2013.01.10

サッカー本大賞2012が決定…木村元彦の「争うは本意ならねど」

 1月4日(金)「サッカークラスタ大新年会-新春八丁堀サッカーナイト-」にて、「日本サッカー本大賞2012」が発表された。

「日本サッカー本大賞」は毎年数多く出版されているサッカー関連書籍の中から特に優れたものを表彰する賞で、今回は2011年12月から2012年11月に発売されたサッカー関連書籍が対象となっている。ここでは審査員である岡田康宏(サポティスタ)の選評も含め、今回表彰された4冊(1位から3位までと番外が1冊)を紹介しよう。

3位 FCバルセロナの人材獲得術と育成メソッドのすべて|マルティ・ペラルナウ (著), 浜田満 (監修, 翻訳) カンゼン (2012/12/14)

FCバルセロナの人材獲得術と育成メソッドのすべて チャビのクローンを生み出すことは可能なのか

「僕は、日本がサッカーで世界のリーダー的存在となれる国の一つになることが、政治的にも経済的にも世界的な影響力の低下が顕著な日本の閉塞感に風穴をあける一つの方法だと信じている」

本書はFCバルセロナの人材獲得術と育成メソッドについて解説された書籍を浜田満氏が翻訳したもの。原書の内容に加え浜田さんによる「日本人がバルサでプレーするということ」の章が付け加えられている。訳者の浜田さんは日本でのFCバルセロナ・ソシオ会員の代理店をつとめ、10歳でバルサのカンテラに入団した久保建英くんのコーディネートなども手がけている人物。グラウンドレベルだけではみえてこないバルサの強さの背景が見えてくる一冊であり、日本サッカーがさらに上を目指していいくために、バルサから何を学び参考にするべきががよく分かる一冊。

2位 人の心に火をつける|松本育夫 (著) カンゼン (2012/5/22)

人の心に火をつける ~どんな環境でも「人」を伸ばし、結果を出すチームマネジメント~

「サッカーチームの監督と企業の経営者に求められる能力は共通項が多い。理論、知識、哲学、話術、分析力、それに人を育てて、集団を束ねることの重要性も同じだ。仮にサッカーの監督が経営学を習得すれば、企業のトップとして立派に通用し、成果を挙げることができるに違いない。これが私の持論である」

元日本代表選手で70年代から指導者、フロントスタッフとして様々なカテゴリー、役職を歴任してきた松本育夫氏のマネジメント論。東洋工業のコーチ、監督をはじめ、U-19日本代表監督、京都GM、川崎監督、社長、地球環境高校監督、鳥栖監督、専務・GM、栃木シニアアドバイザーなどをつとめ、地球環境高校では就任1年目で全国大会出場を果たし、鳥栖ではJ1昇格の下地を作った。上手く行ったこと、行かなかったことを含め、数多の経験から紡ぎだされた言葉にはそれだけの説得力がある。

番外 武器としての交渉思考|瀧本哲史 (著) 講談社 (2012/6/26)

武器としての交渉思考 (星海社新書)

「自衛隊やJリーグの変化とアカデミズムの世界の変化、双方に共通するのが、「上から与えられる”正解”ではなく、自分たちで”答え”を導き出す」という姿勢への転換です」

京大で教鞭をとる投資家・瀧本哲史氏の著書。著者はJクラブに呼ばれ、ユースの選手にディベートについて教えた経験があるという。本書は交渉術についての解説書であり、サッカーそのものと直接関係はないが、サッカーというゲームの本質は「駆け引き」にあり、そういう意味では本書で解説されている交渉術と通じるものがある。サッカーを観る際に、選手の技術やチームの戦術はサッカーという競技にある程度詳しくないとわからない部分もあるが、勝負の駆け引きというのは、あらゆるゲームやビジネスにおいて共通するおもしろさであり、サッカーのその部分に興味のある人は、読んで間違いなく勉強になる一冊。

1位 争うは本意ならねど|木村元彦 (著) 集英社インターナショナル (2011/12/15)

争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール

「脱稿して改めて思う。我那覇はJリーグと闘ったのではない。Jリーグを救ったのである。それも他の人々を巻き添えにしたくないがために敢えて黙して孤独を抱え込み、たったひとりで何千万円もの私財を投じて」

「オシムの言葉」や「大分トリニータの15年 社長・溝畑宏の天国の地獄」などの著者である木村元彦さんが我那覇和樹選手のドーピング冤罪事件について追ったドキュメンタリー。内容的に素晴らしいのはもちろんだが、木村さんのすごいところは、この話を前向きな話にまとめているところ。本件は権力者とその取り巻きの保身のために将来のある若者が無実の罪を着せられ、そのキャリアを台無しにされるという、本当に酷い話なのだけど、それを木村さんは、我那覇の裁判での勝利によって、Jリーグやスポーツドクター、その他の競技の選手たちも含め、多くの人たちが救われたこと、そちらの側に焦点を当ててまとめることで、全体を前向きな話として捉え直している。そうした読ませ方の上手さが、木村さんの「作家」としての力であり、それが彼を突出した存在にしているのだと思う。