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【インタビュー】杉田妃和 アメリカ移籍で見えた日本の“良さ”と“違い”

2023.03.27

2022年からアメリカのポートランド・ソーンズでプレーする杉田妃和 [写真]=Getty Images

 全世界で人気のサッカーゲーム『FIFA 23』に3月からアメリカのナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグ(NWSL)が、選手含めて実名で実装されることになった。

 なでしこジャパンMF杉田妃和は2022シーズンから、そのNWSLに所属するポートランド・ソーンズでプレーしている。今回のゲーム登場に際し、アメリカでの生活やリーグ環境、自身の変化などについて聞いた。

インタビュー=小松春生

―――アメリカに移籍してからプレースタイルに変化はありましたか?

杉田 加入してすぐは、自分の持っているプレースタイルを出さないといけない気持ちがありました。日本では周囲も理解しようと意図を汲んでくれますが、アメリカに来てからは言葉の面もあり、自分からアピールする、プレーを出していくことでしか、わかってもらいにくい部分もあったので、そういうところは変わったと思います。

―――その言葉の面はいかがですか?

杉田 勉強していますし、チームメイトも優しく毎日教えてくれて。でもチンプンカンプンなときもありますね(笑)。同じサッカーですから、ピッチでは全くわからない知識の話はないので、完璧に伝わらなくても理解はできています。監督とのコミュニケーションについては、ミーティングで大事な内容は映像など、目に見える形で示してくれるので問題ないです。ピッチ上は言葉が多くなりますけど、ミーティングでしっかり理解しているので、ほぼ大丈夫です。

―――加入当初、杉田選手を知ってもらうプレーを心掛けた中、プレー選択の変化はいかがでしょうか。

杉田 日本にいたときは気を遣いすぎて、何となく自分以外の仕事も「やって当たり前」としてしまいがちで、「あれも、これも」とプレーすることが多かったです。アメリカに来てからは、自分の仕事への責任にフォーカスしている選手が多く、それを放棄してまで周りのことにやらなくていいという感覚なので。それが自分としては楽な部分でもあるので、だから今、攻撃的にプレーできているのかもしれません。

杉田妃和

[写真]=Getty Images

―――日本の選手は全員で問題解決にあたる、全員で連動して戦うことを特性として挙げることが多いですが、アメリカでプレーしている選手は自分のストロングを生かし切る前提があると感じると。

杉田 そうですね。あと、ニュアンスでやり取りすることが少ないです。できないことは「できない」と意見するし、わからないことは「わからない」と監督に対しても言う。だから言われたに対して、「わかっておかないといけない」というプレッシャーもないですし、ダメはダメ、ノーはノーとはっきりしている分、ストレスも少ないです。

―――その環境の中で1年間やってきて、メンタル面も変わりますか?

杉田 日頃、レベルの高い中でプレーしていると、身構えなくていいと言いますか。日本でプレーしていたときは、外国籍選手を相手にするとリーチの長さやスピードなどを考えて、普段と違う相手への準備や試合の入りをしなければいけませんでしたが、そこがなくなりました。むしろ普段こういった相手とのプレーをしていることで、日本人の集団として戦うときは、自分がいつもできないプレーをやってみようなど、プラスのことも考えられるようになりました。

―――性格などの変化はいかがでしょう。

杉田 元々たくさん喋るタイプではないですが、相手のテンションに合わせて自分の気持ちも上げられるようになったとは思います。やっぱり蚊帳の外にいる感じで見てしまうと、どうしても溶け込めなかったり、楽しい時間を共有できなかったりするので、そこに対しては一歩踏み込んでみようという気持ちでいます。

2022シーズンはレギュラーシーズン2位、プレーオフを制した [写真]=Getty Images

―――アメリカでのプレーはまだ1年間ですが、その中でもリーグやクラブ運営の面で日本とアメリカの違いを感じたところはどんなところでしょう。

杉田 まず選手として一番感じることは観客の数です。そして一人ひとりの熱量もまったく違う感じがしていて。これまでは「サッカー選手ですよね…?」と、一歩引いたような感じで話しかけられていましたが、アメリカではすごく嬉しそうに、3割増しくらいの熱量で話しかけてくれます。クラブ運営の面では、一人のプロサッカー選手として、しっかり考えてくれていると実感しています。「自分はプロサッカー選手なんだ」と思わされることもありましたし、そういった環境はアメリカの方が整っていると思います。

―――「プロ選手」として見てもらえるとは、具体的にどういったところでしょう。

杉田 日本だと全体的にどこか遠慮がちに映る面がすごくありました。こちらではサッカー選手も「仕事である」と実感できるほど、全員が100%を注げる環境なので、要求や改善に対しての意見も言いやすいですし、チームもそれに対してしっかり反応してくれることが大きな違いです。

―――一方で離れたからこそ日本の良さにも気付いたと思います。

杉田 ピッチ上で日本人はすごく器用ですし、ハードワークします。一つの作業、一つの場面にしても、他国に比べてスピードやパワーで劣る面がある分、いろいろな手段を持って、集団で「もっとこうしよう」と考えるので、どの選手も器用で、何でもできる。なので、どの選手もヘディングができるし、トラップもしっかりできる。それが当たり前だと思っていたら、アメリカに来てからは、「ヘディングは好きではないけど、他にすごいストロングポイントがある」のであれば、ヘディングには目をつぶって、そのストロングポイントを徹底して生かします。むしろその環境にいると、日本人のマメさは日本人らしいですし、すごくいい部分だなと。自分はそこで「日本人でよかった」と感じました。

―――五角形の能力グラフで、突出したものをとことん伸ばすか、どの項目も少しずつ伸ばして全体的な面積を広くするかで、日本は面積を大きくする作業が向いていると。

杉田 ストロングポイントを消さないようにすることも大切ですし、どちらもすごく大事です。海外に出て「すごく器用だね」と言われることが増え、自分の器用な部分に気付かされたこともあります。日本だけでサッカーをしていたら、たぶん気付かなかったことでもあったので、海外に移籍してよかったですね。

杉田妃和

[写真]=Getty Images

―――アメリカは代表チームを筆頭に、地位向上や社会性をともなった活動や発信も多く行っています。その点はどう感じていますか?

杉田 自分はそういう情報に疎かったですし、社会問題に入り込めない、なかなか興味を持てずにいました。でもアメリカに来てから時間ができた分、いろいろなことを知る時間ができ、チームメイトがサッカー以外の時間にそういった活動をしていると知る機会が増えたので、私はそこに対してではないですが、自分が興味のあるもの、今まで考えることがなかったサッカー以外のことをすごく考えるようになりました。

―――地位向上という意味も含まれると思いますが、今回『FIFA 23』にNWSLが登場することになりました。

杉田 正直、自分がどのように出ているのか、すごく気になりますし、あまり想像できないですね。私自身はゲーム経験が少ないんですが、兄はやっていていて「どの選手がいい」「この選手は足が速い」と気にしていたので、そういう目線で選ばれると思うと、頑張らないといけないですね(笑)。半分は冗談ですけど、頑張らないといけない思いはあります。

―――嬉しいことでもありますね。

杉田 ゲームのプレー経験は多くないですけど、何度かはあって。その中に自分がいることは「おっ」という感じで、ちょっと意外でもありますし、サッカーをやってきた印のようなものを残せることは嬉しいですね。ぜひ「私もいますよ!」と。大きくなく「(私もいます)」くらいでいいので(笑)。

By 小松春生

Web『サッカーキング』編集長

1984年東京都生まれ。2012年よりWeb『サッカーキング』で編集者として勤務。2019年7月よりWeb『サッカーキング』編集長に就任。イギリスと⚽️サッカーと🎤音楽と🤼‍♂️プロレスが好き

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