GK中村の好セーブなどでFC東京との上位対決を制した柏は3位に浮上した [写真]=J.LEAGUE PHOTOS
ボールを獲物に例えれば、野生の獣をダブらせる俊敏さと獰猛さで襲いかかる姿が、前半だけで3度も味の素スタジアムを沸かせた。FC東京と対峙した14日の明治安田生命J1リーグ第11節。守護神・中村航輔の神懸り的なビッグセーブが、柏レイソルに5連勝を呼び込んだ。
ともに3試合連続無失点で迎えた一戦。12分にFC東京の日本代表GK林彰洋が、FWクリスティアーノの強烈な直接FKを横っ飛びでセーブ。相手に傾きかけた流れを、わずか3分後に中村が静かなる咆哮をあげて強引に手繰り寄せた。
ゴールまで約23メートルの位置で与えた直接FKのピンチ。左足のスペシャリスト、DF太田宏介が放った低空の一撃は味方が作った5枚の壁をぎりぎりで越えて、中村から見て左側のコースへ加速しながら落ちてきた。
「太田選手は非常に良い左足を持っていますので、チーム全体で防ごうと、しっかりスカウティングをしていた。止められる範囲に来てよかったです」
果たして、ボールが壁を越えた瞬間、右寄りにポジションを取っていた「23番」は素早く反応し、タイミングを見計らって左へダイブ。184センチ、72キロの体を一直線に伸ばし、その延長線上にある左手で弾き飛ばした。
31分には太田が左サイドからあげたアーリークロスに、味方DFの背後から死角を突くように飛び込んできた元日本代表FW前田遼一に完璧に合わせられる。頭で弾かれた一撃は目の前でワンバウンドする難しいシュートとなったが、ここでも中村は慌てない。
腰をしっかりと落とし、ボールの落ち際を両手で、味方のDF輪湖直樹がクリアしやすい目の前に弾き返した。直接FKにアーリークロスと、得点に直結する自身の武器を封じられた太田は、中村に対して脱帽の表情を浮かべるしかなかった。
「あれはキーパーを褒めるしかない。もうちょっとポストの方を突ければよかったんだけど、感触的には良かったし、入ったと思いましたけど。(前田)遼一さんのシュートも、遼一さんがファーサイドから流れ来るのが見えていたし、遼一さんをピンポイントで狙ったんですけどね」
今シーズンにJ1デビューを果たしたばかりの21歳、MF手塚康平の鮮やかな無回転ミドルが林の牙城に風穴を開けて柏が先制したのは、前田の一撃をセーブしたわずか2分後だった。
チームを3位に浮上させる原動力になった22歳の若き守護神は、ゴールマウスで放つ大きな存在感とは対照的に寡黙で、ちょっぴりシャイな一面を漂わせながら取材エリアに姿を現した。
「選手一人ひとりがハードワークをしてくれているので、自分も何とかフィールドの選手たちに応えたいという思いでプレーしています。全員が結果を求めて戦っているので、良かったと思います」
9歳だった2004シーズンから、柏の下部組織で心技体を磨き上げてきた。ポジションは当時からゴールキーパー一筋。2002年のワールドカップ日韓共催大会で魅せられた、ドイツ代表の守護神オリバー・カーンの勇姿がきっかけだった。
トップチームに昇格したのは2013シーズン。もっとも2年間は出場機会がなく、2015シーズンにはJ2を戦っていたアビスパ福岡へ期限付き移籍。夏場からレギュラーを獲得すると、群を抜くシュートセーブ率の高さでチームの快進撃を支え、5年ぶりのJ1昇格へ貢献した。
「アビスパで試合に出続けたことで、自分のプレーに対する責任感をしっかりと身につけたと思う。復帰した昨シーズンも、J1で通用することを(中村)航輔自身のプレーで証明していたので」
柏のキャプテン、32歳のMF大谷秀和は、福岡でのプレーを機に中村が特にメンタル面で成長を遂げたと指摘。同時にいまも日々積み重ねる努力が成長を導いている、と頼もしげな視線を送る。
「航輔自身が足りないところをしっかり見つめながら、客観的にプレーできている。航輔は自分ができる以上のことを、色気を出すような形では絶対にしない。例えばアイツが飛び出してポロリとこぼしたところをゴールに押し込まれるという場面は、試合はもちろんのこと、練習でもほとんど見ない。この連勝中は航輔が勝ち点を取ってきてくれるところがあるし、(後ろに)航輔がいるという信頼を持ちながらプレーできている。若いけど非常に真摯にサッカーへ取り組んでいるし、代表を含めて、もっともっと高いところを目指してほしいですね」
決して背伸びすることなく、その日、その日の絶対値をパフォーマンスに反映させる。その過程で出場する試合で出た課題を日々の練習に落とし込み、克服していけば、おのずと高いステージへたどり着く。試合中の中村が放つ修行僧のようなオーラには、自らを客観視できるスタンスが投影されていた。
状況を冷静に見極められるから、突然訪れたピンチにも動じない。22分に味方の不用意なボールロストから決定機を作られ、ほぼ正面からMF東慶悟に強烈な一撃を放たれた。これを横っ飛びで防いだ中村は「準備はできていた」と振り返る。おそらくはミスが出た時点で、起こりうるすべてのシーンを予想していたのだろう。
2点リードで迎えた試合終了直前に1点を返され、4試合ぶりに喫した失点にも悔しい素振りすら見せない。むしろ「記録だけを求めて戦っているわけではない。一度途切れた方が個人的にはいい」と頼もしい口調で言い切った。
欲しいのはチームの勝利だけ。個人的な記録は二の次と強調する中村だが、柏におけるパフォーマンスの延長線上にある「場所」だけはしっかりと意識している。年代別の日本代表に選出され、昨夏のリオデジャネイロ五輪でもゴールマウスを守った男が見つめるのはA代表しかない。
「そこを目指すのは当たり前のことだと思っている。何とかして入りたい」
ハリルジャパンの構想には入り、バックアップメンバーに名前を連ねたこともある。首位の浦和レッズとの勝ち点差はわずかに1。上位戦線に旋風を巻き起こす柏の最後尾で、中村のストイックな挑戦が続く。
文=藤江直人
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