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JFAが熱中症対策ガイドラインを制定…酷暑の試合開催に細かなルールを導入

2016.04.11

熱中症ガイドラインの説明を行うJFAの西澤和剛競技運営部長

 3月11日に行われた日本サッカー協会(JFA)理事会後の記者会見において、一つのガイドラインが発表された。ちょうど日本サッカー協会の次期会長選出に伴う「人事」が耳目を集めていただけに大きく取り上げられることはなかったが、その重要性は日本サッカー界どころかスポーツ界全体にとって小さいものではない。発表された資料には、「熱中症対策ガイドライン」とある。

 様々な資料を見せながら報道陣に対して「本当にいろいろな議論を重ねてきた結果」と説明を始めたのは、日本サッカー協会の西澤和剛競技運営部長。年を追うごとに過酷さを増している“日本の夏”の現状を単なる体感だけでなくデータに基づいて解説しつつ、他競技では夏場の熱中症によって命を失う例も出てきていることを紹介。「サッカーも他人事ではない」とした上で、重大な事故が起きる前に打つべき一手として「熱中症対策ガイドライン」を日本サッカー協会として策定したことを明らかにした。


 具体的にはまず夏場に行われるサッカー大会の開始時間や試合の実施に関する規制の指針となる。基準となるのは熱中症対策のために編み出されたWBGT(湿球黒球温度)という「気温、湿度、日射・輻射などの周辺熱環境」を総合して計測する“暑さ指数”。ガイドラインでは冒頭において、こう記す。

「大会/試合を開催しようとする期間の各会場(都市)における、過去5年間の時間毎のWBGTの平均値を算出し、その数値によって大会/試合スケジュールを設定する。必要に応じて、試合時間を調整して早朝や夜間に試合を行う、ピッチ数を増やす、大会期間を長くするなどの対策を講じる」

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 要するに、「過去のデータから暑くなりそうなことが分かっているのなら、大会のスケジュールを変更しなさい」という話で、WBGTが31度(気温だと、おおよそ35度前後)を超えることが想定される場合は、基本的に「試合を中止または延期する」とまで踏み込んだ。さらに、もしこの状況下で試合をする場合は、「屋根のない人工芝ピッチは原則として使用しない(天然芝や土と違って、非常に高温になるため)。会場に医師、看護師、BLS(一次救命処置)資格保持者のいずれかを常駐させる。クーラーがあるロッカールーム、医務室が設備された施設で試合を行う」といった要件を満たす必要があり、「現実的にこの条件を満たせるのはJリーグの試合くらい」(西澤部長)となった。

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 加えて、この条件下では連戦も禁止。育成年代でしばしば見られるダブルヘッダーは禁じられ、最低でも中1日の休養日を設定することも求められる。WBGTが28度以上の場合でも、以下の7つの要件を満たす必要がある。

1.ベンチを含む十分なスペースにテント等を設置し、日射を遮る。
2.ベンチ内でスポーツドリンクが飲める環境を整える。
3.各会場にWBGT計を備える。
4.審判員や運営スタッフ用、緊急対応用に、氷・スポーツドリンク・経口補水液を十分に準備する。
5.観戦者のために、飲料を購入できる環境(売店や自販機)を整える。
6.熱中症対応が可能な救急病院を準備する。特に夜間は宿直医による対応の可否を確認する。
7. Cooling Break(クーリングブレイク)または飲水タイムの準備をする。

 WBGT計についてはJFAが一括で大量に買い付けて安く販売する方針だが、意外にハードルが高いのが「2」。スタジアム管理者が芝生保護などを目的に水以外の飲料を禁じていることが多いが、「JFAとしても働きかけていきたい」(西澤部長)と改善に動く方針だ。また「7」のクーリングブレイクについては一昨年のFIFAワールドカップ・ブラジル大会でも設けられた3分休憩のこと。従来、日本の育成年代などで行われていた飲水タイムがタッチライン上での給水に限定されたのに対し、選手・審判員が日陰で休みながら水ではなくスポーツドリンク等を摂取でき、またアイスパックなどで体を冷やすことも認められた。単純に30秒から60秒とされていた飲水タイムに比べ、180秒と時間も長く確保される。

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 WBGTが28度を超える試合について、高校年代以上に関しては従来の飲水タイムでも可としつつも、中学年代以下についてはクーリングブレイクの実施を義務づける。8人制のような交代自由の場合でも同様で、フットサルなどの屋内競技に関しても同様の規制が適用されることとなった。

 問題はこの規制が本当に実現できるのか? という点だろう。西澤部長は「JFAの主催する(夏の)全国大会についてはすでに手をつけている」と話し、真夏の群馬で連戦を強いられる日本クラブユース連盟の大会についても協議を始める考えだ。一方で、「夏場にダブルヘッダーを含む最も過酷な日程が組まれている」と指摘した全国中学校体育大会の地区予選や、全国高等学校総合体育大会(インターハイ)のように、サッカー以外の競技とも絡んでくる大会を動かすのは容易ではない。実際に西澤部長のもとには「サッカーだけでは決められない」というリアクションもあったという。さらに離島からの遠征が必要になるなど、地域ごとの事情もある。

 ただ、JFAとしては「このガイドラインをスポーツ庁に持ち込んで、話をしていきたいと思っている」(西澤部長)という形で、サッカー界にとどまらず、スポーツ界全体を巻き込む形で広く議論を喚起していきたい考えだ。西澤部長は「いろいろな意見があるのは分かっている」とした上で、「子どもたちのためにまずやってみようということです」と断じた。

文=川端暁彦

By 川端暁彦

2013年までサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』で編集、記者を担当。現在はフリーランスとして活動中。

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