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Vol.4 コミュニケーションの重要性を改めて知る(川崎Fでの実地研修から)

2012.05.11

文・構成=増島みどり

 公認S級コーチ養成講習会の仕上げは、現場での実地研修となる。それぞれが選んだプロクラブの現場に実際に足を運び、そこで行われているトレーニングやコーチングなどについて考察していくものだ。先ず国内研修、次に国外での研修を交渉、コーディネートして、単独で行わなくてはならない。

 両研修後にレポートを提出して、昨年8月に始まった講習会が終了する。名波は、国内研修で昨年末、天皇杯に臨んでいた「川崎フロンターレ」に帯同。同じ静岡出身で競い、日本代表としてW杯を共に戦った盟友の相馬直樹前監督(40)の元で1週間、チームスタッフの一員としてトレーニング、ミーティングにも加わった。その中で相馬の指導法、選手、チームの雰囲気を感じながら、貴重な実地体験を積んだ。

 その後、海外研修では韓国Kリーグの「FCソウル」へ。ジュビロでもプレーした崔龍洙(チェ・ヨンス、38)監督の配慮から、ミーティングへの参加、練習メニューの組み立てといったチームの「中枢」での決定シーンにも立ち合うことができた。98年のフランスW杯を目指した当時は、熾烈なライバル関係で、その後はJリーグでも親交を深めてきた元韓国代表選手たちの歓迎で、楽しい時間も過ごしたという。

 研修先の選択には、人脈だけではなくそれぞれの指導者像や理想も反映される。以前は欧州か、南米のクラブを希望する参加者が主流だったが、現在は、韓国をはじめ、タイやシンガポールなどアジア各国リーグでの研修も増加傾向にある。客人としての見学より、監督、コーチに近いところでリアルな現場を知りたいとの希望からだ。

 S級の塚田雄二スクールマスターはこうした傾向について、「いつかは、といった机上論ではなく、現場に出たらこうしたい、といった具体的なプランをすでに頭に描いているポジティブな姿勢が見える」と指摘する。

 名波が、「クラブ」の選択以上に、相馬、元チームメートの崔と、自分と同世代の若い「指導者」に付くことを望んだのは、選手、チームとの関係をどう築くかを、より具体的にイメージしたかったからだろう。選手時代からもっとも尊重してきた、選手、スタッフとの「コミュ二ケーション」の重要性について、改めて再確認する研修だったようだ。

98年のW杯を共に戦った相馬監督は、解任も先に経験されましたね。

名波 就任も解任も経験していないけれど、チームを率いるなら、いいときも、悪いときもあるだろうし、その中で責任を取るのがプロの監督というもの。自分が天皇杯で帯同したときには、彼のやり方に様々なインスピレーションをもらったし、スタッフ、選手も同じ目標に向かってトレーニングをしていた。そこで得たものには何の変わりもないと思う。

トーナメント戦中、どんな状況でしたか

名波 ケガで長期離脱者がいて、復帰のタイミングを監督、メディカル、スタッフらが入念に探っていく時期だった。そのプロセスはとても勉強になった。選手が早く復帰を、と言われれば、それはチーム状況が悪いから。逆に大事を取れ、と言われる場合はチーム状況がいいと考えられる。さらに、選手はもう大丈夫、早く出たいとテンションが上がる一方で、メディカルはあと少し時間をかけて、と慎重にゴーサインを出さないといったケースもある。ケガからの復帰で何より重要なのは、チームの状態と個人の状況、メディカルの判断と選手の手応え、これらのギャップを監督がいかに埋めるか。相馬監督は、練習中に復帰が近い選手たちと1対1話し合うなど、現状を正確に伝えていた。

現役時代、自分がケガをした際に、監督からの印象的な言葉はありましたか。

名波 ジュビロのオフト時代、ひどい打撲でメディカルとは欠場を話し合っていたときだった。監督と直接話をし、「今はけが人が多い。痛みはあるだろうが、ここでこそ、お前のリーダーシップを発揮して欲しい」と言われたことがあった。メディカル、自分、チーム状況全てのギャップを埋める、オフトの「リーダーシップを取ってくれ」という言葉に、まだプロ2年目だった自分がやらなくてはいけないと強く思い、出場した。

そこでの説得の仕方も重要ですか。

名波 2通りの選手がいると思う。野性味あふれる言葉や表現で、行こうぜ!と叱咤して復帰させるのがいい選手もいれば、反対に、ロジック(理論)で復帰を促すほうが力を発揮する選手もいる。離脱者が多かった天皇杯のフロンターレに帯同する中で、それを改めて認識することができた。

相馬、チェ両監督とも同世代ですね。

名波 選手とどんなコミュにケーションを築いているか、どうやってモチベーションを高めたり、逆に冷静さを要求するかなど、できるだけ等身大のところで見ることを、この研修のテーマにしたつもりだ。シンプルに言えば、雰囲気作りといった部分になる。

選手との連携は、いいときばかりではありませんね。例えば、一人だけ別の方向を見ている選手がいることもあるでしょう。

名波 両チームに帯同中にそういう選手を察知することもあった。外すことでチームをまとめる監督の手腕もあれば、その選手の、今持っているポテンシャルを引き出すことによってうまくフィットさせてしまう方法もあるかもしれない。うまくいっていない選手をどう扱うか、本当のリーダーは誰かを正確に判断するのも、選手との連携においてとても重要な部分で、自分は偏見は禁物だと思っている。経験から、選手と一緒にチームを作り上げる雰囲気がとても好きだ。ジュビロで鈴木さん(政一)がそうしていたようにね。

選手以外にも、スタッフとの連携は?

名波 選手と同じに重要。笛を吹いて練習をコントロールするのは監督だとして、その真意、意図をコーチ陣がどこまで深く把握し、選手に伝えることができるか、監督が選手に指示を出す前に試される部分でもあるんじゃないか。フロンターレのミーティングでは、監督だけではなくスタッフが持ち回りで進行役を務めていて、昨年コーチになったOBの寺田(周平)が初めてミーティングの進行をしたときには、あまりの緊張ぶりに、選手たちから「緊張し過ぎ!」と突っ込まれてみなで笑い合ったり、とてもいい雰囲気だった。

具体的に、各クラブで練習メニューは異なりますね。

名波 その設営も、とても参考になる。例えばシュート練習も、休む選手が出ないセッティングにするとか、アップ、ラン系、ボールを入れて、とトレーニングの連携にも無駄がないのが理想だと考えている。選手が常に緊張感を持って練習に臨める、メリハリの効いたメニュー作りをしているかで、監督の指導法、それをスタッフが理解しているか分かることがある。フロンターレでも、トレーニングの狙いと、そのための手法はよく話し合われていた。

メニューには注意を払っても、ピッチ上の設営には気が付きませんでした。

名波 子どもたちのサッカー教室を指導する機会も多いので、プロだろうが、小学生だろうが、この設営にはその指導者のポリシーがよく表れている。30人の子どもでボール何個を使って、どう動かすか。何を、どう伝えていくかを、自分とスタッフ全員が明確に共有できていないといい練習は絶対にできないものだから。ピッチ上の練習のセッティングには、色々な情報が潜んでいる。

FCソウルではチェ監督と。

名波 食事の心配から、練習への足まで色々配慮してもらった。FCソウルでも、選手、スタッフとの連携や、練習の組み立てといった実践通して、新しい視点を持つことができた。 (次回はFCソウルでの研修について)

【バックナンバー】
Vol.3 人心掌握のためのヒントを探す
Vol.2 これまでとは違った視野、視点、視線でサッカーを見る
Vol.1 自分に足りないものを見つけて

[増島みどり]五輪、野球、サッカーを担当したスポーツ紙をへて、97年からフリーのスポーツライターに。ジーコ監督時も含め、W杯、予選、国際大会で日本代表に長く帯 同し、夏・冬五輪種目など広く競技、選手を取材する。著作多数。スポーツの速報や選手ブログを集める「ザ・スタジアム」を主宰。http://thestadium.jp/

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