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ローカルダービーは100以上…世界最古のサッカー文化を持つイングランド

2015.04.02

LIVERPOOL, ENGLAND - FEBRUARY 07: Scaves are hung around the necks of the soldiers depicted in The Christmas Truce statue prior to the Barclays Premier League match between Everton and Liverpool at Goodison Park on February 7, 2015 in Liverpool, England. (Photo by Simon Stacpoole/Mark Leech Sports Photography/Getty Images)

Liverpool v Manchester United - Premier League
ジェラードが後半開始40秒で退場になるなど、荒れたリヴァプールvsユナイテッド [写真]=Liverpool FC via Getty Images

 22日に行われた欧州最高峰の宿敵対決、『クラシコ』と『ノースウェスト・ダービー』は世界中のファンが注目し、ともに通算対戦成績でライバルを上回るバルセロナとマンチェスター・Uがそれぞれ2-1で接戦をものにした。

 サッカー発祥の地、イングランドで最も成功を収めているマンチェスター・Uとリヴァプールだが、プレミアリーグ4位対5位の対決は、世界中で4億人が視聴し、今回も頂上対決となったクラシコとは熱の入り方が異なった。

 バルセロナとレアル・マドリードが今シーズンもチャンピオンズリーグで8強進出を果たしたのに対し、CL不参加のマンチェスター・Uは昨シーズンの不振からいまだ脱却できず、リヴァプールもCLグループステージ敗退を喫するなど、ともにタイトルが遠い中での対戦だったからだ。ノースウェスト・ダービーに呼応するかのように、イングランド勢は今シーズンの欧州大会において22年ぶりに16強で全滅した。

 一方、金満体質化したチェルシーやマンチェスター・Cが優勝争いを繰り広げているプレミアリーグでは近年、チェルシー対アーセナルによる『ロンドン・ダービー』、マンチェスターの2強による『マンチェスター・ダービー』の注目度が上昇している。

 92チームで構成されるイングランドのプロリーグには実に100以上のローカルダービーが存在する。前述のダービーは世界的にも注目度の高いものだが、本稿では地元ファンの心に火をつけ、時にはフーリガンによる暴力も伴った『伝統のダービー』を紹介したい。

■タインウェアダービー<ニューカッスル対サンダーランド>

 イングランド最北端の“タインウェアダービー”はイギリスにおけるダービーの中でも最も戦績が均衡している。初対決は1883年だが、両都市の敵対関係は1640年代に起こった清教徒革命までさかのぼる。その後も世紀を超えて政治的対立が続いた。

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[写真]=Getty Images

 1901年にニューカッスルの本拠地セントジェームズパークで行われた同カードは、3万人収容のスタジアムにおよそ12万人が詰めかけたため中止となった。これに腹を立てた両チームのサポーターは暴徒化し、多くの負傷者を出した。そのちょうど100年後に行われた同カードでも160名の逮捕者を出す暴動が起こるなどし、政治的対立にフーリガンによる暴力が加わり、政府が介入して大規模な取り締まりが行われた2000年初頭まで両クラブ間の喧騒は続いた。

【対戦成績】ニューカッスル53-51サンダーランド(引き分け49)
【リーグ最高成績】ニューカッスル=1927年優勝(通算4度)、サンダーランド=1936年優勝(通算6度)
【愛称/チームカラー】ニューカッスル=マグパイズ/白黒、サンダーランド=ブラックキャッツ/白赤

■ノースロンドンダービー<アーセナル対トッテナム>

 近年、CL出場権獲得圏の境となる『4位、5位争い』で白熱してきた“ノースロンドンダービー”。初対決は1887年11月だったが、試合は開始15分で『暗闇による視界不良』を理由に中止。中止時にはすでに3ゴールが決まっており、2-1でトッテナムがリードする展開だった。同カードは1992年のプレミアリーグ創設以来、最もゴールが決まる乱打戦としても知られており、46回の対戦で両チーム合わせて131ゴールを記録している。

Tottenham Hotspur v Arsenal - Premier League
[写真]=Getty Images

 両クラブのライバル関係は、アーセナルがロンドン南東部のプラムステッドから北東部のハイバリーへ移転した1913年から本格化。トッテナムの本拠地ホワイトハートレーンまでは距離にして約6km。アーセナルが国内で最も多国籍のファンを有する一方、トッテナムは土地の文化的背景からユダヤ人のファンが多い。

【対戦成績】アーセナル77-55トッテナム(引き分け48)
【リーグ最高成績】アーセナル=2004年優勝(通算13度)、トッテナム=1961年優勝(通算2度)
【愛称/チームカラー】アーセナル=ガナーズ/赤、トッテナム=スパーズ/白

■マージーサイドダービー<リヴァプール対エヴァートン>

 イングランド1部リーグで最長を記録しているダービーが“マージーサイドダービー”であり、両クラブは1962年から1部リーグに在籍。初対決は1894年だが、現在の呼称は1955年に端を発し、当初から『親善ダービー』の意味が込められており、今でも観客席には家族や友人同士で赤と青の別々のシャツを着て観戦する姿が見られる。1984年のリーグカップ決勝で同カードが実現すると、スタジアムは赤と青の混合色で満席となり、『マージーサイド!』、『マンチェスター、見ているか?』などという大合唱がこだました。

Everton v Liverpool - Premier League
[写真]=Mark Leech Sports Photography/Getty Images

 両クラブの本拠地は約1kmの距離にあるため、かつては本拠地を共有したり、クラブ誌を共同制作したりするなど、友好関係は広範囲に及んだ。だが、前述のリーグ杯決勝を境に、当時イングランド各地で横行していたフーリガンによる悪行が両クラブの関係を悪化させ、実際のダービーも警告や退場が飛び交う白熱した試合に変わったとも。現に同カードはプレミアリーグで最も警告と退場が出る試合として知られる。一方、意外と知られていないのが、エヴァートンの方が15年先に創設され、1888年に設立されたフットボールリーグの初期メンバーだったということだろう。

【対戦成績】リヴァプール89-66エヴァートン(引き分け69)
【リーグ最高成績】リヴァプール=1990年優勝(通算18度)、エヴァートン=1987年優勝(通算9度)
【愛称/チームカラー】リヴァプール=レッズ/赤、エヴァートン=トフィーズ/青

■サウスウェールズダービー<スウォンジー対カーディフ>

 イギリスの一国をなすイングランドのお隣ウェールズの二強による“サウスウェールズダービー”。スコットランドのセルティック対レンジャーズによる伝統のダービー“オールドファーム”に勝るとも劣らない同ダービーは、1912年に初対決が行われた。

Swansea City v Cardiff City - Premier League
[写真]=Getty Images

 特筆すべきは1988年にスウォンジーのホームで行われたリーグ杯の試合で、カーディフが2-0で勝利したことに腹を立てた当地のフーリガンが、試合後にカーディフファンを近くの海まで追い回したことが両クラブの関係を悪化させた。一方、1993年にカーディフのホームで行われた3部リーグの試合では、アウェーのスウォンジーファンが客席を剥がして相手ファンの席に向かって投げたことで、ピッチに乱入するファンが続出。この結果、FAW(ウェールズサッカー協会)は同カードが行われる際にイギリス国内で初めてアウェーファンの入場を禁止することを発表した。同禁止令は数年後に解けたが、同ダービーは今でも試合前後に地元警察が厳重警備にあたっている。

【対戦成績】カーディフ44-35スウォンジー(引き分け27)
【リーグ最高成績】カーディフ=1924年2位、スウォンジー=1982年6位
【愛称/チームカラー】カーディフ=ブルーバーズ/青、スウォンジー=スワンズ/白

■ドッカーズダービー<ウェストハム対ミルウォール>

 ロンドンを代表するダービーの一つ“ドッカーズダービー”は、チームよりも両クラブのフーリガンがイギリスで最も悪名高いとして知られ、映画『ザ・ファーム(1989)』や『グリーンストリート(2004)』でもその暴力行為が表現されている。両クラブはもともとテムズ川の東にあった二つの造船所が作ったチームで、港湾労働者のライバル会社に向けた競争意識が根底にあった。初対決は1899年のFAカップで、1910年にミルウォールが南ロンドンに移転した後も敵対関係は続いた。

West Ham United v Millwall - Carling Cup
[写真]=Getty Images

 1960年代から横行したフーリガンを代表するクラブとして知られ、ウェストハムの『インターシティファーム』、ミルウォールの『ブッシュワッカーズ』は警察も恐れるほどの凶悪な暴力団だった。最近では、2009年にウェストハムの本拠地アップトンパークで行われたリーグ杯の試合前後に暴動が起こり、ミルウォールファンが相手ファンにナイフで刺されたほか、二十数名が重軽傷を負った。

【対戦成績】ミルウォール38-34ウェストハム(引き分け27)
【リーグ最高成績】ミルウォール=1989年10位、ウェストハム=1986年3位
【愛称/チームカラー】ミルウォール=ライオンズ/青、ウェストハム=ハマーズ/赤紫

■バーミンガムダービー<アストン・ヴィラ対バーミンガム>

 ロンドンに次ぐイギリス第二の都市バーミンガムにおけるダービーは“セカンドシティダービー”とも称される。初対決は1879年。アストン・ヴィラが1888年に創設されたフットボールリーグの初期メンバーとして参加した一方、バーミンガムは1905年までスモール・ヘルスという名前で活動していた。

Aston Villa v Birmingham City - Premier League
[写真]=Getty Images

 1963年のリーグ杯決勝は最も白熱した試合として今でも語り継がれる。アストン・ヴィラがリーグ戦でバーミンガムを4-0で粉砕した直後に行われた2試合形式の同決勝では、バーミンガムが下馬評を覆し、2戦合計3-1で勝利。一方、2011年夏にバーミンガムからアストン・ヴィラへ禁断の移籍をしたスコットランド人のアレックス・マクリーシュ監督は、古巣ファンから殺害の脅迫を受けただけでなく、新天地のファンからも煙たがられ、就任期間は1年と持たなかった。

【対戦成績】アストン・ヴィラ51-37バーミンガム(引き分け29)
【リーグ最高成績】アストン・ヴィラ=1981年優勝(通算7度)、バーミンガム=1956年6位
【愛称/チームカラー】アストン・ヴィラ=ヴィラ/赤紫、バーミンガム=ブルーズ/青

■ブラックカントリーダービー<ウェスト・ブロムウィッチ対ウォルヴァーハンプトン>

Wolves v West Brom X
[写真]=Getty Images

 2008年にフットボールプールズが行った調査で「イングランドサッカー界における最大のダービー」に選ばれたのがこの“ブラックカントリーダービー”だ。両クラブとも1888年に世界最古のフットボールリーグが創設された初期メンバーであり、初対決は1883年に行われた。ウェスト・ブロムウィッチにはかつて元日本代表MF稲本潤一が在籍した。

【対戦成績】ウェスト・ブロムウィッチ64-53ウォルヴァーハンプトン(引き分け43)
【リーグ最高成績】ウェスト・ブロムウィッチ=1920年優勝(通算1度)、ウォルヴァーハンプトン=1959年優勝(通算3度)

【愛称/チームカラー】ウェスト・ブロムウィッチ=バギーズ/白青、ウォルヴァーハンプトン=ウォルヴズ/橙

■ウェストミッドランズダービー<アストン・ヴィラ対ウェスト・ブロムウィッチ>

West Bromwich Albion v Aston Villa - Premier League
[写真]=Aston Villa FC via Getty Images

“ウェストミッドランズダービー”は、前述の“バーミンガムダービー”と“ブラックカントリーダービー”に次いで、バーミンガムで3番目に大きいダービーとして知られる。初対決は1882年で、ともに1888年創設のフットボールリーグ初期メンバー。現在は両クラブともにプレミアリーグに在籍するため、年々敵対関係が深まっている。

【対戦成績】アストン・ヴィラ48-36ウェスト・ブロムウィッチ(引き分け27)
【リーグ最高成績】アストン・ヴィラ=1981年優勝(通算7度)、ウェスト・ブロムウィッチ=1920年優勝(通算1度)
【愛称/チームカラー】アストン・ヴィラ=ヴィラ/赤紫、ウェスト・ブロムウィッチ=バギーズ/白青

■イーストランカシャーダービー<ブラックバーン対バーンリー>

“イーストランカシャーダービー”はイギリス第三の都市マンチェスター近郊における最も古いダービーの一つで、街が紡織工場で栄えたことから別名“コットンミルズダービー”とも呼ばれる。ともに1888年創設のフットボールリーグ初期メンバーで、初対決は同年に行われたリーグでの初顔合わせだった。

Burnley v Blackburn Rovers - Premier League
[写真]=Getty Images

【対戦成績】ブラックバーン41-38バー ンリー(引き分け18)
【リーグ最高成績】ブラックバーン=1995年優勝(通算3度)、バーンリー=1920年優勝(通算1度)
【愛称/チームカラー】ブラックバーン=ローヴァーズ/白青、バーンリー=クラレッツ/赤紫

■サウスコーストダービー<ポーツマス対サウサンプトン>

 イングランド南部の二大港湾都市に本拠地を構えるポーツマスとサウサンプトンによる“サウスコーストダービー”は、南部で最も成功を収めているクラブによるカードだ。初対決は1899年。イングランド人のハリー・レドナップ監督が2004年にポーツマスからサウサンプトンへ御法度とされる移籍を敢行し、両クラブのファンに嫌われながらサウサンプトンを27年ぶりの2部降格へ導いた。すると翌年、再びポーツマスへ戻ったため、同監督が両クラブ間の敵対意識を深めた。サウサンプトンには日本代表DF吉田麻也が所属する。

FA Cup: Southampton v Portsmouth
[写真]=Getty Images

【対戦成績】ポーツマス62-56サウサンプトン(引き分け21)
【リーグ最高成績】ポーツマス=1950年優勝(通算2度)、サウサンプトン=1984年2位
【愛称/チームカラー】ポーツマス=ポンピー/青、サウサンプトン=セインツ/白赤

※なお、イングランド最古のダービーはシェフィールド(現8部) 対ハラム(現10部)による“ルールズダービー”と呼ばれ、初対決は1860年に行われた。呼称の由来は1857年から20年間、シェフィールドで使用された『シェフィールド・ルール』にあり、そこから派生して現在のFAルールが1877年に作られた。同カードは現在もプレシーズンの親善試合で定期的に行われている。

藤井重隆(ふじい・しげたか)。東京都出身。ロンドン大学ゴールドスミス卒。19歳からスポニチの英国通信員として稲本潤一選手の取材を中心にライター活動を開始。日刊スポーツ、時事通信を経て欧州サッカー界に精通。イングランド7部でのプレーも経験し、FAレベル2コーチング・ライセンス取得。現在も西ロンドンの社会人チームでプレーしながら、本場のフットボールに浸る。

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