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【スペシャルインタビュー】 中村憲剛(川崎) 「フロンターレはもっと強くなる」/第1回「残心」と「前に進んでいく力」

 ここにきて吹き荒ぶ逆風は、まさに彼の人生を象徴しているのかもしれない。

 悲願の初タイトル獲得を目指す川崎フロンターレ。だが、明治安田生命J1リーグ1stステージは最後の最後で優勝を逃し、2ndステージも終盤に白星と黒星を繰り返して順位を落としてしまった。

 だが、そんな状況にも中村憲剛は決して歩みを止めない。自身をして「よくこんなに踏まれてもやっているな」と振り返るほど多難なサッカー人生を歩んできた彼にとって、いかなる状況でも諦めずに目標達成を目指すのは自分のスタイルだ。

 確実に成長を遂げてきた今シーズン、彼はどんな思いで戦ってきたのか、そしてチームの進化をどう見ているのだろうか。

 全4回にわたるロングインタビューで、今シーズンここまでの川崎フロンターレ中村憲剛の戦いを振り返る。

 第1回のテーマは、「残心」と「前に進んでいく力」。今年発売された書籍の内容に触れながら、中村憲剛というサッカー選手がいかなる紆余曲折を味わいながら、どんな思いで戦ってきたのかを掘り下げる。

[第1回]「残心」と「前に進んでいく力」
[第2回]「残心~その後~」
[第3回]「ただ勝つだけでは満足できない集団になってきた」
[第4回]「すべては自分たちの手の中にある」


『残心』には僕の苦しんでいる心の内側が描かれています


今シーズンの話を伺う前に、まずは今年発売された書籍、そして憲剛さんのこれまでの戦いについて聞かせてください。2010年の南アフリカ・ワールドカップから1700日に及ぶ自身の戦いが『残心』というタイトルで一冊にまとめられました。これまでも自著で何冊かの単行本を発行していますが、今回の『残心』を一人の読者として読んでみた率直な感想はどうでしたか?

中村憲剛(以下、中村) この本に関しては“三人称”であることがすべてだと思いますね。今回はライターの飯尾篤史さんが書いてくれたんですけど、自分の名前で書くのと、第三者が書くのでは全く違う。起こった事象に対する見方はもちろん、読んだ人の見方も変わると思うので。状況説明はもちろんなんですけど、自分では言えないようなことや恥ずかしい内容も入っているから(笑)。だから本を紹介する時には「飯尾さんだからこそ書けた本」と言ってます。

僕も読ませてもらったんですけど、いろいろな描写が細かくて、本の中に入っていく感じがするんですよね。例えば、ブラジル・ワールドカップのメンバー発表後にソウルのホテルで憲剛さんが寝転がっている情景とか、空港で海外移籍について切り出した場面とか、映像として浮かぶようなことが多くて。やっぱり読んでいて当時のことを思い出したりしました?

中村 それはもう、全部自分のことですから(笑)。全部ハッキリ覚えている出来事ばかりだけど、結構重たいですよね。

確かに。言い方が難しいんですけど、すごくしっかり読み込める本だと思う。

中村 表に出ない話ばかりですからね。自分の内面とか家庭の話とか、そういう内容ばかり。普通はそこまで内面を深く書けないので。試合後のミックスゾーンは、基本的にサッカーの話がメインですし。でも、この本では苦しんでいる心の内側が描かれています。僕がここまで苦しんだり葛藤があったりしたことを知らない人が多かったと思うけど、「悩みはあるんだろうな」と漠然と思っていた人も、実際にこれを読んですごくリアルになったんじゃないかと思います。ブラジルW杯メンバーの落選を受けてブログを書いた夜の話とか、すべてが書かれているのはこれしかない。僕も飯尾さんを信頼して隠さず話をしましたし、それが全部載っているので。

読んだら絶対に入り込むというか、感情移入できる。

中村 そう思います。僕のことを知ってても知らなくても、こういう人がいるんだなって。あと、この『残心』というタイトルが。


ブラジルW杯落選のショックは、そのまま引退してもおかしくないと思うくらいの出来事


タイトルを聞いた時の第一印象は?

中村 結構、スッと入ってきました。いろいろな意味で取れるし。結構重たい話が多いので、「タイトルはどうするんだろう?」って気になっていたので良かったです。

剣道や古武道における用語で、「技をかけた後にも心を途切れないようにする」という意味もあると聞きました。

中村 武道の話は知らなくて後から聞いたんですけど、まず「残心」という字面で「心残り」という意味が取れますよね。僕の人生はそんなことばかりだから、どっちもピッタリだなと。明るいものではないし、ハッピーエンドで終わっていない。むしろ続く形で終わっていますから。

もう少し内容に関して聞いていきたいんですけど、まず導入部分にものすごくインパクトがありましたね。

中村 書籍ってスタートがすごく大事じゃないですか。だから入り方をブラジルW杯メンバー発表日の朝に持ってきたのは、一人の読者として「うまいな」と思いました。みんなが知っている事実の裏側を書いて、そこから4年間の戦いを追ってくれて、また現在に戻ってくるというテクニック(笑)。これは自分ではできないし、すごく考えてくれたんだと思います。4年以上に及ぶ話だから、書くほうも重かったと思います。

いろいろなことが起きた4年間の戦いと自分のサッカー人生が一冊の本として形になったわけですね。

中村 すごくありがたいですよ。こういう形で本にしてもらえる選手は、そんなに多くないですから。しかも、ただ書いただけじゃなく、これだけの密度。自分が照れるくらいの濃い内容だから書けたというのもあるだろうし、良かったと思います。一時期は飯尾さんのほうが自分よりも僕のことを知ってたくらいですから(笑)。すごく考えてくれたし、感情移入もしたと思います。だから僕も情報提供者として出し惜しみをしちゃいけないと思ったし、せっかく一緒に作るなら良いものをと考えていましたから。オフのハワイにも来てくれて、うちの家族もすごく信頼していました。取材者と取材対象者という関係だけじゃなく、一人の友人みたいな感覚ですかね。J2時代からずっと見てくれてるのも大きいと思います。飯尾さんはサッカーダイジェストの編集部だった当時から、ずっと追いかけてくれた。僕のところに誰も来ないような頃からミックスゾーンとかでずっと話をしていたし、そんな時代からの付き合いで、何でもないような選手がここまで来た歴史を見てくれてたわけですから。

本の中に自分が知らない話はあったりしました?

中村 全く知らないことはなかったですけど、『中村憲剛』という選手を第三者目線でイメージして読んでました。自分の話なのに「こういう選手なんだな」みたいな(笑)。

第三者目線で見たプレーヤー『中村憲剛』はどうでしたか?

中村 もう、よくこんなに踏まれてもやっているなと(苦笑)。ブラジルW杯落選のショックは、そのまま引退してもおかしくないと思うくらいの出来事でしたから。「この人は本当にサッカーが好きなんだろうな」と思っていまた。「サッカーバカなんだな、こいつ」って(笑)。そこはすごく単純で、舞台がW杯でもACLでもフロンターレの試合でも変わらないし、例えば今日の練習でパスをつないですごくいいボールが出せたら、それで「サッカーって楽しいな」と思う。すべては自分次第だから、結局飽きないんです。それがサッカーの良いところだと思うし、だからこの年齢になっても続けているんじゃないかなって気はします。


移籍の話が出た時だって、忠誠心というか、愛着が根強く残っていました


“求道者”と言うと、ちょっと大げさかもしれないですけど。

中村 そこまでストイックじゃないです(笑)。もっとストイックな選手はいっぱいいますし。

自分の中で楽しみながら、その道を……。

中村 極めたいです。

徐々に極めてきているのでは?

中村 うーん、多少は。いろいろなものは勝手に分かってきた感じはしますけどね。達観とまでは言わないですけど、ピッチの中でも外でも、自分の想定内で収まることが増えてきたとは思いますし。若い頃はいっぱいいっぱいで突っ走ってきて、それがエネルギッシュでいい影響を与えることが自分にも周りにもあったと思います。ただ、選手としての幅がその時にはなかったし、それは仕方がない。年齢的には当然のことだから。こうやって年を重ねていくことで年輪のように自分の周りにいろいろなものが肉付けされてきた。それはすごく感じます。周りの選手がみんな年下になってきたのもあるけど、最近は先が読めるようになって、ますますサッカーが面白くなってきました。「今の状態で若い頃に戻れたらな」って思うけど、その年月を重ねなければここには到達していないから、いつも「この考えはムダだな」って思うんですけど(笑)。

でも、思っちゃうわけですよね(笑)。

中村 はい(笑)。「もうちょっと遅く生まれていたら海外移籍しやすかったんだろうな」とか。でも、それはそれだから。“ワンクラブマン”として、長い年月をかけてクラブにいることで見えることもいっぱいありました。もちろん移籍したらしたで他のものが見えるかもしれないけど、その選択肢は僕の中にはないですし。

もはや“クラブの歴史”が“中村憲剛の歴史”になってきていますよね。

中村 14年間も在籍してれば、そうなってもおかしくないですよね(笑)。

本の中で海外移籍するかどうかで悩んだくだりがありますけど、“ワンクラブマン”で行こうという決意はどこかで固めたんですか?

中村 根っこの部分はずっと一緒です。移籍の話が出た時だって、やっぱりフロンターレに対する忠誠心というか、愛着が根強く残っていましたし。それがなければ移籍していたと思うんです。だから海外移籍の話があった2010年に最終的に気持ちをまくったわけで。まあ、いろいろな話が来て、あとでチーム名を見たら「行っておけば良かったな」って思いましたけど(笑)。ただ、代理人の大野(祐介)さんや関係者に迷惑を掛けて申し訳なかったとは思いますけど、そこは自分で判断したことだし、悔いはないです。行っておけば良かったと思う瞬間はあったけど、結局自分の判断は間違っていないと思っています。


読んだ結果として「よし、やろう!」って思ってくれれば、それはすごくうれしい


それだけクラブに対する気持ちが強いのは、プロになりたかった自分を拾ってくれたから?

中村 それはもちろんあります。でも、クラブへの思いはそれぞれ違うし、僕の場合はフロンターレへの愛があって、その思いが強すぎるから。

伊藤宏樹さんを始め、多くの先輩たちから受け渡されたバトンもあります。

中村 そうですね。

あるサッカー選手の挑戦と挫折の繰り返しが記されている本ですね。

中村 みんな逆風はあるじゃないですか。それをどう乗り越えていくかの方法論は書いてないけど、読んだ結果として「よし、やろう!」って思ってくれれば、それはすごくうれしい。僕の場合は基本的にいいことばかりじゃないし、折れそうになることばかりだから。最終的に細かなものが大きなものになるというか、前に進んでくる力がどこから出てくるのかは感じてもらえると思います。なんせ1700日だからね。「なげえよ」って(笑)。

本も分厚いよって(笑)。

中村 だけど、あっという間に読めると思いますよ。

確かに一気に読めるんですけど、ちゃんと読んでいくとすごく時間が掛かるんですよね。“書き手と中村憲剛の目線”に入り込んで言葉と情景を浮かべながら読んだから、すごく時間が掛かって(笑)。

中村 なるほど(笑)。

でも、それだけ感情移入できる本だと思う。

中村 そうですね。だから、僕を知っている人はかなりの思い入れを持って読んでもらえる本だと思う。もし知らなくても、いろいろな選手の名前が出てくるので、たくさんの人に読んでほしいですね。

これだけ紆余曲折あると、フロンターレファン以外の人が読んでも楽しいと思います。

中村 僕が言うのも変ですけど、Jリーグファンや海外サッカーファンも含めて「こういう選手もいるよ」っていう部分を、この本を読んで知ってほしいですね。僕のブログにも「他クラブのサポーターですけど、すごく良かった」ってコメントくれた方もいました。例えば、自分が応援してるクラブにそういう存在になりそうな選手がいたら、その選手を追いかけたら一つの面白い見方になると思う。だから、いろいろな人に手に取って読んでもらえたらと思います。

取材・構成=青山知雄
写真=新井賢一、Getty Images

第2回「残心~その後~」
第3回「ただ勝つだけでは満足できない集団になってきた」
第4回「すべては自分たちの手の中にある」(23日公開)

■Information■

【書籍情報】
『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』発売中

著書/飯尾篤史
発行・発売/株式会社 講談社
定価/1,500円(税別)
Jリーガー中村憲剛の生きざまを描いた人物ノンフィクション。
南アフリカ・ワールドカップで残した大きな悔いを、ブラジルの地で晴らしたい。そのために中村は「日本代表」と「川崎フロンターレ」、2つの車輪で前進しようとするのだが――。苦悩と歓喜の日々の先に待っていたのは、代表メンバーからの落選だった。
高い壁にぶつかり、それを乗り越えたと思ったら、今度は落とし穴に落っこちて、這い上がる。その繰り返しだった。それでも中村は、その経験をバネにして、未来を手繰り寄せてきた。
「だからね、未来は常に明るいんですよ」
挑戦と挫折を繰り返し、35歳を迎えた今なお「サッカーがうまくなりたい」と悪戦苦闘を続ける、プロアスリートの物語。

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