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【ライターコラムfrom清水】“2万ゴール男”がついにブレイク。金子翔太の潜在能力は本物か!?

2018.05.06

清水で今季チームトップの5ゴールを挙げている金子 [写真]=J.LEAGUE

 マイヤー(V川崎)のJリーグ初ゴールに始まり、バジーリオ(柏)が5000点目、前田雅文(G大阪)が1万点目、辻尾真二(清水)が1万5000点目……と節目のゴールを記録してきたが、これまでJ1の記念ゴールを決めてきた選手はそれほど知名度がなく、その後も目立った活躍はできていない。

 昨年4月21日の川崎戦でJ1通算2万ゴール目を決めた金子翔太についても、清水のファン以外は「誰?」と思った人も少なくないはずだ。そして、これまでの記念ゴール達者者と同じ運命をたどるのではないかと……。


 しかし、5月2日に23歳になったばかりの金子は良い意味でそのジンクスを覆しつつある。今季は第12節終了時点で全試合に先発し、得点ランキング7位の5ゴールと早くもキャリアハイを更新(2016年はJ2で4得点、2017年はJ1で4得点)。守備面での貢献度も高く、攻守ともに欠かせない中心選手へと成長している。

昨年4月21日にJ1通算2万点目のメモリアルゴールを記録 [写真]=J.LEAGUE

 163センチ・58キロという小柄な体格ながら、JFAアカデミー福島時代から技術と得点力には定評があった。それに加えて、今はあらゆる面で“量が多い”ことも特徴となっている。ゴール数とアシスト数がチーム最多で、走行距離やスプリント回数もトップクラス。クロス数、ボールを受ける回数、ボール奪取回数、セカンドボールを拾う回数も多く、チーム全体のハードワークや献身性を重視するヤン・ヨンソン新監督のサッカーにおいて象徴的な存在と言える。

 プロ加入当初から持久力にも定評があったが、今季に入って目立つのはアジリティやバランスの向上、そして予測や読みの鋭さだ。前者に関しては、長友佑都も行っている「FLOWIN(フローイン)」という体幹トレーニングを取り入れた効果が表れている。体の軸が安定してきたことによって、「あと一歩」がよく出るようになり、ボール奪取やセカンドボールの回収の増加にもつながっている。またバランスの向上によって球際に強くなり、ボールロストも減少。第4節の仙台戦では約30メートルの強烈な無回転ミドルシュートを決めたが、本人は「あんなにパワーが乗ったシュートは今まではなかなか打てなかった。体幹(トレーニング)をやってきた成果が出ていると思います」と振り返る。

 ボール奪取やセカンドボールの回収率の高さは、予測の精度が上がっていることも大きい。「ボールを奪うのは元々得意なほうなんですが、事前に相手の特徴やクセをビデオで研究しているのが役に立っている。セカンドボールの予測も練習から常に意識しているので、それを試合で生かせていると思います」

 元々サッカーについて考えるのが好きな選手で、頭の中も日々進化している。それによって、ポジショニングや動きの効率が良くなり、おのずと“量”の向上につながっている。

 量とともに重要な“質”に関しては、まだ発展途上の部分も多いが、だからこそ伸びしろは大きい。現時点でゴールもアシストもチーム最多なのだから、量はそのままに質と精度が上がってくれば、リーグのトップクラスへの仲間入りも見えてくるだろう。

 高校時代は2年生時(2012年)にプリンスリーグ東北1部で得点王、3年生時にプレミアリーグEASTで得点王と、得点力の高さを売りにしていた。当時のようなゴール前での落ち着きが、今季は徐々に見え始めている。

 第8節の浦和戦で決めたゴールなどはその一例と言える。クリスランが頭で落としたボールを左ポスト付近に詰めてワンタッチで押し込んだが、このシーンでは間合いを詰めてきたGK西川周作の動きを見ながら、ワンテンポ待った上で冷静に脇を抜いたのが印象的だった。その瞬間について本人は「一瞬、時間が止まったような感覚がありました」と語る。

第8節の浦和戦ではゴール前での冷静なプレーから得点を挙げた [写真]=J.LEAGUE

 そんな成長著しい現在、本人の中には発見と葛藤の両方があるという。「岡崎(慎司)さんの本に『ゴールが取れるようになると他の周りのモノも見えてくる』というようなことが書いてあったんですが、確かに最近は同じことを感じます。それは自分にとって大きなプラスですけど、今はゴールを強く意識したほうがいいのか、逆に意識しすぎないほうがいいのかという葛藤もある。開幕当初は、ポジションがFWから中盤になって『ゴールを取らなきゃ』という気負いが少なくなったことが逆に3得点につながっていた。でも、そこからまた3試合取れなくなって…やっぱりゴールを意識しないといけないのかなと」

 好調であっても、自身がより成長するためにどうすればいいかと真摯に考え続けられるのも彼の持ち味だ。「点を取れば取るほど、相手は僕のところに来るから、そこで周りの選手を使ってアシストができたら、もう一段階上のレベルに行ける。そう(鄭)テセさんにも言われました。そうした強引さと冷静さの兼ね合いも今の課題かなと思っています。ただ、点を取るためにも、冷静さを身につけるためにも、シュートシーンを増やすことが一番大事だと思うので、そこは常に意識していきたいです」

 量を増やしていくことが質の向上にもつながる。シンプルだが、やり続けるのは決して簡単ではない。だが金子翔太には、どんな時でも「もっと、もっと」と上を目指し続けるいい意味での欲深さがある。それを持ち続けている限り、彼の進化はさらに続いていくはずだ。

文=前島芳雄

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