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『長くマレーシアでプレーしたい。夢をかなえるチャンスに恵まれ幸せ』/橋本早十(DRBハイコム)

2015.05.26

 駒澤大学在学中の2003年に特別指定選手となって以来、大宮アルディージャ一筋でプレーしてきた橋本早十。選手会長なども務め、サポーターから愛された橋本は2013年に契約満了とともに退団。海外挑戦を決意し、タイのチョンブリFCでプレー。今年からマレーシアに新天地を求め、2部リーグのDRBハイコムでプレーを続けている。マレーシアへ移籍することになった経緯や、東南アジアでのサッカーの現状、自身の将来などについて聞いた。

●インタビュー/写真=郡司聡(Satoshi GUNJI)

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サッカーの環境は酷いけど、生活環境は良い

―――まずマレーシア2部・DRBハイコムへの加入の経緯を教えてください。

橋本早十(以下、橋本) 大宮で一緒にプレーしていた田中テル(輝和)が今年からDRBハイコムでプレーしていて、マレーシアは移籍先の国の候補地の一つだったから、テルと定期的に連絡を取っていました。ハイコムは外国籍選手枠が空いていると、テルからずっと聞いていたし、テルが相談に乗ってくれている中で『早めにマレーシアへ来て、気候やチームメートに慣れておくのも一つの手だし、クラブは3月に新外国籍選手を決めたいようだから、早めに来たらどうですか?』と言われていたので、思い切ってチャレンジしようと3月頭にマレーシアへ向かったんです。結局移籍ウインドーが開くのは4月頭からだったので、1カ月前から練習に参加することになりました。僕に限らず、新しく獲った選手は4月にウインドーが開いたときから試合で使いたいという話でした。

―――テストも相当ハードだったようですね。

橋本 今までで一番ハードでしたね。マレーシアに行った当初は雨が降って、1週目はほとんどボールを使えませんでした。2週目はトレーニングだけだったけど、監督にアピールしなきゃと頑張りました。逆に3週目には試合が多くて、金曜日に試合をやって日曜にも試合をやるなど、中1日の試合は普通にあったし、連日の試合もありました。僕は90分の半分しか出なかったこともあったけど、基本的にはほとんどの試合に出ていたし(苦笑)、途中からコンディションが落ちてきたんです。そんな状況でも次々と新外国籍選手の候補がフレッシュな状態でやってくるので、テルがチーム関係者に『それはフェアじゃないんじゃないか』と話してくれたりしてくれました。マレーシアはそんなにレベルが高くないので、いい歳でもあったけど、なんとか踏ん張ってハードな日程にも耐えて無事契約を勝ち獲ることができました。途中には『(テストの合否を)明日決める』とチーム関係者が言っておきながら、『もう1試合見たい』と言い出したりもしたんですけどね。でもそういうことはタイで免疫ができていたので、そこは東南アジアだなと割り切れたかな。

―――マレーシアと日本のサッカーのレベルの差はいかがですか?

橋本 もちろんレベルは低いです。タイもそうだけど、サッカーに対する知識がないし、本当に個々で戦っている感じで、サッカーの質がまったく違います。前線に蹴って、前の外国籍選手がなんとかするサッカーだし、守備ではセンターバックの外国籍選手がなんとかするという感じ。外国籍選手頼りのため、助っ人としてはやりがいがあるけど、組織立っていないので、組織的なサッカーがたまに恋しくなることもありますよ。ただマレーシアはまだまだ発展途上だけど、東南アジアも特にタイは日本人監督を招へいするなど、徐々に組織的なサッカーを取り入れてきていますね。

―――練習環境はいかがですか?

橋本 環境は酷いです。グラウンドはカチカチだし、デコボコ。練習場にシャワーはないので、ホースの水で体を洗っています。バーっと浴びて、車の脇で着替えて帰るみたいな(笑)。でも気候が暖かいので、水を浴びるほうが気持ち良かったりしますね。みんなで遊びながら水を掛け合ったりしています。チームにもよると思うけど、僕の所属しているチームの練習環境は良くないです。でも逆に生活環境は良い。良いところに住まわせてもらっていますから。

橋本早十

試合前日にスポンサーの工場見学をしたけど、拘束時間が長い(笑)

―――待遇のお話が出ましたが、日本人選手に対する待遇は?

橋本 お金持ちのオーナーが、お金持ちの娯楽としてサッカークラブを所有しているし、向こうは経済的に潤っているから、J2やJ3でやっているよりはサラリーは良いと思います。住居はクラブが用意してくれているし、家賃もクラブ持ち。タイもそうだったけど、東南アジアのクラブは住居を手配してくれるケースが多いです。前に所属していたチョンブリはなかったし、狭かったけど、マレーシアではプールとジム付きの家。広さは3LDぐらいで一人暮らしだから逆に寂しい。2部屋も余っているし(笑)。

―――アウェイの移動はいかがですか?

橋本 基本的にはバス移動ですね。クアラルンプールをホームタウンとするチームが多くて、アウェイでも近隣が多い。移動に7時間かかった5月1日のアウェイゲームが今までで一番遠いところで、もっと遠いところは飛行機で行くケースもあると聞いています。アウェイは基本的に前泊で、7時間かかったアウェイは試合の2日前に現地へ入りました。早めに現地に入ってトレーニングをしたし、そこはきちんとしていましたよ。でも普通に行けば4時間ぐらいで着く距離なのに、『何回休むんだよ』というぐらい、頻繁にティータイムがありましたね。1時間に1回は休むぐらいのペースかな。あとは『プレーをしに行くから』とお祈りみたいなこともあったし、途中でお祈りかなと思って行ってみたら、みんながコーヒーを飲んでいたこともあって(笑)。『さっき飲んだばかりやん!』と突っ込みたくなりました(笑)。ティータイムはパーキングエリアみたいなところで取ります。

あとはその試合の前日には工場見学もしたし、チームのキャプテンの家に招待されました。結構拘束時間が長かったですよ(苦笑)。ハイコムは自動車部品の会社で、試合前日に見学をした工場は、ウチのスポンサーの工場で、DRBホンダの敷地内の工場を見学しました。おもてなしを受けて、15時ぐらいになったら、『さっきランチをとったのにまた食べるの?』というぐらいの量の食事が出てきたんです(笑)。ちなみに対戦相手のスカウティングは、チョンブリではやったけど、ハイコムはあまりやらないし、いまは試合会場のミーティングで相手チームのことを少し言うぐらいで、相手の情報の落とし込みはあまりやってません。

橋本早十

チャンスに恵まれたのはすごく幸せなこと

―――マレーシアのサッカー熱はいかがですか?

橋本 ウチのチームは全然お客さんも入らないし、人気もない。クラブのバジェット(予算)も少ないし、最近力を入れ始めたチームなのでまだまだこれからですね。でも7時間かけてアウェイに行ったチームは2万人のお客さんが入っていました。チームによって違うと思うけど、スーパーリーグ(1部リーグ)をテレビで見たらすごく盛り上がっていましたけど、ハイコムの観客は『スタッフか関係者しかいないのでは?』というぐらい少ない(苦笑)。ホームスタジアムは、メインスタンドはあるけど、ゴール裏は何もないです。スタジアムっぽくないし、この前までバックスタンドを造っていたけど、結局はお客さんが入っていないので、『それ必要なの?』と思ってしまいます(笑)。

ホームゲームは寂しいもので、練習試合みたいな感じ。しかもホームゲームなのに2時間かけてホームスタジアムへ行くんです。ホームスタジアムはプロトン・シティにあるプロトン社の敷地内にあって。そしてこれまた練習場が遠い。ハイコムの前身はポスト・マレーシアという郵便局のチームで、そのチームがプロになっていまのDRBハイコムに変わりました。なので、郵便局の敷地内でトレーニングをしているんですけど、トレーニングが終わったあとに裸でウロウロしていると、もちろん怒られる(笑)。

―――チームの練習内容は?

橋本 監督が中華系マレーシア人の監督で意外とトレーニングはしっかりしています。オフはだいたい週一でチョンブリはなかったけど、きちんとリカバリーもやっていますよ。

―――チームが目指しているサッカーのスタイルは?

橋本 ボールを回してポゼッションをしながら戦うと聞いていたから、僕も獲ったんだろうけど、いまは蹴るしかないサッカーになっていて。試合では緊張してしまうのか、練習でのプレーがまったくできなくなってガラっと変わってしまう。だから僕はセカンドボールばかりを拾っています(苦笑)。チームでのポジションは、最初はボランチだったけど、チームとしてなかなか点を取れなかったので、いまはセカンドトップをやっています。でもクロアチア人FWに当てたロングボールに対するセカンドボールばかりを拾っていると。

――今後についてはどのように思い描いていますか?

橋本 チームが一部昇格を果たせれば一番いいんでしょうけど、決して強いチームではないから、現状はなかなか厳しい。個人としてはせっかく家族も呼ぶ予定なので、長くマレーシアでプレーしたいと思っています。家族を呼んで海外リーグでプレーすることは一つの夢だったので、それをかなえるチャンスに恵まれたのはすごく幸せなことだと思っていますね。

橋本 早十(はしもと・はやと)1981年9月15日、34歳。福井県出身。MF。丸岡高校→駒澤大学→大宮アルディージャ→チョンブリFC(タイ)を経て、2015年4月からマレーシア2部リーグのDRBハイコムに移籍。J1通算107試合出場5得点。

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