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【ライターコラムfrom甲府】監督交代は澱む空気を晴らすか…J1復帰へ背水の状況を好転させるために

千葉戦後、会見に臨んだ吉田達磨氏 ©J.LEAGUE

 4月30日、吉田達磨監督の契約解除と上野展裕監督の就任が発表され、同日中に新監督の就任会見も行われた。

 新指揮官の人選はクラブにとって重要な選択だが、それに加えて「人事の手際」も大切になる。佐久間悟GMは30日の新監督就任会見で、「双方合意のもと契約を解除したいということをお伝えして、了承して頂いた」と退任の経緯を説明していた。吉田監督は30日のチーム練習でサポーターと最後の挨拶を行い、コメントも公式ホームページに掲載されている。結末は残念なものだが「こじれる」ことなく区切りがついた。

 ヴァンフォーレ甲府は2勝5分4敗、16位で4月までのリーグ戦を終えた。11試合で「10」の失点数はJ2でも3番目の少なさで、守備組織に大きな問題は無い。一方でチームは昨季のJ1から続く「勝ち切れない」「勝負弱い」という課題を引き継いでしまった。

 4月28日のジェフユナイテッド千葉戦は、その象徴となる展開だった。甲府は開始5分、湯澤聖人のクロスからジュニオール・バホスがボレーを叩き込んで先制する。1点リードを保ったまま後半も進み、あとは試合を終わらせるだけだった。

 しかしアディショナルタイムも尽きようかという終了間際の95分。千葉のパワープレーから混戦状態となった浮き球を甲府は弾き切れない。攻め残っていた近藤直也のシュートは甲府DFに当たってコースが変わり、GK河田晃兵の虚を突いてゴールに収まった。その瞬間、甲府の今季ホーム初勝利が消え、指揮官の運命も決まった。

千葉戦後、一様に腰に手を当て、うなだれる甲府の選手たち ©J.LEAGUE

 キャプテンの山本英臣は試合後にこう振り返っていた。「悪い時間帯だなと思ったときの意思統一が、勝てていないからちょっとブレてしまっている。ボディブローのように今までの結果がのしかかっている感じでプレーしてしまう。試合をどう終わらせる、勝ち切るというところだと思います。そこにもう少しフォーカスしながらやっていけない」

 湯澤聖人は「欲を出さずに1-0で勝つというのを徹底していかないといけない。サイドライン際でキープする、クリアする、不用意にファウルしないといった、簡単なことをどれだけ集中してできるか」と課題を口にしていた。勝ち切る、守り切るという成功体験の乏しさが、そういう場面で“欲を出さずに割り切る”という試合運びの逞しさを奪っていた。

 吉田監督が采配を振るうようになってから、甲府の試合は「波」が少なくなった。今季の4敗はいずれも1点差で、大敗や惨敗は一つも無い。とはいっても0-0、0-1の試合にはカタルシスが無いし、引き分けでも「スコアレス」「追いつかれた」経過は印象が悪い。今季の甲府は結果も不十分だが、内容面でサポ―ターにとって満足度が高いとは思えない戦いをしていた。

 甲府は選手の顔ぶれが若返ったが、ベテランが持っていた経験値や勝負強さが薄れている。帳尻を合わせる強かさがなく、かといっても圧倒的なクオリティや爆発力を示せるわけでもない。そのような過渡期の状態に苦しんでいた。

 吉田監督は「理想を追う」「ポゼッションサッカーを追求する」というパブリックイメージを持たれがちな指導者だが、それは浅い見方だ。今季の甲府も「強み」と言える部分が一つ二つ見えてきているが、それは主に速攻の部分。例えばバホスの抜け出しを生かしたカウンターであり、湯澤のパワーや高野遼のキレを活かしたサイド攻撃だ。千葉戦の1点目につながった「サイドを突破して中で合わせる」形は昨季の甲府が出せなかったもので、そういう良い変化も見て取れる。

 一方で今季は「ボールを持つ」「動かす」部分が中途半端で、強みになっていない。相手の動きの逆を突く嫌らしい組み立てができていない。第2節の東京ヴェルディ戦は4-1-4-1の布陣から、そういう野心的なビルドアップを狙っていた。しかし以後の試合はセンターバックを3枚並べる布陣に戻し、人とボールの動きで相手を崩すようなチャレンジはしていない。

上野展裕

2017シーズン途中までレノファ山口を率いた上野展裕氏 ©J.LEAGUE

 佐久間GMは上野新監督に求めるものをこう説明していた。「中央を破ってゴールに行けるようなバリエーションも増やして頂きたい。アタッキングサードに入ったときにはみんながコンビネーションを出して、阿吽の呼吸でボールが回るような……。少ないタッチ数で、共通理解を持ってゴールまで行けるようなアタッキングサードでの崩しを個人的にはオーダーしている」

 甲府が本気でJ1昇格を目指すなら、「ボールを持っている状況を強みにする」チームに変貌しなければいけない。スモールクラブが文化として根付き、娯楽として地域に受け入れられるためには「自分たちのフットボール」を作り上げなければならない。そういう志がクラブや吉田前監督にはあったし、それは今後も変わらない。ただし甲府はJ1の残留に失敗したばかりのクラブ。結果が伴わないチャレンジを続ける余裕はない。

 甲府は2013年のJ1で8連敗を記録しているが、千葉戦の小瀬で感じた空気は当時よりも重かった。そういう空気は突然生まれたものでなく、4月14日の松本山雅FC戦後には吉田監督が「僕にとっては地獄のような時間」と振り返るゴール裏とのシビアなやり取りもあった。

 千葉戦後の会見場やミックスゾーンでは監督の去就に関する質問が続き、佐久間GMを筆頭とするクラブの「背広組」にコメントを求める記者が集まっていた。そういう騒がしい状況が続くことは、どう考えてもクラブにとってプラスでない。監督の交代という結論は妥当なものだろう。

カートで通りかかった石原アンバサダー [写真]=大島和人

 千葉戦の取材が済み、筆者がピッチサイドで他の記者と会話をしていたら、電動カートに乗って作業中のクラブスタッフが話しかけていた。

「なんで記者の人が選手より暗い顔をしているんですか?選手も気にしちゃいますよ」

 男の名は石原克哉。甲府一筋で17年間プレーし、今季からアンバサダーに就任したクラブのレジェンドだ。3年連続J2最下位という「どん底」を知る男はやはり図太い。

 甲府を取り巻く状況は厳しいが、平常心を自ら捨てる必要はない。首位・大分トリニータとの勝ち点差「13」を1日で消すことは無理だが、J1昇格のチャレンジはまだ続く。選手がピッチでボールを追い、サポーターがスタジアムに集う日常は終わらない。石原との短い会話には、そんな「気づき」があった。

 5月3日には早くも上野新監督の初陣が待っている。記者はともかく、サポーターが松本戦や千葉戦のような「暗い顔」になる様子をもうしばらく見たくない。

文=大島和人

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