2016.05.16

足がつってもゴールを目指し続けた熊本MF清武功暉…原動力は「サポーターの声」

清武は疲労のピークを迎えた終盤にも攻め上がる姿勢を見せた [写真]=兼子愼一郎
サッカーキング編集部

 キックオフ直前、そっと目を閉じた清武功暉は、ポン、ポンと左胸のエンブレムに右手を当てた。「本当にこの試合に勝ちたいという強い気持ちだった」。その言葉どおり、ロアッソ熊本の背番号「10」は90分間、ゴールを目指して走り続けた。

 15日に行われた明治安田生命J2リーグ第13節ジェフユナイテッド千葉戦は、平成28年熊本地震発生による中断以降、熊本にとって初めての公式戦。熊本の人々を勇気づけるために、勝たなければいけない一戦だった。

 この日を迎えるまで、決して十分な準備ができたわけではない。震災発生から「精神的にすごくきつかった」(清武)2週間を過ごし、チームの練習が再開したのは今月2日のこと。ゲーム形式の練習は45分までしか実施しておらず、90分間の体力や連係不足が懸念された。清川浩行監督は試合後、「前半は何とか0-0で凌いで、後半にチャンスがあれば勝ち点3を狙っていきたかった」とゲームプランを明かしている。

 その中で、清武は立ち上がりからゴールに迫る積極性を見せた。3分、敵陣中央でボールを受けると、ドリブルで相手DF3人をかわして左足を振り抜いたが、威力が足りずボールはGKへ。続く4分には右サイドで横パスを受けると、迷わずドリブルを仕掛けてエリア内に差し掛かったところでシュートを狙ったが、DFに当たったボールは惜しくもGKの左手1本に防がれた。

「前半にチャンスが何度かあったので、そこで決めきれればもう少し違うゲームになっていたと思う」。前半を上々の内容で終えたが、勝負をかけようと試みた後半、56分に失点。74分には追加点を許した。

「60分を過ぎた頃からヤバいなと感じていた。僕自身も動けなかったし、チームとしてもきつかった」。チーム全体の運動量が愕然と落ちた上、劣勢に立たされたことでメンタル面も苦しい状況に追い込まれた。清武は途中、何度かつった足を伸ばす仕草を見せたが、「どこがつったのかよく分からなかった」。それほど無我夢中でゴールに向かっていた。その原動力は、サポーターや被災地の人々の励ましの声だったという。

「サポーターの声や、避難所を回った時におばあちゃんや子供たちから『ロアッソ頑張ってね』という言葉をもらい、最後まで戦おうと思っていた。それが最後まで走れた要因だと思う」

 最後の最後まで走り続けた清武は、タイムアップの笛が鳴ると、ピッチに座り込んでつった両足を伸ばした。そして立ち上がり際に一度だけ芝を叩き、感情をあらわにした。「やっぱり悔しい」。その感情を味わえたのは、ファン、サポーターの声援を受けながら、再び全力でサッカーができる喜びを感じたからだろう。

「チームが本格始動してから『やっぱりサッカーは楽しい』と感じたし、今日フクアリを一周してたくさんの声援をもらって、『Jリーグっていいな、サッカーっていいな』と思った」

 本拠地、うまかな・よかなスタジアムの復旧にはまだ時間を要するため、しばらくはホームゲームを代替地で開催することになる。22日の第14節水戸ホーリーホック戦は日立柏サッカー場で、28日の第15節FC町田ゼルビア戦はノエビアスタジアム神戸での開催が発表されており、長距離移動を伴う過酷な戦いを強いられるが、「早く勝って県民の皆さんに元気を与えられるように頑張りたい」と意欲を述べた清武。

 この一戦は、新たな始まりの一歩に過ぎない。熊本を勇気づけるため、人々を笑顔にするため、サッカーを心から楽しめる日常を取り戻すため。熊本の復活は、強い気持ちを胸に秘めた背番号「10」がけん引する。

文=平柳麻衣

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