2016.12.12

オランダナショナルチーム専属アナリスト・白井裕之氏が語る“サッカー分析”「ビデオ分析がアヤックスでの評価を上げた」/第3回

サッカーキング編集部

インタビュー・文=小松春生

 ヨハン・クライフやファンバステンといった象徴的な選手が礎を築き、今もなお脈々と受け継がれているものこそが、オランダサッカーである。彼らはいつの時代でも唯一絶対の哲学を世界に示し続け、そして人々をフットボールの虜にしている。

 現在、「アヤックス育成アカデミーユース」、「オランダ代表U-13、U-14、U-15カテゴリー」という2つの職場で“専属アナリスト”として活動する白井裕之氏も、オランダサッカーに魅了された一人である。白井氏は少年時代、地元・愛知県内のクラブチームでプレーしながら、名門・アヤックスのサッカーに衝撃を受け、オランダへの思いを募らせていく。そして18歳で指導キャリアをスタートすると、その道をさらに突き進んで行くために、大学卒業後の24歳で渡蘭した。

 そこで気付かされたのは、オランダがオランダたるゆえんである。現場で指導経験を重ねた後、アヤックスで分析を担当する“アナリスト”という専門職に出会い、「サッカーを分析し、サッカーの内容を指導できる」という、確立された“サッカーの仕事”の価値を思い知る。

 「サッカー分析」の前提となるのは、指導者が扱う“用語”の意味と言語が統一され、全員がピッチ上で起きる事象に対して共通認識を描けること。指導者のオリジナリティーの部分である「戦術」とは、そうした分析の土台があって初めて築いていけるものなのである。

 これは、なぜオランダが世界的なスタープレーヤーや名チームを生み出すことができるのか──という問いの答えの一つであり、非常に重要な考え方に違いない。白井氏は、この分析こそが、現在の日本サッカーにおいて絶対的に足りていないものだと痛感している。

 オランダサッカー協会(KNVB)で推奨される分析理論をベースに、より現場で共有できるものへと体系化させた白井氏独自の枠組みが、「The Soccer Analytics(ザ・サッカーアナリティクス)」だが、これは“新理論”ということではなく、オランダ人に学び、日本人の指導者が共有しておくべき、“基本理論”なのだという。

 指導者のみならず、サッカーに携わるすべての人に触れてもらいたいインタビューの第3回は、アヤックスで専属アナリストの座を射止めた白井氏の、ビデオ分析の活用に迫っていく。

ビデオ分析からゲームプランを作っていく


──アヤックスでは最初、アマチュアチームのスタッフとして入られたのでしょうか。

白井裕之 そもそも、「アマチュアチーム」が聞き慣れないかもしれないですが、これはファーストチーム(トップチーム)、サテライトというプロフェッショナルの下にあるチームです。アヤックスでは3軍に相当し、その中にも1軍、2軍があるので、全体で見ると4軍まであるようなイメージです。これはアカデミーを経て19歳でトップやサテライトに上がれない選手の受け皿であり、他クラブのトップレベルの選手も入ってきます。僕はそこで、最初に「ビデオアナリスト」として入りました。

──なぜ指導者ではなく、分析の担当だったのでしょうか?

白井裕之 バルト・ローヒスとともに面接に行ったのですが、「日本人をいきなりコーチスタッフに入れるのは難しい」と難色を示されたんです。当時、アヤックスでもビデオ分析が始まっていた頃で、そこでバルトが、「ヒロ、まずはアナリストとして入れよ」と言うわけです。「お前は日本人の顔で、ITに強そうだから」と(笑)。その頃は、分析はITから来る人がほとんどだったんですよね。「コーチは少し待っておけ」と言われて多少迷いましたが、アヤックスに来られるチャンスは他では考えられないですから、まずはやってみようと思って始めました。


──では、そもそも「ビデオ分析」とは具体的に何をするものなのでしょうか?

白井裕之 分析の世界も、現代では3つに大別できます。一つは「ゲーム分析」という、試合を生で、もしくはテレビなどで見て分析するもの。もう一つが「ビデオ分析」であり、映像を使ったもの。最後は「データ分析」で、GPSやトラッキングデータなどを使うものです。僕の最初の役目は、このうちのゲーム分析とビデオ分析でした。具体的には、週末の対戦相手の分析ですが、映像を集めて特徴をすべて出して、最終的にトレーニングに起こして、どのように戦うのかというプランを作るところまでの作業です。

──映像を基にして、そこまでやるのですね。

白井裕之 基本的には映像をずっと見て、選手の特徴の他に、攻撃、守備、攻守の切り替え、ボールを取った瞬間と取られた瞬間という4つの局面ごとに、特徴的なポイントを抜き出してコーチスタッフに見せて、続いてトレーニングの前に選手に見せるという流れです。でもその作業をしている時に、例えば「攻撃のビルドアップ」といっても、どこを切り取るべきかが分からなかったんです。「ゲーム分析」は、最終的に書面で伝えれば良いので、だいたい攻撃についての特徴を書くだけなんです。でも「ビデオ分析」は90分間の映像を抜き出すので、膨大なんです。オランダでは「ビルドアップ」は、「ボールを持っている時」、「最終的にシュートチャンスを作り出した時」ということで、つまり攻撃とは「ボールを持っていること」なのですが、それを「ビルドアップ」と「得点」の2つの局面に分けます。ですが、ビルドアップの出発はGKのキックで終着点はシュートチャンスを作り出した時だと考えると、ものすごく内容が濃くて、ものすごく距離が長いんです。試合中に30回も40回もやっていることなので、それをまとめて選手に伝えることは無理だと感じました。当時、ビデオ分析の人はITに強い人ということで、僕のようなコーチの背景がある人は少なかったので、彼らは無理だと思いながらもひたすら編集をしていました。でもこのままでは選手に伝わらないし、監督となっていたバルトを納得させられる内容にできないと考えて、そうやって導き出した枠組みが、「The Soccer Analytics(ザ・サッカーアナリティクス)」へとつながっていきました。

──外国人を相手にするという意味でも、納得させられるだけの理論を付けていくわけですね。

白井裕之 これは良いよねというレベルではなく、見た人が得をする、納得するところに進むには、新しい独自の枠組みを作らないといけないですし、結局のところ、それがないと一番困るのは自分なんです。土曜日に試合が終わり、月曜日に結論を持っていくためには、土日にフリーになれません。ただし、僕には家族もいますから、ずっと映像を見ていたらありえないことになります(苦笑)。それで考えて、システマチックにしたら作業が2時間くらいで終わるので、プライベートが確保できますよね(笑)。

──実に理にかなっていますね(笑)。その後、専属アナリストになっていきます。

白井裕之 アヤックスでは最終的にコーチにもなれて、名前の入ったジャージを着て、晴れてフィールドにも立って、トレーニングとビデオ分析をしていました。アマチュアのトレーニングは基本的には月、火、木の20時から練習をして、土曜日に試合というサイクルですが、日中はトップ、サテライト、アカデミーのスタッフがクラブにいるので、「無償で良いからトップやサテライトでビデオ分析を勉強させてください」とずっとお願いしていました。それでいろんなところで話が出てきて、フレキシブルにいろんなカテゴリーのお手伝いをするようになりました。そこで仕事を評価してもらって、アヤックスのU-17、U-18、U-19のユースカテゴリーのスタッフに来ないかと声を掛けてもらって、アヤックスに来て2年半でアマチュアチームから異動しました。

「オランダサッカーへの憧憬」/第1回
「オランダに学ぶ“サッカー分析”」/第2回

オランダナショナルチーム専属分析アナリスト
白井裕之(しらい ひろゆき)

1977年愛知県生まれ。高校までサッカーを続け、18歳から指導者の道を歩み始める。24歳でオランダに渡り、複数のアマチュアクラブの育成年代のコーチ、監督を経験。卓越したトレーニングメソッドを評価され、2011/2012シーズンからAFCアヤックスのアマチュアチームへ。ゲーム・ビデオ分析担当を任された後、2013/2014シーズンからアヤックス育成アカデミーのユース年代専属アナリストに就任した。オランダサッカー協会(KNVB)の分析メソッドを、より現場で共有できるものへと体系化させた「The Soccer Analytics(ザ・サッカーアナリティクス)」は日本の多くの指導者も実践。2016年10月からオランダ代表ナショナルチームU-13、U-14、U-15カテゴリーの専属アナリストに就くなど、コーチングと同様、指導者のバックボーンを持つ分析力に絶大な信頼が集まる。KNVB指導者ライセンスTrainer/coach 3,2(UEFA C,B)を取得している。

 

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