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【ライターコラムfrom広島】優勝のための準備は完了…前半戦の王者に足りなかった“戦術”と“選手”

前半戦を首位で折り返した広島 [写真]=Getty Images

 日本のクラブチームとしてはおそらく空前絶後と言うべきだろう。韓国代表チームの「聖地」とも言うべきパジュ・ナショナルフットボールセンターにおいて、サンフレッチェ広島が6月23日から28日の6日間にわたってキャンプを張った。

 暑い時期でも爽やかな風が吹く海外のチームがここでキャンプを張った例はほとんどないと聞く。美しい7面の天然芝ピッチや整備された宿泊施設は年代別も含めた韓国代表のために整備され、時には関係者以外の立ち入りも制限される。実際、筆者は警備員から身分の照会を求められた。決してオープンな場所ではない韓国サッカ一界にとっての重要な拠点でJリーグのチームがキャンプを張る。このことが可能となったのは池田誠剛フィジカルコーチがロンドン五輪代表チームで素晴らしい業績を成し遂げ、彼の地で大きな尊敬を勝ちえているからに他ならない。当時の五輪代表監督を務めていたホン・ミョンボ現韓国サッカー協会専務理事からも「池田コーチのいるサンフレッチェ広島に対して最大の歓迎を」と施設側に伝えられていたと聞く。実際、広島の選手たちに提供された食事は、「予算を遥かに越えるようなクオリティだった」と城福監督は言う。

 パジュはソウルからクルマで1時間。38度線の近くで、山の向こうはすぐに北朝鮮だ。もし、昨年のような緊張関係の下であったなら、ここでキャンプを行うのは難しかったかもしれない。そういう意味でも、城福監督は運を持つ。

 15試合で37ポイント。18チーム制になって最多の勝ち点(15試合まで)をつみ重ね、首位をひた走った広島はこの韓国キャンプで主に二つのテーマを追求した。もちろん、他のことにも取り組んでいたし、特に池田誠剛フィジカルコーチが指導するフィジカル強化は厳しいものがあったが、それはシーズン中から継続しているもの。個人メニューにも多くの選手が積極的に参加している姿は素晴らしいが、それも特段、珍しい風景ではない。

 新しい試みの一つは、ポゼッション率向上に向けての施策である。キーパーからしっかりとボールをつなぎ、地上戦で攻めていく。ボール支配率を向上させ、走るのではなく走らせる。夏場は激しい体力消耗が避けられないが、自分たちでボールを持った方が体力面で優位に立てるには当たり前だ。

 だが、ボール支配率45パーセント前後で推移する15試合を闘ってきたチームが、わずか数週間のトレーニングでボールを持てるようになるのか、そこは疑問だ。実際、5-0で勝利した城南FCとのトレーニングマッチでも、ボールを持ち続けたというイメージはない。城福監督も「キーパーからのビルドアップは、どれぐらいチャレンジできたか。どれぐらいポジションの準備ができたのか」と指摘。さらに次のようなコメントを残している。

「我々が夏場のサッカーに向けて取り組んでいること(ボール保持)に神経が行き過ぎて、(今までのサッカーに対して)疎かになっているものがないかを確認したかったんだけど、そこは心配するほどではなかった。でも一方で、ここまで取り組んでいることがすごくやれたかっていうと、そこは違う。効果的なサイドチェンジだとかクロスの精度の良さがあれば、もっとチャンスをつくれた。ボールを運ぶ精度に問題があって、(守備に)戻るエネルギーのために疲弊したシーンもあった」

広島

指揮官は広島の改善点を語る [写真]=Getty Images

 MF和田拓也が「支配率が低いといっても、別に相手にボールを持たせていたわけではない」という言葉のように、広島のサッカーはボール保持ありきではなかった。ノーリスクで蹴るというよりもむしろ、「相手の嫌なところをつく」「バックパスで逃げない」という指揮官の姿勢がチャレンジの姿勢を増幅させ、その結果がミスにつながってボールを手放す結果となったと見る。もちろん、それは「悪手」ではない。勝ち点37だけでなくリーグ3位の22得点を叩きだしているわけで、チャレンジが生きた場合はビッグチャンスになっている。さらに今までボールをしっかりと繋いだゴールがなかったのかといえば、サガン鳥栖戦や清水エスパルス戦では20本以上もパスを繋いで得点を決めている。選手としてもチームとしても、クオリティを持っていることは間違いない。

 しかし、それでも現実は支配率40パーセント台。それでも勝っているからいい、というわけにはいかない。ボールを持っているチームとそうでないチームとでは消耗度が違う。夏場の戦いはそれでなくても厳しいのに「走らされる」ことはメンタル的にも辛い。

 だが一方で、ボール保持にこだわるあまり、相手の嫌なところをつくチャレンジのサッカーを忘れてしまっては、2018年バージョンの広島の良さはなくなってしまう。そこのバランスをとるのは難しい。プランAとプランB。ふたつのプランを適切な時に適切に行うことの難しさが、トレーニングマッチでは見てとれた。選手はつなげるかそうでないか、微妙な時はやはり今季のプランAを選択しがち。それは間違いではないが、夏場に向けての成長のためには、そればかりではうまくいかない。ジレンマをどう解消するか、非常に難しい舵取りが指揮官に求められる。

 もう一つはスローインだ。「こういう細かなスローインのトレーニングはやったことがない」と和田が語るほど、このキャンプでの指揮官は「スローイン」にこだわった。

「スローインから(得点を)失うことは結構ありますから」。確かにそのとおりだ。

「攻撃でのスローインの場合はこっちが手でボールを持っているので、意図を合わせればボールをとられずに済むし、エネルギーを攻撃にかけられる。それに守備側にとっては、スローインを同サイドに塞ぎ込みたいところを逆サイドに持っていかれるとダメージを食らうんです。特に夏場においては。ボールを投げてそこでとられて、相手ボールでスタートすることが、一回でも少なくなれば主導権は握られる。細かいことではあるけれど、大事なことかなと思うんです」

 スローイン起点の得点、あるいはスローインを奪われての失点は、意外と多い。ただその割には、スローインを繋げる、スローインのボールを奪いとるという練習は、多くのチームでやっていないことも現実である。今季の対浦和レッズ戦、MF青山敏弘のスローインをMF川辺駿がフリーで受けたことから同点劇が始まったように、スローインを一つの攻撃戦術として成立させること。それもつまりは、スローインを含むセットプレーを得点源にすることの重要性を指揮官が強く認識していることの証拠だろう。セットプレーから多くの得点が生まれているワールドカップのように、止まっているボールからはドラマが生まれやすいのだ。

 ここまでは具体的な戦術的な部分。だが城福監督がもっとも期待しているのは、なんといっても新戦力の台頭である。5月、連戦で体力面が厳しい時も、指揮官はリーグ戦ではターンオーバー制を採用しなかった。それは選手に対しての強烈なメッセージ。サブメンバーの心に突き刺すような指揮官の檄に対して、誰が反発心を燃やして立ち上がるか。

 たとえばDF馬渡和彰。彼は広島きっての攻撃的サイドバックで、クロスのスピード、精度やプレースキックにかけては大きな自信をもっている。一方で、守備戦術に問題を抱えていると城福監督に判断され、リーグ戦出場は1試合のみ。昨年、徳島ヴォルティスで4得点9アシストを記録しチームを牽引した男が、今季は試合にすら出られない。

馬渡和彰

後半戦に向けて意識を変えた馬渡 [写真]=Getty Images

「いい守備をやってから、いい攻撃につなげる」。攻撃のことばかりを意識していた馬渡は今やこの言葉が口癖となった。

「トレーニングの中でクロスに対してGKとDFの間のエリアや、ファーポストエリアに勢いよく入ってくるシーンも増えたし、あとは自分のクロスで合わせるだけ」

 こんなふうに攻撃のことを語った後、自分から「でもまずは守備を」と口にする。「それがなければ、チャンスはない。またベンチをあたためたり、メンバー外になる可能性もある」

 危機感からくる明快な認識と強い覚悟をもったプレーで定位置を虎視眈々と狙う彼は、城南戦で素晴らしいアシストを決めると同時にフィジカル能力が強烈なサイドアタッカーに対して果敢な守備を見せた。まわりとの関係性も意識しつつ、穴をあけないプレー選択もできるようになってきた。

 サイドハーフというポジションに苦しみ、開幕当初の勢いを失っていた川辺駿は、「ボランチやサイドバックとの関係性もわかってきた」こともあり、このキャンプではおおいに躍動。身体の姿勢を矯正することと筋肉の機動性を改善するため、全体練習後はゆったりと筋肉を動かすトレーニングを行い、大きな筋肉群をよく動かせるような身体づくりを目指していることも彼のプレーにポジティブな作用を施している。城南戦ではハットリックを達成し、トレーニングでの紅白戦でも一気のドリブルからゴールネットを突き刺すなど、得点を量産している。

「チャンスメイクも得点を狙うのも、どちらも選択肢を持てる」と自負する川辺がサイドハーフというプレッシャーが比較的少ない場所にいることは、チームにとってのメリット。ここまではこのポジションでの振る舞い方が今1つ、理解できていなかった。しかし、このキャンプで川辺が本当のきっかけをつかみ、チームプレーヤーとして成長すれば、チームも彼も大きな飛躍につながる。

 他にもMFフェリペ・シウバ、MF松本泰志、MF森島司らが自己の存在をアピールするべく必死の戦いをみせ、「下からの突き上げを十分に感じさせるし、意欲も感じる。続けてほしい」と指揮官を喜ばせた。キャンプの大きな目標である選手層の厚みをつくりあげることは、大きなステップを踏んだといっていい。あとはトレーニングマッチなどで結果を出し。ステップを成果に変えていくことだろう。

 15試合の成果にあぐらをかき、「これでいいんだ」とふんぞり返れば必ず転倒する。一方で危機感を持ちすぎ、変化を急激に求めれば消化不良を起こす。ここまで勝ってきたからこそ難しい状況を乗り切るための準備はほぼできた。城福浩監督とその仲間たちは、大きな手応えと大きな結果を出す覚悟をもって、ワールドカップ中断明けのシーズン再開を、静かに待つ。
 
文=紫熊倶楽部 中野和也

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