど、日本の若手がそこに絡んできているのは新しい流れですよね。
Jリーグの若手選手が海外のクラブに移籍するとき、最初は出場機会が大切ですよね。年俸は安くても、試合に出してくれるクラブのほうがスタートはうまくいく。するとどうしても小規模なクラブになるので、あまり移籍金を払えない。でも、それでは日本のクラブが納得しない。そのギャップをどう埋めるか、というアイデアが必要になります。

――ああ、なるほど。選手は挑戦したいのに、Jのクラブが移籍させてくれない、ではなくて、単にお金の条件が見合わない。
そういうことです。それが植田や板倉みたいなパターンだと、日本のクラブにきちんとお金が入るし、選手にとってもハッピーな方法だと思う。今後は一つのトレンドになるんじゃないかと思います。だから弊社も、浅野拓磨(ハノーファー)はそうしたんですよね。アーセナルに移籍させて、そこからレンタル先を探した。ただ、その場合はレンタル先を親身に考えてくれるクラブと、そうではないクラブがあるので、見極めは重要かもしれませんね。浅野はシュトゥットガルトからオファーがありましたが、それとは別に、アーセナルは当時のアーセン・ヴェンゲル監督が提案したレンタル先を準備してくれました。

本田のミラン移籍よりもすごい案件はない

本田はVVVフェンロから2010年1月に4年契約でCSKAモスクワへ移籍。欧州の他クラブへの移籍が何度も噂されたものの、4年間の契約期間を全うしてミランへ新天地を移した[写真]=Getty Images

――一つ気になっているのは中島翔哉のケースなんですよね。昨シーズンはFC東京からのレンタルでポルティモネンセに行って、今シーズンから完全移籍したと思ったら、この2月にカタールのアル・ドゥハイルに移籍しました。この契約の裏には、同じカタール資本のパリ・サンジェルマンの存在が噂されていますけど、そうだとすると板倉や浅野と同じケースですよね。実情はよく分かりませんけども。
それはもう、関係者しか分からないことですからね。言えることなら言うでしょうし。単純に金銭面で条件が良かったから移籍しました、ということでもおかしくはない。ヨーロッパのトップ選手だって中国に移籍するわけで、そこに不思議はないですよ。PSGが絡んでいるとしても、それなら浅野と同じケースということだから、特に新しい動きではない。ただ、ポルティモネンセはテオ(テオドロ・フォンセカ)が筆頭株主のクラブだから、どんな形であれ、ビジネス面はしっかり考えているでしょうね。

――ただ、カタールのクラブが高いお金を払ってくれたとしても、そこで中島翔哉の価値が上がらなければ、代理人としてはサステナブルなビジネスにならないと思うんです。ステップアップするのも、新しい移籍を仕掛けるのも難しくなりませんか?
僕たちはいつも、例えばベルギーに選手を移籍させるとしたら、ベルギーの選手が次にどこに移籍しているかを徹底的に調べるんです。ドイツとトルコの移籍はお互いに多い。スペインのトップ選手はだいたいプレミアリーグに行く。イタリアとフランスも相性はいい。そういった情報を調べ尽くすんですね。ではカタールの次はどこかと言うと、カタールからヨーロッパの4大リーグに移籍する選手は皆無なんですよ。

――つまり、カタールリーグでプレーしても、全くステップアップにならない。
そうです。わざわざカタールを選ぶ必然性がない。となると、裏に何かあると考えるほうが自然ですよね。あるいは本人が「ステップアップしなくていい。お金をもらえれば」と考えているのか。だとしたら、それはそれでいいと思います。日本の将来を背負う選手がステップアップしなくていいのか、と言う人もいるでしょうけどね。

――セルジオ派の意見ですね(笑)。
お金のほうが大事ならそう言えばいいでしょう。だけど中島本人ははっきりしたことを言っていない。それは何か理由があるんだと思いますよ。

――ステップアップの難しさで言うと、一時期のロシアリーグがそんな感じでしたよね。クラブにお金があるから、選手がなかなか外に出られなかった。
ロシアは難しいですね。ドメスティックな市場価値と、ヨーロッパの市場価値の差が大きいから、ロシアにいい選手がいても高くて買えない。今の日本とタイもそうなりつつあります。タイの市場価値が高くなってきて、日本の市場価値と合わなくなってきている。だから2010年に、本田圭佑がオランダからCSKAモスクワに移籍したときは、この先が難しくなるな、と思いました。

――本田はCSKA時代、ステップアップを望んでもなかなか移籍できなかったですよね。それは本田を欲しいクラブがなかったんじゃなくて、CSKAが移籍金を譲らなかった。本田を欲しくても買えるクラブがない、ということじゃないですか。その観点がないと、本田の評価はどうなんだとか、本人がわがままを言っているとか、そんなニュースになってしまうんですよ。当時はそういった適当な報道を見るたびに苦々しく思っていました。
だけど本田は最終的にミランに行きましたからね。それを実現できてしまうのが、本田のすごいところです。ミランは本田を利用してジャパンマネーを集めようというレベルのクラブではない。過去の日本人選手の移籍で言えば、本田のミラン移籍ほど注目を集めたケースはないと思います。

スカウティングの進歩を知れば、移籍に対する考え方も変わる

世界中にスカウト網を張り巡らせるシティグループ。日本人選手の動向にも注目しており、食野亮太郎(写真)と板倉滉を獲得した[写真]=Getty Images

――結局、サッカー選手にとっての移籍の難しさというのは、「サッカーがチームスポーツだから」ということに尽きると思うんです。どんなチームに入っても成功する選手なんてひと握りだとすれば、クラブ選びの判断はキャリアを左右しかねない。田邊さんはご自身がマネジメントしている選手が移籍するとき、どういう基準で移籍先のクラブを判断しているんですか?
選手の年齢やポジションによって変わります。たとえば、日本から海外に移籍するときは、年俸が安くても出場機会があるクラブがいい。でも、すでに海外でプレーしている選手が次のクラブを選ぶなら、やっぱりお金があったほうがいいし、ビッグクラブにチャレンジするほうがいいのかもしれない。それからリーグのスタイルも関係があります。ストライカーだったらこのリーグがいいとか、ボランチだったらどこだとか。選手によって全く違うので、簡単には言えません。

――そうなると、代理人の重要性というのはもっと評価されるべきだと思いませんか? どのクラブに行くかで選手の人生が変わるんですから。
いや、どこの国を選ぶかよりも、本当に重要なのは選手自身のメンタリティですよ。特に日本人選手を海外に移籍させるときはそうです。サッカーよりも前に、靴を履いたまま家に入れるのかっていう。日本は島国で、江戸時代に長く鎖国していた。普通に生きていたら外国人と触れ合う機会も少ない。外国人を異質なものとみなす、そういう精神がいまだに根強く残っている社会で育って、いきなりヨーロッパの社会にフィットするのは本当に難しいんです。以前、何かのインタビューで言いましたけど、僕は中田浩二がヨーロッパで絶対に成功すると思っていた。それは彼の家庭が転勤族で、適応能力がすごく高かったからです。マルセイユからバーゼルに移籍したとき、夏のキャンプで選手がみんな丸刈りにしたら、自分も丸刈りにしてね。

――そんなこともありましたね(笑)。びっくりしましたが。
まさにそういうことなんです。「海外に行きたい」と言う日本人選手は多いけれど、そのままでは無理だと思う選手がほとんどですね。そこをサポートするのも代理人の仕事だと捉えています。だから代理人選びが重要になる。そういう意味では、アジャクシオに行った澤井(直人)はすごいですよ。フランスに行くとなったらフランス語を猛勉強して、向こうに行って半年で、インタビューにフランス語で答えている。これはメンタリティの問題。もちろん、日常生活でフィットしても、ピッチで活躍するかどうかはまた別なんですけどね。ただ、両方がうまくいかない限り誰もが認める成功はない。

――移籍はどうしてもギャンブルというか、行ってみないと分からないこともあるだろうから、難しいですよね。ただ、一つポジティブな流れは、スピードアップしていることだと思うんですよ。選手をスカウトして、交渉して、契約して、という一連の動きが、確実に速くなっている。移籍の件数そのものが増えていますよね。
それはやっぱり、テクノロジーの発達が大きいですね。稲本のときはVHSのビデオをダビングしてクラブに送っていたのに、それがDVDになって、データファイルになって、今はもう送らなくてもいい。Wyscout(ワイスカウト=選手の情報をプレー映像とともに検索できる世界的なデータベース)のようなシステムがあって、クラブが映像を探してくれますから。この20年間でスカウティングはものすごく進歩しています。シティグループとレッドブルのグループが持っている独自のスカウティングシステムもすごい。どこかのメディアで取材してほしいです。見せてくれないかもしれないけど(笑)。世界のスカウティングがどうなっているかを知れば、選手の移籍に対する考え方も変わると思います。

――選手が活躍できる期間がそう長くないことを考えると、移籍しやすくなっているのはいいことですよね。結局のところ、移籍ってマッチングの問題じゃないですか。Wyscoutだって一種の転職サービスみたいなものだと考えれば。
そうすると逆に、選手が一つのクラブでキャリアを終えることの価値が見直されるかもしれないですね。元ミランのパオロ・マルディーニみたいな。移籍がしやすくなるからこそ、生涯同じクラブでプレーする選手はすごい、ということになる。それもおもしろいと思います。

――移籍がマッチングだという視点を失うと良くないですよね。例えば今回の香川の移籍を考えたとき、彼はドルトムントで実力が落ちて、ベシクタシュで成長したわけではない。彼自身はずっといいプレーヤーです。だからサッカーメディアが「香川、真価を証明できるか」みたいに書いてるとウンザリするんですよ。香川の真価はみんな、とっくに分かっているじゃないですか。ただ、環境が変われば活躍できないこともある。それだけのことだろうと思うんです。
究極的に言えば、サッカー選手にとってサッカーは仕事だから、本人が良ければそれでいいんです。誰だって人生を振り返ったとき、「これは失敗したな」とか、「この時は良かったな」とか、そう思うわけじゃないですか。本人の物差しと、周囲の物差しがあって、それが多くの場合は違っているということですよね。

――確かに。そうなると、サッカー選手にとっての「成功」とはどういうことなんでしょうね……?
それは日を改めて、2時間くらい話したほうがいいですね(笑)。選手にとっては、W杯に出るのも成功だろうし、チャンピオンズリーグに出るのも成功でしょう。だけど、それは本人の基準です。もっと客観的な視点から言うと、選手にとってサッカーが仕事だとして、その仕事はどうやって成立しているのか。それは、どこかのクラブがお金を払って、選手と契約したいと言ってくれるからですよね。契約してくれるクラブがなければ、選手はプレーすることもできない。だから間違いなく一番の成功と言えるのは、長くプロとして、お金をもらってプレーすることです。それが現時点での僕の結論ですね。そう考えたとき、初めてカズのすごさも分かるんですよ。

※この記事はサッカーキング No.001(2019年4月号)に掲載された記事を再編集したものです。

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