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【ファインダーを覗いて…ピッチサイドからの考察】一人だけ別次元、武藤嘉紀

2014.11.06
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FC東京にとってのシンデレラボーイ。1年目のルーキーとは思えない武藤 [写真]=Kazuhito Yamada/Kaz Photography

 10月にシンガポールで行われた日本代表対ブラジル代表の一戦で、唯一ブラジルの選手と対等に戦えていたのは、FC東京の武藤嘉紀だった。世界王者になること5回のブラジルは、考えられるベストの布陣でスタートしたが、日本は1軍半と言われても反論できない選手でスタートした。

 後半から本田圭佑と共に出場した武藤嘉紀は、CSKAモスクワでプレーする後半から投入されたマリオ・フェルナンデスと対峙した。武藤はドリブルで突破すること数回。五分のボールに対して、ブラジル人顔負けの体の使い方でボールを自分のものにしたことも数回。0-4と惨敗した結果の中、私には武藤が一番プラス思考で語れる材料だった。

 11月2日、J1の名古屋グランパス対FC東京。今回の私の仕事は名古屋の選手を中心に撮影すること。選手ばかりでなく、サポーターやクラブのGMなども試合前後に撮っておかなくてはいけない。今回、名古屋を中心に撮影することが私のミッションだが、撮影対象にはGKの楢崎正剛やDF田中マルクス闘利王らもいる。名古屋の守備陣を撮る際に、武藤も少し狙ってみようと考えた。

 前半の最初に楢崎を狙う。そして闘利王。その合間に武藤がボールを持った瞬間を狙う。FC東京でプレーする武藤を撮るのは、実は初めてだ。Jリーグでは一体どんなプレーをするのだろうか。前半感じたのは、ボールを持つときと、すぐにパスを出すときの判断がはっきりしている。所謂「ボール離れがいい」という表現がわかりやすいかもしれない。

 日本代表で見る武藤のプレーからはドリブラーの一面があったので、強引なドリブル突破もあるのだろうかと期待していたのだが、前半は現れなかった。ホームの名古屋が2-1とリードして迎えた後半、名古屋にチャンスが続く。しかし、ゴールに結びつけることが出来ない。あと1点取れば、『Kill The Game』という試合を決めるゴールとなる。

 なかなか点が決められない名古屋、防戦一方のFC東京という図式に見えた後半だったが…。名古屋のペナルティーエリア外側で相手ボールを奪った武藤が、反転するやゴールに向かってドリブルしながら数人をかわし、左に流れながら角度の無い位置から、左足を一閃。ボールは、楢崎の手を掠めるようにサイドネットに突き刺さった。

 まさに“スーパーゴール”。日本代表を率いるハビエル・アギーレ監督が視察に来た瑞穂競技場で魅せた。ゴール直後はアギーレも笑いが止まらない様子だ。それにしても、ボールを相手から奪い取る姿勢が良いのと、反転した直後にゴールへ向かって中央をドリブルしたことが効いた。中央突破されると名古屋のDF陣がカバーに来たところで左に流れたから。腰が切れていたから。ほとんど隙間の無いところをとおしたから。故にスーパーゴールへつながった。最初から左に流れていったら、シュートコースを押さえられて打てなかっただろう。

 このまま終わって勝ち点3を取れると信じていた名古屋の選手は皆、放心状態だ。スタンドには、FC東京のサポーターから「ムトウ!」コールが巻き起こっていた。この男、日本代表の定位置確保どころか、1月にオーストラリアで行われるアジアカップで大旋風を起こすかも知れない。

山田一仁(やまだ・かずひと)。1957年、岐阜県生まれ。大学卒業後、1981年から(株)文藝春秋写真部にスタッフカメラマンとして在籍。1989年にイギリスへと渡り、1990年からフリーカメラマンとして活動を始める。2007年に(有)Kaz Photographyを設立。日本人フリーランスカメラマンとして、プレミアリーグの撮影ライセンスを所持し、現在は年間の半分近くをロンドンを拠点として、主にプレミアリーグ、チャンピオンズリーグ、海外で活躍する日本人選手を中心に取材している。

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