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チャンピオンズリーグ(CL)に臨むドイツ勢の中で、最もクジ運に恵まれたのはRBライプツィヒだろう。3勝1分け(10得点・3失点)の好成績を収め、ブンデスリーガの単独首位に立つチームは、ゼニト、ベンフィカ、リヨンと16強入りを争う。いわゆるメガクラブとの対戦がなく、2シーズンぶり2度目の出場となる大舞台で初のベスト16進出を果たすかもしれない。いや、それよりもっと上、それこそ昨シーズンのアヤックスのようにラウンド16、準々決勝の壁を一気に乗り越える可能性もなくはないはずだ。
2年ぶりの大舞台へ主軸の残留に成功
昨シーズンのブンデスリーガで3位躍進を遂げたライプツィヒは、今夏の移籍市場で選手層の拡充に成功した。退団が確実視されたエースのティモ・ヴェルナーをはじめ、ビッグクラブが注視するCBイブライマ・コナテ、ドイツ代表の常連となったSBのマルセル・ハルステンベルクら主軸を軒並み手元に留めたうえで、23歳のパトリック・シック(←ローマ)、21歳のクリストファー・エンクンク(←パリ・サンジェルマン)とアデモラ・ルックマン(←エヴァートン)など複数の若手逸材を獲得。正真正銘のワールドクラスこそ不在ながら、野心に溢れ、伸びしろをたっぷり残すヤングタレントが多いというチームカラーをさらに色濃くさせ、シーズン中のチーム力向上に大きな期待を抱かせている。
もっとも“現状維持”でもCLでの躍進は十分にありえる。そのポテンシャルを証明したのがブンデスリーガ第4節のバイエルン戦だった。昨シーズンまでの代名詞だった前線からの苛烈なプレスを封印し、5バックで受けて構えるような形になったライプツィヒは前半、王者を相手にほとんど主導権を握れなかった。開始早々に失点し、ボール支配率は30パーセント前後を推移。アディショナルタイムにPKで追いついたものの、内容的には文字通りの完敗で、誰の目から見てもハーフタイムでの修正は必須に思われた。
その修正をほぼ完璧にやってのけたのが、今シーズンから指揮を執るユリアン・ナーゲルスマン新監督だ。5-3-2から4-4-2にシステムを変更し、ライプツィヒらしいハイラインプレスを採用することで、それまでボールの奪いどころを定められず、バイエルンのパスワークに翻弄されていた戦況をガラリと変えてみせたのだ。相手GKマヌエル・ノイアーのスーパーセーブもあり、逆転するまでには至らなかったが、王者と五分以上に渡り合えた後半はチームの、とりわけナーゲルスマンの大きな自信になったはずだ。
指揮官の采配以外に強みを挙げれば、ダイレクトパスを多用する速攻だ。ナーゲルスマンはポゼッションによる揺さぶりの強化も図っているところだが、ラルフ・ラングニックやラルフ・ハーゼンヒュットルら歴代監督たちが積み上げてきたその仕掛けは強烈極まりない。長年ともにプレーしている攻撃的MFのエミル・フォルスベリ、マルセル・ザビツァー、2トップのヴェルナー、ユスフ・ポウルセンが阿吽の呼吸で敵陣を打開し、左SBあるいはウイングバックを務めるハルステンベルクも積極的にフィニッシュに絡む。
リーグ最少失点のディフェンス陣も強み
もう一つの大きな長所は守備力で、昨シーズンはブンデスリーガ最少失点を誇った。選手全員の守備意識が高く、高い位置から仕掛けるプレッシングの連動性は水準以上。中盤で睨みを利かせるコンラッド・ライマーやディエゴ・デンメらハードワーカーの働きも素晴らしい。もしミッドフィールドを突破されても、対人戦に強いコナテや主将ヴィリ・オルバンらCB陣、安定感抜群のGKペテル・グラーチが水際でピンチを防ぐ。なかでも昨シーズンから神懸かり的なセーブを連発しているグラーチはCLでも頼りになりそうだ。
前記したように、ライプツィヒにとってCLは2度目の出場。初出場時はナイーブな一面を覗かせたが(相手サポーターの大声援に耐え切れず、ヴェルナーが交代を直訴したベシクタシュ戦の一件など)、今回は多少なりともリラックスした状態で臨めるだろう。同じく2シーズン前に初めて欧州最高峰のステージに立ったナーゲルスマン(当時ホッフェンハイム)も浮足立たずに、普段と変わらない采配を振るえるはずだ。
欧州で最も将来を嘱望される指揮官の一人を招聘し、戦力の増強にも成功。国内リーグでは首位を突っ走る。そのライプツィヒがグループステージで敗退するようなら、ブンデスリーガおよびドイツサッカーのレベル低下が本格的に議論されるかもしれない。
文=遠藤孝輔