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日本のサッカー選手代理人が明かす②「エージェント契約の選定基準は、“世界のトップレベルで通用する選手かどうか”」

2016.05.17

インタビュー・文・写真=波多野友子

株式会社ジェブエンターテイメントの田邊伸明氏は、中澤佑二、中田浩二、山瀬功治、松井大輔の移籍を手掛けてきた。2001年に稲本潤一をアーセナルに移籍させたことでも知られる。日本サッカー界屈指の代理人、田邊氏の考える世界のトップレベルで通用する選手像とは? 稲本の移籍にまつわる裏話とともに、代理人としての仕事の哲学を語ってもらった。

――94年にジェブエンターテイメントを立ち上げられました。完全にマネジメント業務に一本化されるまでには、どんな経緯があったのでしょうか。

田邊伸明 当時はジエブの役員として大会運営に携わりながら、子会社ジェブエンターテイメントで北澤選手のマネジメントを請け負っていました。ただ、私自身、当時の日本サッカーのスポンサーシップのあり方に疑問を感じているところがありました。たとえばキリンカップでも、はたして今この国と対戦させることが日本代表の強化に繋がるのか? 選手のためになるのか? そんな想いが強くなっていました。そこで1999年に代理人資格を取得していたこともあり、2002年の日韓ワールドカップを節目に運営の仕事をやめて、ジェブエンターテイメントでマネジメント一本に絞ってやっていこうと決意したんです。

――99年、代理人として本格的なキャリアをスタートされました。選手との契約はスムーズに運んだのでしょうか。

田邊伸明 まず前提として、選手全員がエージェントを必要とするわけではないんです。私がFIFA公認の資格を取得した99年、まだ10人くらいしかいなかったエージェントに求められたのは、選手を海外に移籍させられる能力でした。選手も当然それを代理人に求めていた。でも私には、北澤選手との関係を通してつくり上げた理想のエージェント像があって、移籍交渉自体が目的ではなかったんです。そのため、最初はスムーズに移籍交渉をクリアする手段を自分なりに考えました。国内や海外リーグ、クラブやエージェントとの接点をきっかけに、まさに手探り状態でした。

――その努力が実り、稲本選手を筆頭に有名選手の海外移籍を次々に成功させられたのですね。

田邊伸明 2001年に稲本選手が海外へ行きたいと相談に来てくれ、無事アーセナルへの移籍が叶いました。その後、中澤佑二選手を東京ヴェルディから横浜F・マリノスへ、中田浩二選手を鹿島アントラーズからオリンピック・マルセイユへ、山瀬功治選手を浦和レッズから横浜F・マリノスへ移籍しました。松井大輔選手を京都パープルサンガからル・マンへ移籍させられたのも大きな仕事でしたね。

――契約選手は、田邊さんのほうからアプローチするのですか? その際の選定基準とはなんでしょうか。

田邊伸明 基本的にはこちらから行くスタンスですね。選定基準は世界のトップレベルでプレーができそうかどうか。僕の考えるトップレベルとは、イングランドのプレミアリーグです。これまでの経験を通して言えるのは、J1で通用する選手は海外に行っても通用するということ。何が足りないのかというと、技術というよりメンタル的な下地です。たとえば中田浩二選手は非常に社交的で、適応能力が高いタイプでしたね。彼の父親が転勤族だったので、それも影響しているのかもしれません。契約時点で下地がなくても、メンタリティさえ改善すればすごい選手に化けるだろう、という視点で選ぶこともあります。クラブのほうから、問題のある選手を叩きなおしてほしいという要請も時々ありますね。

――反対に、田邊さんのほうから契約を断るケースもあるのでしょうか?

田邊伸明 性格的な部分で難しいと感じた場合は、断ることもあります。判断基準は、人の話を素直に受け入れられるかどうか。そのうえで、自分の力で咀嚼できるかどうかを見ますね。それから技術面。これは時代によって左右されるのですが、世界のニーズに合う技術を持っているかどうかも判断基準になり得ます。

――具体的にはどのようなことでしょうか。

田邊伸明 日本サッカーが成長しているのと同時に、世界のサッカーも成長しているので、選手に求められる特徴は変化しています。現在では多くのポジションの選手が海外で活躍していますが、やはり日本人選手のストロングポイントは中盤にあると思います。香川選手に代表されるように、中盤で自分がボールを前に運べる技術が最も重要ではないでしょうか。

――シビアな選択眼が必要になってきますね。お仕事の核のひとつ、移籍交渉についてうかがいます。これまでもっともタフだった案件についてお聞かせいただけますでしょうか。

田邊伸明 そうですね……2006年、稲本潤一選手のWBAからガラタサライへの移籍でしょうか。移籍期間終了の前日にオファーが来たんです。たまたまパリにいた私はトルコへ飛び移籍交渉を行ったのですが、とにかく時間が足りなかった。トルコリーグの規約規定を把握する時間もないまま、契約書にサインを求められましたね。

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株式会社ジェブエンターテイメント
代表取締役 田邊伸明

大学卒業後、スポーツイベント会社に就職。1991年からサッカー選手のマネジメント業務を開始。
また、ワールドスポーツプラザ「カンピオーネ」、「ワールドスポーツカフェ」などのプロデュース、サッカービデオ/DVDの日本語版監修などサッカービジネス全般のコンサルティング業務なども手掛ける。
1999年日本サッカー協会のFIFA(国際サッカー連盟)選手代理人試験を受験し、2000年FIFAより選手代理人ライセンスの発行を受ける。
主な契約選手は稲本潤一(コンサドーレ札幌)、大久保嘉人(川崎フロンターレ)、平山相太(FC東京)、槙野智章(浦和レッズ)、浅野拓磨(サンフレッチェ広島)など。

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