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【インタビュー】“タイの英雄”が日本で感じたこと。ティーラシン「日本はタイ人選手を大切にしてくれている」

2020.09.10

 清水エスパルスは明治安田生命J1リーグ第9節・北海道コンサドーレ札幌戦と、第11節の横浜FM戦を“タイ・ダービー”と銘打ち、タイに向けた様々なプロモーションを実施した。

 タイの地上波TVで生中継された両試合に、タイ代表FWティーラシン・デーンダー清水エスパルスの一員として出場を果たしている。


「Jリーグがタイのテレビで放送されたり、今回のようなプロモーションを実施してもらえるかどうかは、私たちタイ人Jリーガーの活躍に懸かっている」

 代表選手として100試合以上のキャップ数を誇る“タイの英雄”は、異国の地で結果を残し、母国へ貢献することに対して確かな想いを抱いていた。

インタビュー・文=平柳麻衣
写真=Jリーグ

■“タイ・ダービー”は特別な経験になった

同郷の選手とは日頃から連絡を取り合っている [写真]=Jリーグ

――8月に行われた“タイ・ダービー”2試合について、まずは北海道コンサドーレ札幌戦(明治安田生命J1リーグ第9節/3-1で勝利)を振り返っていかがでしたか?
ティーラシン Jリーグやクラブが“タイ・ダービー”として試合を盛り上げてくれたことをとても光栄に思います。タイ語で名前が書かれたユニフォームを着てJリーグのピッチに立つというのは、本当に特別な経験となりました。もちろん、どの試合も常に「勝ちたい」と思って臨んでいますが、やはり“タイ・ダービー”ということで、いつもとは違う感情を抱かずにはいられませんでしたし、チームにとっても大事なホームゲームで、絶対に勝ちたい一戦でした。だから勝利という結果が出たこと、なおかついいゲーム内容を見せられたことはうれしかったです。

――ティーラシン選手は83分から途中出場し、札幌のチャナティップ選手は先発出場して86分に交代。短い時間でしたが、2人が一緒にピッチに立った時間もありました。
ティーラシン 試合前や試合中は挨拶をする程度で、試合が終わってから少し話をしました。札幌のサブメンバーにはGKのカウィンもいたので、3人で近況報告をしたり、「お互い頑張ろう!」と励まし合ったり。私たちはそれぞれがまだまだ頑張らなければいけない状況にいるので、直接話すことで新たにいい刺激をもらうことができました。

――日頃から連絡は取っているのですか?
ティーラシン チャナティップ、カウィン、それに横浜F・マリノスティーラトンと4人でSNSのトークグループを作ってあって、「最近、調子どう?」と聞いたり、お互いを応援するコメントを送ったり、時には個別で電話をすることもあります。お互いのチームが対戦する時だけは、ライバル関係になりますけれど(笑)。もともと友だちのように仲のいい関係でしたが、日本に来てからより一層、仲が深まったように感じています。

――彼らに何か相談をすることはありますか?
ティーラシン 自分自身のプレーについて何か言うことはほとんどないというか……できれば彼らには話したくないと思っています。これは、私自身の意地みたいなものですかね(笑)。でも、自分以外の選手のプレーや試合での出来事に関して、「これは共有したい」と思うニュースがあった時には連絡を取るようにしています。

■タイでのJリーグ人気は、私たちの活躍に懸かっている

横浜F・マリノス戦には88分から出場 [写真]=Jリーグ

――J1第11節の横浜FM戦は残念ながらティーラトン選手がメンバー外で、2人の対戦は実現しませんでした。
ティーラシン ティーラトンは代表でもクラブチーム(ムアントン・ユナイテッド)でも一緒にやってきた仲なので、ピッチで会えればうれしかったですが、あの試合が最後というわけではありません。まだ今月(16日)にはアウェイでの横浜FM戦が残っているので、今度こそは彼と一緒にピッチに立てたらいいなと思っています。

――横浜FM戦は3-4で敗れましたが、ティーラシン選手のヘディングシュートがポストに当たった跳ね返りを金井貢史選手が押し込み、チームの3点目が生まれました。
ティーラシン もちろん出場するからにはゴールを決めたいですし、自分のヘディングシュートがそのまま決まればうれしかったですが、結局は金井選手が決めてくれたので、チームにとって1点は1点。私にとっては問題ありません。あの横浜FM戦はチーム全体としていいパフォーマンスを出すことができ、見応えのある試合になったと思います。

――“タイ・ダービー”はティーラシン選手個人への注目度も高く、期待もプレッシャーも大きかったと思います。そういったプレッシャーが掛かる場面を、どのように乗り切るタイプですか?
ティーラシン “タイ・ダービー”はプレッシャーとうれしさが半分半分くらいでした。「できれば自分がいい結果を残したい」というプレッシャーと、タイ人選手たちとピッチで再会できるうれしさです。ただ、やはりピッチに立ったら彼らには負けたくないので、ガムシャラにプレーしました。そのような状況で、運もあったと思いますが、自分自身が得点に絡むプレーができたことは良かったです。

――“タイ・ダービー”を終えて、タイ国内からの反響はいかがでしたか?
ティーラシン 私は普段、あまりSNSやニュースを見ないのでタイ国内での評価は気にしないようにしているのですが、タイ・リーグが新型コロナウイルスの影響で中断していることもあって、今回の“タイ・ダービー”への関心は非常に高かったと感じています。札幌戦の前には友人や先輩たちから「楽しみにしているよ」とメッセージをもらったり、試合後には「タイ語のユニフォーム名を見たよ!」と写真付きでメッセージを送ってくれた人がたくさんいました。

――Jリーグやクラブがティーラシン選手、そしてタイのサッカー界に期待を寄せて今回のプロモーションを実施したことについては、どのように感じていますか?
ティーラシン Jリーグ、そして日本がタイ人選手を大切にしてくれていると感じますし、非常に光栄に思います。まずは日本の皆さんに私から感謝を申し上げたいです。タイでは3、4年前くらいからJリーグ人気がどんどん高まっていますが、今後もJリーグがタイのテレビで放送されたり、今回のようなプロモーションを実施してもらえるかどうかは、私たちタイ人Jリーガーの活躍に懸かっていると思います。今後もタイの皆さんがJリーグに興味を持ち続けてくれるよう、結果で応えていきたいと思っています。

興梠慎三小林悠は別格の存在

西澤や金子といったチームメイトから学ぶことは多いと語った [写真]=Jリーグ

――清水に加入して約半年間が経ちました。ここまでご自身の成長を感じる部分は?
ティーラシン 日本でのプレーは2年ぶり2度目となりますが、今シーズンはやはり新型コロナの影響が大きく、自分のサッカー人生において最も特殊なシーズンとなっています。試合も練習もできなかった時期は難しかったですが、それもいい経験。グラウンドに行けない状況で、私はもう若い選手ではありませんから、どのようにコンディションを保つのか、コーチのアドバイスをよく聞いて実践しました。ケガをしないための身体づくり、補強など、まだまだ学ぶことがたくさんあると感じました。また、チームの活動休止期間を経て、練習場に戻った時には、サッカーの楽しさが改めて身に沁みました。

――母国を離れてコロナ禍を過ごすことでの不安もあったと思います。
ティーラシン 最初の頃は、タイで暮らす家族のことが心配でたまりませんでした。しかし、タイ国内は少しずつ流行が収まってきていると聞き、あともう少しの辛抱ではないかと思います。私自身も新たな生活習慣に慣れるまでに少し時間が掛かりましたが、周りも皆、誰もが経験したことがないことなので、みんなと一緒に順応していけたと思っています。

――静岡、清水での生活にも少しずつ慣れてきたと思いますが、今後コロナが終息したら、タイの人々におすすめしたいスポットやモノはありますか?
ティーラシン 静岡と言えば、やっぱり『富士山』を見ないわけにはいかないですね。私のおすすめは『三保の松原』という、練習場の近くにある海岸から眺めること。砂浜が広がっていて、ゆっくりしながら『富士山』の美しい光景を見ることができます。それから静岡と言えば、もう一つは『お茶』。コロナの影響で私もあまり出歩くことができていないので、コロナが収まったら美味しい『抹茶』が飲める店を探しに行きたいです。

――日本のお茶はよく飲みますか?
ティーラシン クラブハウスの食堂だったり、外食に行った時なんかは飲みます。いつか機会があったら、茶畑に行って茶摘み体験もしてみたいですし、いろいろなお茶っ葉の飲み比べをして、自分好みのお茶を見つけたいなと思っています。

――チームメイトとのコミュニケーションもだいぶ取れてきたと思います。仲のいい選手はいますか?
ティーラシン みんな私に対して良くしてくれていますが、話すことが多いのは(新井)栄聡と(梅田)透吾。彼らとはよく一緒にゲームをして遊びます。また、ごっちゃん(後藤優介)はポジションが近いこともあって、よく話をします。あと、カルリーニョス(ジュニオ)は英語が話せるのでよく話し掛けてくれますし、自分からも声を掛けることが多いです。

――プレー面で「すごい!」と思ったチームメイトは?
ティーラシン うーん……例えば(西澤)健太、カネ(金子翔太)、(立田)悠悟、タケ(竹内涼)、(中村)慶太……試合に出ている選手はみんな上手いので、一人に絞れないです。もちろん外国籍選手たちも各々素晴らしい特徴を持っていますし、日々の練習をとおしてチームメイトから学ぶことはたくさんあります。

――では、清水以外のチームで衝撃を受けた選手はいますか?
ティーラシン 私はやはり自分と同じFWの選手を意識することが多いので、対戦した中で言えば、浦和レッズの興梠慎三選手と、川崎フロンターレの小林悠選手。2人の存在感はJリーグの中でも別格だと思います。スピード、シュートのタイミング、精度、どれを取っても素晴らしいプレーですし、2人ともチームによく貢献しています。とても賢い選手だと感じるので、自分も学べるものは学びたいですし、彼らのことを心から尊敬しています。

■清水に来て学んだことを伝えたい

[写真]=Jリーグ

――Jリーグのレベルについてはどのように感じていますか?
ティーラシン Jリーグはアジアでもトップクラスですし、スピードが非常に速く、プレー強度も高いリーグです。そして戦術も豊富で、個性的な戦い方をするチームが多くあります。清水も今シーズンから新たに攻撃的サッカーに着手しており、チーム始動当初は戸惑いもありましたが、今はだいぶ改善されてきたと感じています。

――ティーラシン選手はここまでリーグ戦で12試合出場1得点。この数字については?
ティーラシン 全く満足できる数字ではありません。でも、1点しか取れていないことも、なかなか試合に出られないことも、理由は分かっているので、毎日の練習からもっとハードワークして、チャンスをつかみ取れるように頑張りたいと思っています。

――チームとしても低迷が続いており、今後はティーラシン選手の経験が活きる場面も出てくるはずです。
ティーラシン 今の清水はチームのパフォーマンスに波があり、いい試合ができた時もあれば、良さが出せなかった試合もあります。波をなくして常にいいチームパフォーマンスを見せるためには、毎日の練習で修正、改善をもっと徹底的にやっていかなければいけません。それは誰か個人の責任ではなく、チーム全体の問題です。せっかく選手、スタッフ皆が「成功したい」という強い意志を持っているのだから、それぞれが責任感をより強く持ってサッカーと向き合うことが大事だと思います。

――そうした清水での経験をタイのサッカー界に還元していきたいと考えていますか?
ティーラシン タイ人が日本でプレーしたり、練習を積むことは確実に選手としてレベルアップできますし、Jリーグには学びの場がたくさんあります。今は4人のタイ人Jリーガーがいますが、今後もっと増えていけばタイ代表の強化にもつながりますし、選手個人にとっても、タイのサッカー界にとっても非常にいいことです。もし、私が今後またタイ代表に招集された際には、清水に来て学んだことを伝えていきたい。それが何よりタイのサッカー界への還元になると思っています。

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