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名門・秋商の“10番”を託された1年生…大きな財産を胸に原田悠翔は次なる戦いへ

2019.01.05

1年生ながら名門の“10番”を背負い攻撃を牽引した原田悠翔 [写真]=梅月智史

 選手権出場最多の44回を誇る伝統校・秋田商業。左胸に漢字で『秋商』と刻まれた真紅のユニフォームを身に纏う選手たちの中で、“10番”を託されたのは、1年生のMF原田悠翔だった。

「伝統の番号を自分がもらえて、非常に幸運というか、光栄なことだと思います。重みはあります。素晴らしい舞台で10番を背負えたことは喜ばしいことだと思っています」

 1年生らしからぬ大人の受け答えをする原田は、地元・秋田で生まれ育ち、中学時代は県内の強豪・FCあきたASPRIDEでプレー。県外の強豪校に進む選択肢もあったが、「選手権に出たかったし、FCあきたから多くの先輩や仲間が進んだので、僕もここに決めました」と、地元に残ることを決意した。

 中学までは左サイドハーフだった。縦へのドリブル突破とカットインからのシュートを武器としていた。高校に入ると小林克監督が彼の持つスケール感と、視野の広さ、そしてキックセンスを評価して、背番号10を与え、ボランチへコンバートを敢行した。

「ボランチになってから、主に攻撃に関わることが凄く成長をしたと思います。特にキックは成長をした実感があります」と語ったように、180度の視野から360度の視野に切り替わり、見える世界が広がった。チームの攻撃の核である1トップの長谷川悠と、右サイドの鈴木宝、常にこの2人を視野に入れてのプレーを求められた。また、守備から攻撃に切り替わった際、精度の高い長短のパスが攻撃の重要なポイントとなったことで、彼のキックはさらに磨かれた。

 今大会、1年生コンダクターとして破壊力ある攻撃を巧みに操り、初戦で強豪・四日市中央工を2-0で下した。14年ぶりの初戦突破を果たすと、2回戦でプレミアイーストに所属する富山第一、さらに3回戦で龍谷を撃破し、ベスト8まで駒を進めた。

 そして、準々決勝で流通経済大柏と対戦した。これまでの相手よりワンランク上の強烈なプレスの前に、原田は苦しんだ。チームも開始早々の6分にロングスローから失点し、苦しい立ち上がりとなった。それでも、原田はボールの収まりどころとして、ハイテンポになりかけた試合のリズムを落ち着かせた。すると、27分にはショートカウンターから縦パスを受け、鮮やかなファーストタッチからシュートを放った。しかし、このシュートは流通経済大柏CB関川郁万のファインブロックに阻まれてしまった。

 その後、一進一退の攻防が続く中で、原田はプレスに潰される場面もあったが、常に全体を見ながらポジション取りを工夫し続けた。80分には同じ1年生の藤井海和(流通経済大柏)との球際の競り合いを制し、鮮やかなダブルタッチから、裏に抜け出した長谷川に右足の浮き球の縦パスを供給した。結局、ゴールには結びつかなかったが、最後まで集中力を切らさず、要所で効果的なプレーを披露してみせた。チームの快進撃は準々決勝で幕を閉じたが、彼にとってこの大会は大きな財産となったことは間違いない。

「正直、『これが全国トップレベルのプレッシャーなのか』と思いました。やっぱり全然違った。でも何も出来なかった訳でもないので、このプレッシャーを忘れずに、この中でも自分がいつも通りのプレーが出来るようになれば、自分の将来においても良い方向に行くと思います」(原田)

 彼の言う“将来”、それは「プロ入り」を意味する。高校3年間、努力を積み重ねてプロになるという明確な意思があるからこそ、1年生とは思えないほど彼の受け答えは大人で、この大会に懸ける強い思いも感じさせた。

「この大会は自分の将来にとって、とても重要な大会だと思っていたので、ベスト8まで勝ち上がって、こんな素晴らしい相手と出来て、本当に重要な経験になった。今日のプレッシャーを次は当たり前のように感じて、もっと判断を早くプレーしたいと思います。来年は自分がチームを引っ張って、今回の記録を来年の代で超えて行けるようにしたい」

 伝統の真紅の10番は、さらに大きな価値を生み出して行く。この大会はその序章に過ぎないだろう。

取材・文=安藤隆人

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