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ドイツ王者に訪れた“新時代”とは?…バイエルンの命運を握る指揮官と新戦力たち

2019.09.10

[写真]=Getty Images

 チャンピオンズリーグ(CL)におけるバイエルンの前評判がこれほど低いのはいつ以来だろう。大手ブックメーカー『ウィリアム・ヒル』の優勝オッズを見ると、7番人気の11.0倍に過ぎない。マンチェスター・C、リヴァプール、パリ・サンジェルマンにヒエラルキーを覆され、レアル・マドリード、バルセロナ、そしてユヴェントスと長らく形成していたヨーロッパの「トップ・オブ・トップ」から陥落した。もはや“優勝候補”と称するのが憚られるだけではない。“対抗馬”とも言い難く、ダークホースに近い位置づけだ。

不動のエース、打開力抜群のサイド、絢爛豪華な中盤

エースのレヴァンドフスキ、新加入のコウチーニョら豪華な面々が名を連ねている [写真]=Getty Images


 昨シーズンのファイナリストであるリヴァプールと比べて、レギュラーの絶対的なクオリティーが見劣りするわけではない。ブンデスリーガ開幕3試合で6ゴールを挙げるなど、31歳のロベルト・レヴァンドフスキは依然として世界最高峰の点取り屋のままだ。両翼のセルジュ・ニャブリとキングスレイ・コマンの局面打開力は、全盛期のフランク・リベリやアリエン・ロッベンのそれとほとんど遜色がない。フィジカル、テクニックの双方をハイレベルに兼ね備え、それぞれ単独で大きな違いを作り出せる強力な攻撃ユニットだ。

 中盤も絢爛豪華。バルセロナから1億2000万ユーロ(約142億円)の買い取りオプション付きで加入したコウチーニョ、ボールテクニックならそのクラックにも見劣りしないチアゴ・アルカンタラ、そしてアンカーと右サイドバックをこなすヨシュア・キミッヒがトライアングルを組む。最終ラインは右からベンジャマン・パヴァール、ニクラス・ズーレ、リュカ・エルナンデズ、ダヴィド・アラバという構成で、最後尾にはマヌエル・ノイアーが君臨。真のワールドクラスからその候補生までビッグタレントがズラリと揃う。

 補強の目玉であるコウチーニョの入団効果は早くも表れている。6-1と大勝した第3節のマインツ戦ではこのブラジル人クラックを中心に、ダイレクトパスの連続で相手守備陣を翻弄するシーンが散見された。両ウイングの単独突破に依存しがちだったファイナルサードにおいて、崩しのバリエーションが増えそうなのは大きなプラス。コウチーニョは攻撃のアイデアに乏しいと批判されてきたニコ・コヴァチ監督を救う存在となりそうだ。

コヴァチはハインケスやクロップとは違い…

ミュラーがバックアッパーに降格するなど、チームマネジメントは簡単ではない状況だ [写真]=Getty Images


 前評判が低いのは昨シーズンが16強止まりだった実績に加え、やはり指揮官の指導力に疑問符が付くからだろう。就任1年目のコヴァチはフランクフルト時代の3バックを封印し、4バック(序盤戦は4-3-3、中盤戦以降は4-2-3-1)に固定して組織の熟成を図った。戦術の引き出しも少なく、ボールポゼッションで主導権を握り、攻撃の最終局面では個々の閃きや打開力に頼る形が大半だった。かつて名将ユップ・ハインケスが用いた「ボール支配は可能だが、あえて引いて高速カウンターを狙う」といった戦術的な柔軟性に欠けた。

 戦い方の引き出しが少ないまま、CLを勝ち抜くのは至難の業だ。昨シーズンのトッテナムはマンチェスター・Cとの準々決勝セカンドレグやアヤックスとの準決勝でハリー・ケインを欠きながら、見事にファイナルまで勝ち上がった。マウリシオ・ポチェッティーノ監督が複数のシステムを使い分けるなど柔軟な采配や用兵を見せると同時に、指揮官の意図を汲んだ選手たちがしっかりと戦術を体現し、エースの穴を埋めたからだ。果たしてバイエルンは、レヴァンドフスキに不測の事態が起きた際にうまく乗り切れるだろうか。

 コヴァチはハインケスやユルゲン・クロップのような超が付くほどのモチベーターでもない。むしろ昨シーズンは少なくない選手との確執が取り沙汰された。そのうちのハメス・ロドリゲスとラフィーニャは退団したものの、トーマス・ミュラーの扱いには細心の注意を払わなければならない。コウチーニョの加入に伴い、この生え抜きのアタッカーはバックアッパー降格が有力。重要な試合で先発から外れる日々が続けば、不満を募らせるのは目に見えている。プライドを傷つけずに、巧くマネジメントしなければならない。

新時代で待ち受けるのは発展か衰退か

監督やコーチ、フロントも含めチーム一丸でCLに挑む [写真]=Getty Images


 見方を変えれば、コヴァチが期待以上の采配を振るうようなら、バイエルンが再び欧州王者に返り咲く可能性は少なからず高まる。百戦錬磨のクロップやジョゼップ・グアルディオラ、ジネディーヌ・ジダンとは異なり、ベルリン生まれのクロアチア人は昨シーズンがCL初参戦というハイレベルな経験が浅い指揮官。監督として成長する余地はまだまだ残っているはずだ。実弟でアシスタントコーチのロベルトはもちろん、ドイツ代表で8年間に渡ってヨアヒム・レーブ監督の右腕を務めた経験があり、今夏にバイエルンのコーチングスタッフに迎えられたハンジ・フリックも大きな力となってくれるだろう。

 仮にコヴァチが舵取りを誤ったとしても、グループステージ突破は問題ないだろう。トッテナムはともかく、オリンピアコス、ツルヴェナ・ズヴェズダには戦力面で圧倒的な差をつけている。注目はラウンド16以降だ。そのノックアウト方式の戦いが始まる頃にはバイエルンのフロントも変わっている。ウリ・ヘーネス会長が退任し、『アディダス』社のCEOなどを歴任したヘルベルト・ハイナー氏が後釜に収まる予定。さらにはオリバー・カーンが2020年1月からの5年契約でクラブ役員(2022年1月にCEO就任予定)となる。現役引退後にMBAを取得したそのレジェンドには経営面の職務もさることながら、その存在だけでチームの手綱をギュッと締めるような働きにも期待できるかもしれない。

 黄金期形成の功労者であるリベリとロッベンが去り、まもなくフロントの顔ぶれも変わる。まさに新時代を迎えたバイエルンを待ち受けるのは発展か衰退か。コウチーニョやリュカら新戦力のパフォーマンス、そしてコヴァチの指導が命運を大きく左右するだろう。

文=遠藤孝輔

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