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【インタビュー】木暮賢一郎日本代表新監督 ~日本でフットサルの価値を上げるために~

2021.12.15

木暮監督 ©JFA

 11月、フットサル日本代表の監督に木暮賢一郎監督が就任することが発表された。

 木暮監督は自身も選手として3度のフットサルW杯に出場し、引退後の2014年から率いたシュライカー大阪では、2016-2017シーズンにチームを初のリーグ優勝に導いた。名古屋オーシャンズ一強と呼ばれるFリーグで、初めて名古屋以外のチームを優勝させることに成功し、U-20フットサル日本代表やフットサル日本女子代表の監督も歴任。満を持しての就任には反響も大きい。

 選手としても指導者としても経験豊富な木暮監督が目指す日本フットサルの未来像や、木暮体制初のフットサル日本代表候補合宿について話を聞いた。

インタビュー=しょうこ

―――就任が発表されてから周囲の反響はいかがですか?

木暮 僕から連絡をした方もたくさんいますし、いろいろな方が連絡をくださって、期待をしてもらっていると感じる声をいただきました。フットサル界だけでなくサッカー界でも、身近で応援をしてくれていた方々は喜んでくれたと思います。僕自身、代表監督になりたいということは常々発信をしてきたので、周囲も驚きというよりも「やっとそのタイミングがきた」という反応が多かったのではないかと感じています。

―――フットサル日本代表の監督は目標の場所のひとつであったと。

木暮 そうですね。多くの選手が結果を出して代表に入るという目標を持つように、指導者という立場になってからも「しっかりとクラブで結果を出して、ステップアップした先が日本代表である」というマインドは変わらずにありました。望めばたどり着ける場所ではありませんが、目標に向かって仕事をしていくというのは選手の時と変わりません。

―――選手時代から引退後は監督として指導に携わる目標だったのでしょうか?

木暮 僕がフットサルを始めたころはフットサル専門の指導者の数が少なく、自分たちが選手としてブラジルに行って勉強するような環境でした。スペインに移籍をしてプロの監督たちと関わる中で、日本が強くなったり、育成の面で変化をしたりするためには、いい指導者が必要だと感じました。いち選手としては監督の要求するものを理解する立場であることが当然ですが、現役時代の晩年は「日本のフットサルを強くする」「日本のフットサルを確立する」という視点に立ち、自分が経験してきたことを形にするにはできることが限られている、と感じていました。それが引退した理由でもあります。十数年にわたり蓄積してきたものを表現するには立場を変えなくてはならない、と。もしかしたら晩年は、ピッチ外では指導者目線でフットサルを見たり、考えたりしていたのかもしれません。指導者の道に進むことは、自然な流れだったと思います。

―――代表監督の打診があったときはどういった気持ちでしたか?

木暮 引退して、FリーグU23選抜の監督として指導者の道に足を踏み入れた日から、いつそういう日がきてもいいように学んで、実践をして、準備をしてきたので、「うれしい」や「目標が叶った」よりも「ここからが本当のスタートだ」という気持ちでした。日本代表がどういうものか十分に理解しているつもりなので、やるべきことをしっかり進めていくという気持ちが上回ったのだと思います。

©JFA

―――これまで日本代表のコーチを務めていましたが、コーチの立場と監督の立場では選手に対するアプローチはどのように変化しますか?

木暮 コーチというのは監督のモデルや考え方をしっかりと理解して、必要があればそれを基に選手と話をしたり、質問に答えたりします。選手と一緒にボールを蹴ることもありますし、トレーニング後の自主トレに関わって相談に乗ることもありました。なので、コーチと監督の役割はまったく異なります。ただ、FリーグU23選抜の監督に就任した時も、シュライカー大阪の監督に就任した時も、現役の時にチームメートだった選手たちと突然監督と選手になることを経験しているので、今回も立場が変わることに関してはまったく心配はありません。

―――監督としてチームを構築し選手を選ぶ立場となったことで、Fリーグなどの視察への変化はいかがでしょうか?

木暮 コーチ時代は監督の「こういう選手を見てほしい」「こういう見方をしてほしい」というオーダーを受けて報告をするパーセンテージが多かったですね。僕自身の主観が必要であれば話はしますが、原則として監督が求める基準に対するフィードバックをしていました。今は自分の中にあるアイデアやコンセプトの上で見るので、同じ選手だとしても見る視点が異なります。

―――以前、木暮監督にとってブルーノ・ガルシア前フットサル日本代表監督は「指導者の父であり師匠である」と伺いました。ブルーノ前監督と過ごした中で印象的なエピソードはありますか?

木暮 どれかひとつというよりも、ミーティングにしても、トレーニングにしても、すべてにおいて学びがありました。選手のころから監督というものを目指していたので、関わったすべての監督のスタイルは覚えていますし、学びにもなっています。ですが、指導者になってからともに過ごしたのはブルーノ前監督だけです。「君が次に監督という立場に戻った時には、ここで見た良いものは使えばいいし、違うと思うものはやめればいい」という話もしてくれていたので、ともに過ごしたすべてが財産だと思っています。ただ、一番多かったのは昔のスペインの話かもしれないですね。僕が選手としてスペインにいた時に彼はクラブの監督だったので、コーチと監督としての会話よりも、お互いにフットサルが好きだからこそ出てくる何気ないフットサルの話がとても印象に残っています。

―――監督就任は報告されましたか?

木暮 はい、連絡をしました。喜んでくれた、と思っています。

―――9月にリトアニアで開催されたフットサルW杯にはコーチとして帯同されましたが、大会を通して感じたことはありますか?

木暮 ブルーノ前監督のモデルやプランニングを基に選んだ選手たちと積み重ねてきたプロセスを知っているので、「日本代表がどうだったか」ということを僕が言及することは難しいと思っています。ただ、日本以外の国という観点では、コロナ禍の影響で準備期間にバラつきがある中でも世代交代が進み、新しい選手が活躍したり、新興国が台頭したり、新しい発見を興味深く感じました。GKを上げることも、数年前までは驚きであったり、時には“アンチ・フットサル”として「おもしろくない」という声が挙がったりしていました。ですが、多くの国がGKをうまく使う時代になりましたね。また、長い期間、ブラジルとスペインの二強でしたが、2016年にアルゼンチンがチャンピオンになり、今回はポルトガルがチャンピオンになりました。僕が選手だったころには、まだ世界で活躍をする域に達していなかったカザフスタンやコロンビアのような国が成績を挙げ、情報が集まる時代でフットサルが進化し、W杯にふさわしい開かれた大会になったと思っています。ポルトガルのジッキーやブラジルのレオジーニョのように20歳前後の選手がW杯で活躍したという事実を受け止め、我々も世界に挑むために追求していかなくてはならないという気持ちもあります。

©JFA

―――U-20フットサル日本代表の監督も兼任されますが、メリットはどう考えていますか?

木暮 U-20の監督をしながらフル代表のコーチをしていた時にも、選手たちには「U-20のAFCフットサル選手権でタイトルを取ることもひとつの目標だが、それ以上に一日も早くフル代表に入るという意識が必要だ」と伝えてきました。フットサルはサッカーのようにU-23というカテゴリがないので、U-20の次はフル代表しかありません。U-20から次への期間が空くことは避けたいと思っています。ただ、避けたいからと言って実力の足りない選手を無理やり入れることは、フル代表の価値を損ねます。自分が指導することで意識を変化させ、技術面、戦術面、フィジカル面を早く成長させる機会があると捉え、3年、4年かかるかもしれないところを短縮できるようにチャレンジしたいと思っています。誤解してほしくないのですが、兼務しているから意図的に上げるわけではなく、早いうちからいい指導をすることでの結果にしていきたい、ということです。

―――フル代表の基準を満たす選手を早いうちから育てる、ということですね。

木暮 そうですね。当然、クラブがあっての代表なので、例えば18歳の選手に高いポテンシャルがあり、アンダーカテゴリの指導でいい感触があったとしても、その選手が自クラブでしっかりとプレータイムを得ていいパフォーマンスをしないと、フル代表に呼ぶことはできません。どれだけU-20の選手たちが自クラブで出場するための変化のきっかけにできるかが、重要だと思っています。

―――監督就任後初のトレーニングキャンプが始まります。メンバー選考はいかがでしょうか。(※取材はメンバー発表前の12月初旬に実施)

木暮 選考はもう終わっています。いくつかの視点で見ていますが、代表のコンセプトや強化方針は新しいフェーズに入ったと感じています。サッカーのW杯最終予選などでもそうですが、非常に短い時間の中で求められる結果を出すことが、代表チームの通常の在り方です。それはフットサルでも同様で、スペイン代表やブラジル代表もリーグ戦の間はリーグがベースとなっていて、FIFAデイズなどの期間で結果を出しながら、然るべき大会の前には十分な準備期間を設けて臨んでいます。しかし、日本のフットサルは学びの期間が長くあったので、リーグ戦の期間中でも月に1回、3日間の合宿をして、プレーモデルを浸透させてきました。ですが、ここから先はもうひとつステージを上げるために、しっかりとリーグでの競争があり、自分たちが目標とするコンペティションに対して活躍している選手を「選ぶ」ということが大切になってくると思います。

 スペイン語ではクラブの監督と代表監督は表現が異なるんですね。クラブの監督は直訳すると“訓練する”、あるいは”トレーニングをする”という意味の「エントレナドール(entrenador)」ですが、代表監督は“選ぶ”という意味の「セレクシオナドール(seleccionador)」といいます。まさしくその言葉のとおり、我々の仕事の基本は国内外のリーグでプレーをするすべての選手をチェックして、選ぶという作業です。自クラブでの活躍やポテンシャル、次の対戦相手に有効であるか。また、リーグの傾向、クラブの傾向を分析し、しっかりと代表チームに反映させたいと思っています。当然、代表チームには代表チームのコンセプトやアイデアがありますが、短いスパンでも最高の結果を出すというプロセスを繰り返し、然るべき大会に向けて最高のチームを作り上げるイメージを持っています。今回選んだ選手たちにも、もちろんそういった視点は入っています。来年は複数の国際大会が予定されているので、逆算をしてどこにピークを持っていくかも計画した上で、初回のメンバーを選びました。間違いなく言えることは、サッカー協会やFリーグ、各クラブが若い選手たちに投資をして撒いてきた種を、僕が就任したタイミングで刈り取ることが必要だということです。そういった背景が分かるような構成になっているのではないか、と思います。

―――コロナ禍の影響で、本来であれば4年のサイクルであるW杯が3年後に行われます。スピード感が求められると思いますが、逆算するに当たっての難しさなどは感じていますか?

木暮 短いスパンであることの難しさはありますが、それは日本に限ったことではなくどの国も同じです。なので、日本のフットサル界全体が取り組んできたことをしっかりと表現していけば問題ないと捉えています。ただ、2021年は予選(AFCフットサル選手権)がなくW杯に出場したので、最後にAFC選手権に出場したのが2018年になり、この大会自体が4年空いています。アジアでの経験を積めていない選手が多数いることは事実です。また、コロナ禍であってもW杯に出場できたのは、過去の成績で選ばれているので、仮に2024年も同様の状況になった場合、2022年の結果が反映される可能性もあります。新しい選手の起用も考えると、「選ぶ」という作業は非常に重要であると思っています。

―――2021年のW杯は9年ぶりの出場となったことで、前回(2012年)のW杯を経験した選手が非常に少ない大会となりました。AFC選手権も一回中止になったことで、アジアや世界を経験した選手は限られていますが、経験と3年後を見据えたバランスはどのように考えていますか?

木暮 ひとつ言えることは、日本代表は当然、結果を求められる場所だということです。大きなことを成し遂げるためには「変えていく」ということも必要なので、両方のバランスを見て、表現は適切ではないかもしれませんが「入れ替えをしながら勝っていく」と考えています。

―――最後に、木暮監督がこれから目指す監督像と、日本フットサルの発展への思いをお聞かせください。

木暮 フル代表は結果が問われる場所なので、ここまでの最高成績であるW杯ベスト16を越えていくこと。そして、兼任するU-20では、そういった場所にどんどん選手を輩出できるような活動をしていきたいと思っています。僕はずっと、日本のフットサルをサッカーや野球のような他競技と肩を並べるメジャーなスポーツにしていきたいという気持ちを持ってきました。フットサルの価値を上げていくことは、重要視して取り組んでいきたいと思います。

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