U-24日本代表の林大地 [写真]=Getty Images
「相手チームのレベルが上がる中で、本大会に向けたゲーム勘やゲーム体力を個々、そしてチームとして上げていければなと。『ノーマルフットボール』をしっかり実践できるようにしたいと思ってます」
森保一監督が意欲を示した通り、12日のU-24ホンジュラス戦(大阪)は本番前の貴重なテストマッチ2戦のうちの1つだ。6月シリーズから吉田麻也らオーバーエージ(OA)3人も合流し、チーム強化は着々と進んでいるが、懸念材料が皆無というわけではない。
最たるものがFW陣の状態だ。脚のつけ根付近の肉離れを抱える上田綺世が5~10日に行われた静岡合宿で別メニュー。前田大然も脳震盪回復プログラムに取り組むために、全体練習への合流が遅れた。前田の方は「できると思っている。行ける準備はしたい」とホンジュラス戦への意気込みを見せたが、指揮官としてもアクシデントは避けたいはず。となれば、“第3のFW”である林大地のスタメン出場が有力視されるところだ。
そもそも林は6月22日のメンバー発表時点ではバックアップメンバー4人の1人だった。それがコロナ禍の特例で全員が登録入りし、本大会出場も可能となった。
「本当にチャンスがギリギリまで残ったという印象です。もともとバックアップという立場だったけど、試合に出れる可能性が増えたので。でも、このまま何もなかったら、1試合も出られないということもあり得る。短い時間で自分の立ち位置を少しでも上げて、試合に絡めるようにアピールしていきたい」と本人も序列を一気に引き上げる構えだ。
3月のU-24アルゼンチン戦(北九州)で貴重な先制弾を叩き出して生き残った「ビースト(野獣)」には、そうなれるだけの勢いとポテンシャルがある。とりわけ、ボールを収めるプレーに関してはほかの2人をしのぐレベルだ。A代表の大迫勇也にしてもそうだが、最前線で体を張ってタメを作ってくれる選手がいれば、チームは大いに助かる。酷暑の超過密日程の中で開かれる東京五輪であれば、なおさらだ。明確なストロングを持つ林にはこのチームで生きる道があるのだ。
もう1つ心強いのが、数々の挫折を乗り越えてきた“雑草魂”だろう。
ご存じの通り、林は中学時代はガンバ大阪ジュニアユースに在籍。「性格が明るくて頑張るタイプ」とチーム関係者にも評価されていたが、少し技術が足りず、ユースには上がれなかった。1つ上に井手口陽介、同期に初瀬亮、1つ下に堂安律、食野亮太郎といったエリート集団に身を投じていれば、そういった挫折を味わうのも仕方ない面はあった。
それでも、本人はへこたれることなく履正社高校、大阪体育大学で成長。全日本大学選抜まで上り詰め、2019年ユニバーシアード(ナポリ)優勝も経験するまでになる。その大学時代が自身の大きなターニングポイントだったと本人も語る。
「自分はそんなにテクニックがあるタイプじゃなくて、うまいこと足だけでボールを動かして何とかしようとしていたんです。でも、大学で1から体の仕組みや動きを学んだことで、自分の体の向きとか頭の位置、ボールを取りに来ている相手のどこを触ったら簡単に人が動くとか、そういうことが理解できた。ボールのない練習をひたすら2時間やったり、柔道とか少林寺拳法のような内容にも取り組んだのが大きかったですね。シュートにしても、打つ時の足首の角度とか、体の姿勢なんかも細かく指導されました。もともとは前傾になって打つタイプではなかったんですが、そこから練習して今の形になりました」
林はしみじみと述懐していたが、大学でプレーを体系的に捉えられるようになる選手は少なくない。三笘薫にしても、筑波大学時代に小型カメラを額につけて視覚から得た情報とドリブルの因果関係を考察し、「サッカーの1対1場面における攻撃側の情報処理に関する研究」を卒業論文にまとめている。それが今の緩急あふれるドリブル突破につながっているのは確か。回り道には意味があることを林も身を持って示してくれているのだ。
とはいえ、ここまでの紆余曲折が本当の意味で結実するか否かは、今回の東京五輪にかかっていると言っても過言ではない。本人も強調したように、22人に滑り込んだといえども、ピッチに立てる保証はない。それを現実にするためにも、まずはホンジュラス戦でゴールに絡む結果を残すしかない。2列目に陣取るであろう堂安や久保建英、三好康児らと息の合った連携を見せつつ、お互いが生かし生かされるような理想的な関係をピッチ上で示せれば、森保監督も必ずや戦力に加えるはずだ。
「やっぱり一番は得点を取るところ。練習から違いを見せるのが大事なんじゃないかと思います。自分は1対1の勝負強さとかで生き残ってきた。後ろにいる律や建英は近くのいい位置にいるので、しっかり後ろを見て預けて、味方を信じて走ることを意識したい」と林はビーストらしくゴールに突き進む覚悟だ。
彼はまさに岡崎慎司のような“雑草系FW”の系譜を継ぐべき男ではないか。そう指摘されて、本人は「(岡崎さんと)似ていると感じたことは全くないです、ホンマ」と困惑していたが、五輪代表からA代表のエースFWに上り詰めるという劇的な飛躍を遂げれば、A代表50ゴールの岡崎越えも十分にあり得る。そのくらいの高い高い領域を目指して、なりふり構わず、敵陣へ突っ込んでいく姿をぜひとも見せてほしい。
文=元川悦子
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By 元川悦子