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『FOOT×BRAIN』プロデューサーが語る「番組の裏側とメディアで働くことについて」/後編

2016.04.12

インタビュー・文=小松春生 写真=田口涼

―――ここからは現在放送中の番組『FOOT×BRAIN』についてお聞かせください。サッカー番組としてオリジナリティのある番組ですが、制作にあたり、日頃考えていることや心がけていることはありますか?

加固敏彦 サッカーの情報だけでなく、あらゆるものを見ています。『FOOT×BRAIN』は、まったくサッカーとは関係ない分野の方がゲストになることもあるので、インターネットは当然ですが、世の中ですごいと言われている人を特集するような雑誌とかは、「この人に来てもらって、番組で話してもらったら成立するかな」みたいなことを常に考えながら見ています。ただ、情報をひたすら集めていますが、それが現実的に企画になるというものは1割もないと思います。たくさん情報を探してピックしていれば、オンエアへの可能性は高まりますが、そういう過程の中で一度捨ててしまった場合、そのアイデアはなかなか自分の中であがってこない。番組会議などで企画を常にスタッフから募集しているのですが、その中に出てくるもので「この間自分の中でこれ捨てたな」というのはありますね(笑)。

―――「10」の情報を拾えば「1」ですが、「100」の情報を拾えば「10」は企画になる可能性がありますね。

加固敏彦 そうです。パイを大きくしておかないといけません。日々そういうことを考えていますね。だから、プライベートと仕事の境目はないです。

―――メディアで働かれる方は、オンとオフの区別がないと言う場合が多いです。

加固敏彦 ない方がいいと思っています。そう思わないと大変ですしね(笑)。

―――番組を5年間やってきて、視聴者の方の反応はどうですか?

加固敏彦 回によってバラバラですね。基本的には全部70点か80点ぐらいの出来にならないと世に出したくないんです。オンエアしているものに関しては、そもそもそこに至るまでに多くの目を通してから放送までたどりついているので、全てそれなりの出来にはなっていると思っていますし、そうでないとオンエアできないと思っています。

 番組は視聴者の方の反応が全てなので、制作者側がいいと思っていても、つまらないと言われればそれが全てだと思います。『FOOT×BRAIN』に関して言うと、すごくコアな話や、サッカーを斜めから切るような企画の場合、いい反応を得られることが多いですね。でも数字は出ないですね(笑)。

 おそらくそういう回は“マス向け”じゃないんだと思うんです。だから視聴率とは常にせめぎ合いです。ストレートな内容の回は「『FOOT×BRAIN』っぽくない」というご意見をいただく場合もあります。だから視聴率と評価は、あまりリンクしないです。
視聴率は、なんでもかんでも取ればいいとは思わないですけど、視聴率が高いということは多くの方に見てもらっているということなので、テレビはそこを捨ててはダメだと思っています。

―――大変だったことはありますか?

加固敏彦 番組放送開始の時ですね。初回放送の収録が確か2011年の3月24日だったんです(初回放送は2011年4月2日)。ご存知の通り2011年3月11日に東日本大震災がありました。第2回の放送回くらいまではラインナップや中身がほとんど決まっていて、いろいろなことが詰めの段階だった中で、震災が起きました。レギュラー番組としてすでに続いている状態ではなく、これから新番組をやるという時だったので、いろいろと内容を検討しなければならなくなりました。『FOOT×BRAIN』は多少アカデミックな番組だとしても、基本はバラエティというかエンターテインメントがないといけない番組なので、全てを考え直さないといけなくなりました。
 初回のゲストが中田英寿さんで、その時にご本人も「この状況で何を話せばいいのか」、「(出演するのが)自分でいいのか」というようなことをおっしゃっていました。そういう時期に始まったのも、この番組の全てのような気がします。Jリーグも中断しましたし、サッカーをやろうという空気ではなかった。それなのにサッカー番組を始めるということだったので、本当に何をやっていいのかと悩みました。それでも1週間や2週間でいろいろなことを変えなければいけなかったので、それが大変だった記憶がありますね。

―――当時、サッカー界は支援や復興への活動にかなり早く動き始めました。

加固敏彦 元気を出してもらおうという動きをサッカー界はしていたような記憶がありますね。おこがましいですが、番組もその方向で制作しました。

―――今後やってみたい企画はありますか?

加固敏彦 かなりやりきっている感覚はあります。4月からは番組が6年目に入り、放送回は250回を超えました。とは言いながら、ちょっと切り口を変えたり、今後来ていただけるゲストはまだまだいるんじゃないか、など考えると、まだまだ企画案はいくらでもあると思います。ネタ切れとは思っていないですし、もっとできると思っています。

 もともとの番組の目標としてW杯期間中の放送がありましたが、ブラジル大会を経験して、「次は何かな」と。その前のロンドン五輪やなでしこジャパンのW杯優勝もそうですし、サッカー界の大きなイベントとリンクしたものは全てやってきました。これからはレッスン系の企画ですかね。番組には元日本代表の解説者の方がたくさんいるので、真剣にドリブルやフリーキックやディフェンスのレクチャーをしてもらうのはアリかなと思いますね。

―――また新しい世界に飛び込んでいこうと?

加固敏彦 常に考えなければいけないので、それはあります。

―――最後に、メディア業界を目指している方に向けて、加固さんがお考えになる大事なことは何ですか?

加固敏彦 自分の経験で言うと、「本当にしたいのか?」というところだけです。知識は会社に入って1カ月、2カ月教えてもらえれば、学生時代のそれを簡単に越えられると思います。そうなると、本当にやりたいかどうかが大事になる。「かなり大変なんだ」ということは先に言います。やる気があっても、「ここまで忙しいと思っていなかった」とか、「ここまで大変だと聞いてなかった」となってしまう。極論を言えば「それでもやりたいですか」と。それでもやりたいと言えば、経験や知識のなさはあまり関係ないと思っています。サッカーの試合であれば、現場に行って、見ることを1年続ければ、それなりになると僕は信じています。確かにマスコミは華やかで憧れがあるかもしれません。それだけでは来ないほうがいいということを常に言っています。「そうなんですか。じゃあやめます」というのであれば、そのほうが幸せだと思います。

―――結局は自分が苦しい思いをするということですね。

加固敏彦 セミナーを受けたり、いろいろな話を聞いておくというのはアリだと思います。必要以上に「すごくいい世界ですよ」というのを、こういう時に言うつもりは全くないんですよ。ただ、そこを頑張って越えると、「相当いい仕事です」と。その場にいられるだけで、死ぬまで語れるようなエピソードが生まれてくると思うので。本当にやりたいかどうかだけ自分に問いながら来てほしいですね。

『FOOT×BRAIN』プロデューサーが語る「学生時代の留学経験とテレビ東京 スポーツ局入社までの経緯」/前編
『FOOT×BRAIN』プロデューサーが語る「日韓W杯でのチーフディレクター経験とアメリカ駐在で初めての野球、さらに松井秀喜選手を担当した話」/中編

株式会社テレビ東京
スポーツ局 スポーツ番組部
加固敏彦(かこ としひこ)

1974年7月19日生まれ、東京都出身。
1997年株式会社テレビ東京入社。スポーツ局に配属され、スポーツニュースの記者、スポーツ中継のディレクターとして活躍。
2002年日韓W杯ではテレビ東京W杯放送の総合チーフ、2004年アテネ・2008年北京五輪ではディレクターとして現地取材を務める。
2005~07年はニューヨーク支局に勤務し、メジャーリーグを担当。
2011年4月より「FOOT×BRAIN」のプロデューサーを務め、入社以来19年間スポーツ局一筋。

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