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【コラム】J2降格の名古屋。“10番の後継者”が口にした熱き思い「グランパスをもう一回強くしたい」

名古屋の10番・小川佳純。チームへの思いを語った [写真]=Getty Images

 マイクを通して大声を出しているのに、久米一正代表取締役社長の言葉がスタンドまで聞こえない。耳をつんざくようなブーイングと怒号が、満員の観衆で埋まったパロマ瑞穂スタジアムを揺るがす。

 湘南ベルマーレを迎えた3日の明治安田生命J1リーグ・セカンドステージ第17節。結果的には引き分けでも残留を決められたはずの名古屋グランパスだったが、すでにJ2降格が決まっている相手に攻守両面で後塵を拝し続ける。前半だけで2点のリードを許し、後半開始早々にFWシモビッチのPKで1点を返したものの、60分に湘南MF山田直輝にこの日2点目となるゴールを許すと、勢いを削がれたチームにもはや希望を紡ぐゴールを奪う力は残っていなかった。

シモビッチ(左)のPKで1点差に迫ったが… [写真]=Getty Images

シモビッチ(左)のPKで1点差に迫ったが… [写真]=Getty Images

 1-3のスコアとともに、年間総合順位で16位が確定。1993年のJリーグスタート以来、初めてJ1の舞台を去ることが決まってしまった。その数分後、最終戦セレモニーで久米社長が挨拶に立つと、それまで呆然と立ち尽くしたまま、現実を受け入れられないとばかりに静寂に包まれてきたスタンドが一変する。続いてマイクを握ったボスコ・ジュロヴスキー監督とキャプテンのMF田口泰士には、一転して労をねぎらう拍手と温かい声援が送られる。ピッチの中央で怒りの標的となった久米社長は、あまりに大きな“ギャップ”に込められた意味を、神妙な表情とともに受け入れていた。

「私に対する大ブーイングが物語っているように、フロント力が試されていたと思う。フロント力がないチームはJ2へ落ちていく。それが長くサッカー界で生きてきた私の中で生きてきた印。残念ながら今年のフロント力においては、私の束ねる力が足りなかった。ハンドリングが甘かったと思っています」

 日本サッカー界におけるゼネラル・マネージャー(GM)の草分け的存在として知られる久米社長は、強化の最高責任者を務めた柏レイソルで「黄色い球になれ」と、清水エスパルスでは「オレンジ色の球になれ」とそれぞれのチームカラーになぞらえて選手たちを鼓舞してきた。名古屋では2008シーズンにクラブ史上初めてのGMとして迎えられ、昨年4月には社長に就任。ここでももちろん「赤い球になれ」と言い続けてきた。しかし、ストイコビッチ監督とのコンビで悲願のJ1初優勝を果たした2010シーズンをピークに、チームは下降線をたどり続ける。「一つになっていかないと、こういう目(J2降格)に遭うぞ」と危機感を煽ってきたが、最悪の結果に行き着く悪しき流れを食い止めることはできなかった。

失意の中、場内を一周した名古屋の選手たち [写真]=Getty Images

失意の中、場内を一周した名古屋の選手たち [写真]=Getty Images

 セレモニー後に場内を一周し、ロッカールームへ戻った選手たちは、その後に姿を現した取材エリアでも目を赤く腫らし、呆然とした表情を浮かべていた。真っ先に帰りのバスへ乗り込んだDF田中マルクス闘莉王は、自身よりもはるかにサイズが小さい山田との“デュエル”で敗れた末に喫した3点目に、「ああやって見事にスーパーゴールを決められると、流れや展開が非常に難しくなる」と消え入りそうな声で自らを責めた。

「サポーターの声援に応えられなかった自分の力のなさ、ここ(引き分けでも残留という状況)まで来られたのに最後に結果を出せなかったことが悔しくて、悔しくて。今までのサッカー人生における、いろいろないい出来事をすべて残留と引き換えても……と思っていたんですけど…責任を感じているし、『ごめんなさい』という気持ちしか今はない」

 1999シーズンからプレーするクラブ最古参の40歳、守護神・楢崎正剛はセレモニーの前後で、人目をはばかることなく号泣した。彼にとっては非常に珍しい、感情を露わにした姿。その心境をこう打ち明けるのが精いっぱいだった。

「辛いと言うしかないですけど……何か僕の言葉を待っているのかもしれませんけど、今は何も思いつかない」

 選手全員が引き揚げた後のスタジアムで記者会見に応じた久米社長は、名古屋の会長を務める親会社・トヨタ自動車の豊田章男社長へ進退伺を提出することを明らかにした。自ら言及した「ハンドリングの甘さ」をさかのぼっていくと、今シーズンにおいては小倉隆史前GM兼監督の起用に帰結される。

「西野さん(西野朗/現日本サッカー協会技術委員長)の後に、グランパスOBの小倉前監督を推薦したのは誰かと言えば私です。そして選手を決めていく、あるいは見極めていく上で、GM補佐を務めていた彼にGMも任せた方がもっとスムーズに動くのではないかと。残念ながら18戦連続未勝利という不名誉な記録を作ったところで小倉前監督には休養していただき、ボスコさんに(後任を)お願いしたわけですが、なかなかうまく機能していかなかった。大きなところでは、外国籍選手を含めた選手の見極めがしっかりできていなかった。そのあたりのフロント力の甘さは、大いに反省しています」

 小倉前GM兼監督を任命した責任。そして7月末に開催したサポーターズミーティングにおいて、公の場で「J1に残留できなければ退任する」と明言したことに対する責任。それらが進退伺の提出につながったわけだが、一方で「J2に落として逃げていくのはどうなのか、と思うところもある」と、大仕事が残されていると強調する。

「セレモニーの挨拶でも言ったように、1年でJ1へ戻ってくるための準備もしっかりサポートしていかなければいけない。1年で戻ってくるためには、柏レイソルやガンバ大阪のように、昇格してすぐ優勝するようなチームにしていく必要がある。そのためには、今いる選手たちを口説いて、残ってもらう。他チームからのオファーをすべて蹴散らすくらいの熱い信念がないと、いい選手はあっという間に移籍してしまう。選手の気持ちを考えれば、J1でプレーしていたほうが、お金が高いほうが、といった具合に流されていくと僕は思うので、お金を使ってでも残すべき選手は残していこうと。そのためにも、監督の問題や今後の補強などでしっかりとした方向性や結論を早急に出さなければいけない。選手はいろいろなことを考えながら今後を選んでいくので」

 昨シーズン限りで退団して故郷のブラジルへ帰国し、ジュロヴスキー監督に乞われる形で8月下旬に電撃的に復帰した闘莉王は「(復帰後の)7試合に人生を懸けてきたわけですから、自分の中ではまだ整理がつかない」と今後に対する具体的な言及を避けた。契約期間は5カ月だが、J1残留に集中するため、あえて来シーズンに向けた交渉は封印してきた。

 クラブに残留すれば、41歳にして初めてJ2を戦うことになる楢崎は「それはちょっと待ってください。ごめんなさい」と、困惑した表情を浮かべながら質問を遮った。すでに他のJ1クラブへの移籍が報じられているFW永井謙佑は「まだ何も考えていない。オフ明けにでもまた聞いてください」と語るに留めた。セレモニー後に場内を一周しながら、闘莉王も楢崎も永井も田口も、チーム再建を願ってやまないファン・サポーターから「残って!」とラブコールを送られては再び目頭を熱くした。

残留を信じて熱い応援を繰り広げた名古屋サポーター [写真]=Getty Images

残留を信じて熱い応援を繰り広げた名古屋サポーター [写真]=Getty Images

 そんな中、熱き思いを口にした選手がいる。明治大から2007シーズンに加入し、ストイコビッチ監督が監督に就任した3年目から指揮官が現役時代に背負った「10番」を託されて現在に至る小川佳純だ。彼は試合後、目に涙を溜めながら、胸に抱いていた一つの“思い”を口にした。

「時間は掛かると思いますけど、(降格という)事実を受け入れて、クラブとして前へ進んでいくしかない。もちろんJ1に残りたかったけど、これは運命であり、もしかしたらグランパスがもっと良くなるために必要なJ2降格だったと(後になって)言えるかもしれない。本当にグランパスを良くしたいと思う人たちでもう一回やっていくべきだと思う」

 彼自身の個人成績を振り返ると、ゴール数は新人王とベストイレブンをダブル受賞した2008シーズンの「11」が現時点におけるキャリアハイ。その後は「10番」の後継者として、ことあるごとに周囲から“ピクシー”と比較され、時には「プレースタイルが違う」と思いの丈を打ち明けたこともあるが、期待とその裏返しでもある叱咤激励を寄せ続けてきてくれたファン・サポーターに対して、J2降格を受けて「見捨てないで、応援し続けてほしい」と静かな口調で熱く訴える。

「皆さんには申し訳ない気持ちと感謝の思いでいっぱいで……。この場で残りますとも、いなくなりますとも言えませんけど、自分としてはグランパスのために何かしたいとずっと思っている。グランパスに10年も在籍させてもらってすごく感謝しているし、だからこそグランパスをもう一回強くしたいという気持ちもある。そういう思いのもとでこれから行動して、いろいろなことを決めていきたい」

 楢崎や闘莉王、DF竹内彬、まだ出場機会のなかった田口やMF磯村亮太とともに、2010シーズンの初優勝の喜びを知る数少ない選手の一人になった。だがしかし、その小川が募らせる強い名古屋への憧憬の念は、ほとんどの選手が大なり小なり共有しているはずだ。

 悪夢のJ2降格から一夜明けた4日からチームは1週間のオフに入った。すでに天皇杯で敗退している名古屋に今シーズンの具体的な目標はなく、闘莉王も近日中にブラジルで待つ夫人と生まれたばかりの長女の元へ戻る。だが、クラブとしては小川の言うとおり、今回の降格を、真の“グランパス再建”への確固たる第一歩としなければならない。久米社長を始めとする経営陣には、選手たちが抱くクラブ愛を束ねて増幅させ、来シーズン以降の捲土重来へつなげていくための礎を固める作業が、具体的かつスピーディーに求められる。

文=藤江直人

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