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【ライターコラムfrom名古屋】「やりがい」感じる新天地…新井一耀、名古屋スタイル適応に意欲を燃やす

2017.08.18

期限付き移籍で名古屋に加入した新井一耀 [写真]=N.G.E

 ここ3試合で16得点を挙げている名古屋グランパスだが、一方で9失点も喰らっているのは悩みの種。GK楢崎正剛をして「悪いなりに守れるような強さは今はない」という攻撃偏重のチームにおいて、DFを本職とする選手たちは頭の痛い日々が続いている。この夏の移籍でやってきた新井一耀もその一人で、加入2試合で連勝中も、既に5失点を食らって「やっぱりゼロで抑えたい」と苦笑する。期限付き移籍元である横浜F・マリノスがそもそも守備の伝統が息づくチームだけに、そのギャップは人一倍。「それは刺激だし、やりがいもある」とポジティブに捉えつつも、本音のところを言えば試合中は相手だけでなく守備面の不安要素とも戦っている状態だ。

 しかしそれこそが、名古屋にとっての彼の得難い価値となる。超攻撃的なチームを作るがゆえに、指揮官の守備に対する要求はある意味ムチャだ。例えば「一人で2人の相手を見るためのポジショニング」とは確かに体現できればそれだけ攻撃に人数を割くことができる理想的なもの。しかし、突破されればそこには重大なピンチが待っているのもまた確かだ。今季の失点の多くがいわゆる“安い失点”に見えるのもそれが影響している部分が大きく、新井もそれは理解している。そこで「できればしっかりとした人数で守りれるようにはしたい」と、自分なりの運用でよりフレキシブルに対応しようと目論んでいる。その意志が周囲に伝わるだけでも、いらぬミスを減らすことにはつながるはずだ。


町田戦は勝利したものの、3失点と課題が残った [写真]=J.LEAGUE

 さらに新井は「全体の足が止まってしまう時間帯がある」とチームの悪い傾向を指摘する。「リードを奪うとみんながボールを受けに来るけど、点を取られると士気が下がって自分たちで悪い方へ行ってしまう」というのがその内実だ。これは今に始まったことではなく、むしろ開幕時から抱えてきた「ボールを持つとはどういうことか」(風間八宏監督)という永遠の課題でもある。大卒2年目ながらその視点は鋭く、守備者としての立場を見誤ることのない冷静な思考回路は何とも頼もしいところ。「そういう時間帯でいかに耐えるかが勝つためのポイント。自分がその判断をできる選手になりたい」と話す視線の先には、日本サッカー史に残る偉大な先達、中澤佑二の姿が見え隠れする。守備のDNAを感じさせる言葉やプレーは、今季の名古屋にはそれだけで貴重だ。

 その中澤からは日本代表時代の盟友・楢崎に連絡が入っていたという。思えば練習に初めて参加した時、ピッチで一番に握手を求めて「よろしくな」と声をかけたのが誰あろう楢崎だった。その次の瞬間、何やら耳打ちされた新井は「やめてくださいよ……」と恐縮しきり。あれは何だったのかと尋ねると、「ここがプライベートな場所なら話しますけどね(笑)」と大ベテラン。代表のレジェンド二人からの薫陶を受けられる新井は、実に幸運な選手でもある。

名古屋のスタイルに適応中 [写真]=今井雄一朗

 次節、そして今後の目標はもちろんできるだけ多くの無失点試合の実現だが、「そういうチームじゃない」(楢崎)という意見もチラホラ出始めている。新井も「点を取られてもそれ以上の点を取りに行くのがこのチーム」とチームスタイルへの順応も進める覚悟で、「そうなれば自分も得点に絡むプレーをしたい」と新たなチャレンジにも取り組む心づもりも見せた。センターバックとしての腕の見せ所は随所にどころではない数が存在するチームで、伸び盛りのDFが見せる躍動感は一見の価値ありだ。

写真・文=今井雄一朗

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