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「失うものはない」と決意のPK弾…浅野拓磨が見せた結果への覚悟

2016.06.04

キッカーを務めた浅野は、落ち着いてゴール右に流し込んだ [写真]=三浦彩乃

 絶対にボールは離さない――。決意のPKを叩き込み、満員の豊田スタジアムを“ジャガーポーズ”で湧かせた。

「ゴールに対しての貪欲さは常に持っていたい」

 FW浅野拓磨サンフレッチェ広島)の日本代表初得点は、まさに執念のゴールだった。日本代表は3日、キリンカップの初戦でブルガリア代表と対戦。途中出場した浅野は、87分にゴールラッシュを締めくくる一発を決めた。

 初めて海外組を含めたフル代表のピッチに立った浅野は、持ち味のスピードを発揮できずにいた。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督に「前にどんどん出て行け。裏への動きを増やしていけ」と送り出されたが、「緊張もあって、体が動かないと感じていた」という。

 そして迎えた86分、ようやく自慢の俊足が威力を発揮する。ペナルティエリア手前でボールを持ったFW金崎夢生(鹿島アントラーズ)からパスを受ける。相手DFを振り切りながら右サイドを駆け上がり、エリア内に侵入したところで相手に倒された。

 自ら獲得したPK。右手でボールを抱え、“蹴る気満々”の浅野にスタジアムがどよめく。ハリルホジッチ監督は浅野が蹴ることを許めず、ベンチの前でFW宇佐美貴史(ガンバ大阪)とキッカーを変わるようにジェスチャーで指示を出していた。だが、浅野は全く譲ろうとしない。

「僕には失うものがないので(笑)。『蹴りたい』という自分の気持ちはしっかり伝えたいと思いました。あそこで引いて、素直に譲っているようでは、FWとしてゴールに対しての貪欲さが足りない」

 宇佐美もまた、「(監督に)蹴れって言われていましたけど、あの時間帯、あのスコアだったので、僕が蹴ることはない」と後輩にキッカーを譲った。一方、ベンチでは「浅野が取ったんだから、浅野に蹴らせてあげればいいじゃん」という声が挙がっていたという。最終的には浅野の執念に指揮官が折れた。

浅野拓磨

得点直後はガッツポーズを見せた浅野(中央)。忘れずにジャガーポーズも披露した [写真]=三浦誠

 ゴールを決めた瞬間、浅野は両手で力強いガッツポーズを作り、ジャガーポーズを披露。ベンチに目を移せば、キッカーに浅野を推していた控えメンバーに「よく浅野のPKを認めた!」という意味で“いい子、いい子”と頭を撫でられる指揮官の姿があった。

 この試合はとことん結果にこだわった。

 全3試合でスーパーサブとして起用されながらノーゴールに終わった昨年8月の東アジアカップの悔しさを忘れてはいない。A代表4試合目にして生まれた待望の初ゴール。だが、浅野は決して現状に満足することはない。「まだまだうれしさよりも、課題のほうが大きい」と一喜一憂せずに、課題を冷静に分析する。「パスがズレている場面がたくさんあったし、そこで(ボールを)失った回数も非常に多かった。裏への飛び出す回数も増やしていかないといけない」。ポジションも「もっと自分の特長を生かせるはず」と、自分の武器を最大限に発揮できる1トップを狙う。

 浅野の能力には先輩たちも太鼓判を押す。キャプテンのMF長谷部誠(フランクフルト)が「スピードだけではなく、パワーもある」と評価すれば、FW岡崎慎司(レスター)は「海外に行ってもやれる選手だと思う」と一目を置いた。

 チャンスをモノにすること――それが9月からスタートするアジア最終予選、さらにはロシア・ワールドカップ本大会へとつながっていくことは十分に分かっている。だからこそ、「まずは与えられたポジションで、しっかりと役割を果たしていくことが大事」と目の前のことに100パーセントの全力を注ぐ。結果に対しての覚悟が、PKのシーンに凝縮されている。大きな野心を胸に抱いた21歳が、豊田の地で日本代表としての新たな一歩を踏み出した。

文=高尾太恵子

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By 高尾太恵子

サッカーキング編集部

元サッカーキング編集部。FIFAワールドカップロシア2018を現地取材。九州出身。

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6月3日 キリンカップ 日本代表vsブルガリア代表

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