直近の出場5試合で10得点。ジョーは得点ランクトップに迫る勢いで得点を量産している [写真]=J.LEAGUE
つまるところはジョーの覚醒がすべてとも言える、名古屋の快進撃である。夏の移籍で獲得した5人の新戦力がチームを大きくアップデートさせたことは間違いないが、怒涛のようなリーグ6連勝の中で10得点を挙げている恐るべきストライカーの決定力なくして、その結果は生まれなかった。利き足の左で、192cmの高さを生かした頭で、そして利き足でない右でも、元セレソンは点取り屋の真価をいかんなく発揮。その決定力をもってチームの最下位、そして降格圏脱出を力強く牽引している。
だからといってジョーにばかり頼っていてはいけないのだが、その存在感はもはや大きすぎるものだ。瞬く間にランキングトップに迫る16ゴールをマークするに至ったその得点力は言うまでもなく、強靭なフィジカルに機動力が加わった前線での起点となる動きに、浦和の日本代表DF槙野智章でさえ太刀打ちできなかった。来日当初は95kgあったという体重を、ベストの92kgを下回る90kgにまで絞った現在のコンディションはまさにピーク。まるでこの時期にこの活躍をするため、前半戦を“慣らし”の期間に充てたようにすら思える凄まじさである。
それほどの活躍を見せられなかった前半戦との差はまさにこのフィジカル面にあり、ワールドカップ前までは中央でボールを待っているばかりだったプレースタイルは、今は比べものにならないほど活動的で行動範囲も広くなった。「サイドでボールをもらうのも好きなプレーだね」と語るジョーは、アウェイの仙台戦でその言葉通りに左サイドからのペネトレーションで前田直輝との連係を決め、ゴールを奪っている。ポストプレーも巧みで、チームに時間をプレゼントする選手としてもその貢献度は高い。
「しのげば必ず点が取れる」…圧倒的な存在感がチームにもたらす相乗効果
繰り返してしまうがこのジョーという得点源を得たことで、有能な新加入選手を迎え入れたチームに極太の軸ができたことが絶好調の要因だ。丸山祐市、中谷進之介という日本代表クラスのセンターバックは、決まった守備戦術を持たないチームに「中央で耐える」という守備の強度を加え、ポジショナルプレーを苦にしない技術の高さで攻撃面も強力にサポート。丸山が得意とするフィードはショートパス主体になりがちなチームスタイルに攻撃のダイナミックさをもたらし、リードを奪った試合展開の中ではカウンターの起点としても素晴らしく機能し始めた。
左サイドバックの金井貢史は、前所属時代から持ち味としてきた意外性のあるオーバーラップを駆使し、加入後すでに3得点を上げている。J2松本からの加入した前田は、なぜJ1でプレーしていなかったのか不思議なぐらいの攻撃性能を誇示し、加入後7戦で3得点6アシストと“大当たり”の活躍を見せている。前田はジョーとの相性が良いことも特筆すべき点だ。最近はもっぱらサイドハーフを主戦場としているが、最前線でコンビを組んだ時の破壊力はリーグでも屈指のものがある。新加入では唯一、エドゥアルド・ネットだけが負傷の影響で本来のパフォーマンスを見せられていないが、その状態でなお味のあるゲームメイクを見せているから今後がむしろ楽しみなほど。もはや昨季から在籍する選手でさえスタメンに3~4人しかいない状況はなかなかに異常事態だが、荒療治はひとまず結果を出したのもまた確か。アウェイの会場でメンバー表を見た地元記者が「名古屋は傭兵軍団になっちゃったな」と話すのを聞いたが、傭兵は報酬分の仕事はきっちりしてくれる。
そうした再生を果たしたチームに勇気を与えるのが、しつこいようだがジョーだ。いま、名古屋の選手はDFを中心に「しのげば必ず点が取れる」と”覚悟”を決めている。その上で安定感のある試合運びを見せた浦和戦後には、玉田圭司が「ウチにはスーパーストライカーがいるからさ」と絶大なる信頼を口にし、自らは攻撃的なチームを守備面で支える献身性を見せた。同試合に出場したセンターバックの新井一耀も「後ろが耐えていても点が取れない時は精神的にもキツイところがあるけど、今はこういう風に点が入る。それを信じて守るだけなので、本当にやりやすい」とチームの高い決定力のありがたみを語る。J2だった昨季は「取られても取り返す」という奔放さが名古屋の強みの一つだったが、今はそこに試合全体を支配する安定感が加わった印象だ。しかし、ボールを回しているだけでは試合は支配できない。何が必要かは言わずもがな、得点だ。その作業の中心にいるのが背番号7であることは、改めて言うまでもない。
ジョーは瞬く間に得点ランキングを駆け上がり、パトリックの17得点に1差と迫る16得点を積み重ねた。うち10点が出場したここ5試合の結果なのだから、まさしく“フェノーメノ(怪物) ”である。今後、チームはさらに完成度を高め、進化を続けていくだろうが、ジョーの活躍なくしてその加速度は生まれないだろう。“15億円の男”はいま、その名に違わぬ価値をピッチで披露している。
文=今井雄一朗
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