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作陽|接戦続きの予選を勝ち抜いたチームには、“らしさ”と“ひと味違う”が同居する【選手権出場校紹介】

2020.12.21

 選手が連動しながら、後方から丁寧にパスをつなぐスタイルが持ち味のチームだが、今年のスタイルはひと味違う。

「最終ラインの司令塔」と言えるDF山本修也(2年)と主将のMF奥龍太郎(3年)を中心に後ろでボールをつなぐのは例年と変わらない。だが、予選では相手が食いつくと前線へとロングパスを展開し、フィジカルの強さが際立つFW杉本翔(3年)がスペースへ抜け出し、力強くゴールに向かう場面が目立った。

 ケガで予選の出番は少なかったが、FW大森椋平(3年)という迫力十分なもう一人のストライカーもいる。対角線へのロングフィードから、MF西村颯人(2年)が繰り出す縦への突破も含め、攻撃の迫力は今までとは違い、野村雅之総監督も「今年は、ウチらしくないチーム」とニヤリと笑う。

 いつもと違うスタイルに目が行くが、要所で見せるテンポの速いパス回しによる崩しからは作陽らしさも感じる。ただ、今年は順風満帆とは言えない一年だった。新チームがスタートした当初は、野村総監督が「今年は苦しい」と話していた。3月以降はコロナ禍の影響で満足に活動できない時期が続いた。夏休み期間中も、一切県外に出られなかった。普段の練習で使用する学校外のグラウンドでも、対外試合が禁止された。思うように経験を積めなかったが、前向きに捉え、これまで思うようにできなかった個人の戦術理解を高める期間にあてた。酒井貴政監督は、「今、何をすべきか、頭の回転が速くなった。裏にボールを落としたほうがいいのか、つないだほうがいいのか、局面ごとの判断が良くなり、一歩目が速くなった」と口にする。

 準々決勝以降、接戦続きとなったゲーム展開も、選手の成長を促す意味では大きかった。近年強化を進める創志学園との準々決勝は、延長戦の末に1−0で勝利。準決勝では、プリンスリーグに所属する就実と対戦し、PKで勝利を引き寄せた。2連覇中だった岡山学芸館との決勝戦を含め、楽だったゲームは一つもない。3試合すべてが、決勝であってもおかしくない組み合わせだ。

「どのチームもそうだと思うけど、高校生なのでまだまだ発展途上。緊迫したゲームを繰り返すことによって、チャンスとピンチを見極める判断力や、得点をきっちり奪う技術やメンタルが伸びていく」。酒井監督の言葉どおり、予選を含めた一年間での成長は著しい。

 初戦で対戦する星稜も、縦に速い攻撃が持ち味のチームだ。いつもとは違う作陽のスタイルで激しい殴り合いを挑みながら、要所では作陽らしいテクニカルなスタイルで相手を翻弄できるかが勝負のカギを握る。どんなゲーム展開になるか、今から楽しみだ。

【KEY PLAYER】MF奥龍太郎

[写真]=森田将義


 初戦のもう一つの楽しみは、両チームの主将による激突だ。作陽のMF奥と星稜のFW千葉大護(3年)は、中学時代にともにガンバ大阪門真ジュニアユースでプレー。奥は中国地方、千葉は北信越の強豪へと進み、最終学年を迎えた今年、主将として選手権で激突するのは、不思議な縁を感じる。

 中学時代はセンターバックを務めていたこともあり、奥は守備力に長けた選手だ。高校に入ってからはボランチで起用される機会が多く、高さを生かした跳ね返しと、足の長さを生かしたボールハントで中盤のフィルター役として機能する。また、3列目からの大きな展開や縦パスも持ち味で、「非常に特徴のある選手ばかりで、個人で打開できる」と評するアタッカー陣の良さを引き出す存在でもある。攻守両面での貢献度から、まさに「大黒柱」と言っていい選手だ。

 酒井貴政監督が、「声を出してチームを引っ張ってくれている」と評するとおり、メンタル面での貢献も大きい。特に夏以降は、「インターハイがなくなってしまったので、最後の選手権に全身全霊を懸けようと思った。最後の意地を見せようと思った」という。

「日頃の生活がサッカーにつながっている。ちょっとしたところがプレーに出る」という指揮官の教えを実行するため、これまでなかった部内ルールを作成し、彼が中心になって私生活を見直した。そうした積み重ねの成果が、3年ぶりの選手権につながったのは間違いない。全国でもそうした日常の積み重ねが、結果やプレーに生きるはずだ。

取材・文=森田将義

By 森田将義

育成年代を中心に取材を続けるサッカーライター

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