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前回対戦の黒星を反面教師に 守備のキーマン3選手が語るUAE戦必勝のシナリオとは

2016.09.01

日本代表の守備の要である(左から)森重、吉田、長谷部 [写真]=Getty Images

 継続、覚悟、そして残心――。UAE(アラブ首長国連邦)代表を埼玉スタジアム2002に迎え、9月1日午後7時35分にキックオフされる2018 FIFAワールドカップ ロシア アジア最終予選初戦へ。日本代表の守備を担う3人のキーマンが、それぞれの経験から白星をつかむためのテーマを掲げた。

 前回のブラジル大会に続いてアジア最終予選に臨むセンターバックの吉田麻也(サウサンプトン)は、「継続」が勝利に直結すると力を込めた。

「フリーでボールを持たせると10番はいいボールを出してくるし、フリーで走らせれば7番はいい抜け出しをしてくる。プレッシャーの掛からない状態を作ると難しくなるので、後ろをしっかりとコンパクトにまとめた上で組織として相手にスペースを与えないこと、そして相手のキーマンに対してプレスをかけることを90分間やり遂げることが最も大事になってくる。1回、2回のミスが命取りになる戦いになるので」

 10番は“もじゃもじゃ頭”で左利きの司令塔オマル・アブドゥルラフマン。7番はエースストライカーのアリ・マハメド・マブフートで、彼と2トップを組む11番のアハメド・ハリルを含めて、いずれもヴァイッド・ハリルホジッチ監督が8月25日に行われた代表メンバー発表会見の壇上で「危険。警戒を要する」として名前を挙げた選手たちだ。

 PK戦で敗れ、連覇を逃した2015年1月のアジアカップ準々決勝では、開始7分にマブフートにゴールを許して出鼻をくじかれた。フリーになったオマルに気を取られたスキに、別の選手に縦パスを入れられ、スピードのあるマブフートに最終ラインの裏を突かれてしまった。81分にMF柴崎岳(鹿島アントラーズ)のゴールで追いついたものの、日本代表が放った30本以上のシュートはことごとく防がれ、あるいは枠を外れた。延長戦を含めた120分間で、最後までリズムを取り戻せなかった。

日本代表

2015年1月のアジア杯ではUAEに敗れた [写真]=Getty Images

「試合への入り方が良くなかったことはいまだに覚えている」

 キックオフから試合終了の笛が鳴り終わるまで集中力を継続させれば防げた失点であり、勝利をつかむこともできたと今でも悔いは残る。最終ラインを統率する立場になったと自覚しているからこそ、28歳になったばかりの吉田は真夏のオーストラリアで喫した1年8カ月前の黒星を“反面教師”とする。

「グループリーグ3試合の内容が非常に良かったので、ちょっとした気の緩みがあったのかもしれないし、大会の中で疲れが出たのかもしれない。それでも自分のポジションとしては、そういうところを締められる選手になりたいというか、なっていかなきゃいけない。立ち上がりが大事というのはサッカーの基本中の基本。当たり前のことを当たり前にプレーするのが難しい戦いになる中で、同じミスを絶対に繰り返してはいけない」

 前回対戦からの成長の跡が問われる一戦へ。吉田は「監督がいつも言うように、ブラジル代表と戦う気持ちで臨まないといけない」とほんのわずかなスキさえも見せないと表情を引き締めた。

 吉田とセンターバックを組む森重真人(FC東京)にとっては、29歳にして今回が初めて臨む最終予選となる。もっとも、これまで日本代表が何度も困難に直面してきた歴史を知っているからか、吉田同様に攻撃のキーマンたちを警戒しながらも「そう簡単にいくものではない」と、不測の事態が起こっても動じない「覚悟」を固めている。

「過去の戦いを見ても、何かしらのアクシデントが起こっている。自分のプレーだけではなくて、例えばレフェリングなどに対してもしっかりと気持ちの準備をして臨みたい」

 ブラジル大会出場をかけた前回の最終予選。ヨルダン代表に1-2で苦杯をなめた敵地アンマンでの一戦(2013年3月)では、PKを蹴る直前のMF遠藤保仁(ガンバ大阪)の顔にレーザーポインターが照射され、あげくにPK職人とまで呼ばれた遠藤が失敗して同点機を逃している。

遠藤保仁

レーザー光を当てられてPK]を失敗し、アウェーの洗礼を受けた遠藤保仁 [写真]=Getty Images

 南アフリカ大会出場を決めた敵地タシケントでのウズベキスタン代表戦(2009年6月)では、1点リードで迎えた試合終了間際にMF長谷部誠(当時ヴォルフスブルク、現フランクフルト)がラフプレーで一発退場。判定に異議を唱えた岡田武史監督も退席を命じられている。

 今回もボランチの選手を中心に、オマルがボールを持った時には激しくプレッシャーを掛けることを練習やミーティングなどで確認。その上で、森重はこう続ける。

「それでも10番(オマル)はどんな体勢になってもいいパスを出すことができるし、7番(マブフート)と11番(ハリル)はそれを信じて走り込んでくる。10番がボールを持った段階で前線の選手が動き出すことをディフェンス陣がしっかりと頭の中に入れて予測しておけば、早め早めの対応ができる。最終ラインを高く上げる分、GKにも『(最終ラインの)背後のスペースをケアしてほしい』と話しています」

 守備範囲が広く、フィールドプレーヤーと遜色ない足下の技術をもつ西川周作(浦和レッズ)を始めとするGK陣とも連携。不動の心を貫く準備を入念に進める森重は、「チーム全体で相手の長所を消していかないといけない」と戦い方の青写真を固めている。

西川周作

正GKを務めるとされる西川との連携も重要となる [写真]=Getty Images

 そして、今回招集された24人の中で唯一、南アフリカ大会、ブラジル大会出場を決めたアジア最終予選をフルに戦っているキャプテンの長谷部は、攻守を司るボランチとしてリスクマネジメントを徹底する。

 すでに8月30日の段階でUAE戦のチケットが完売。高まっている注目度に感謝した上で、チーム全体が前がかりになりすぎないように細心の注意を払い続ける。

「ホームで大勢のサポーターが来てくれることで、前からプレッシャーを掛けて、最初からたたみ掛ける気持ちで戦うと思いますけど、そこでのリスクマネジメントはもちろん考えています。みんなが点を取ることに頭がいきがちになると思いますけど、ただ前へ行けばいいということでもない。失点しないことも同じくらい大事だし、UAEはカウンターを得意としているので。そこはバランスを取りながらやりたい」

 技を決めた後も心身ともに油断しない姿勢を、武道において「残心」という。日本語の「ざ」を上手く発音できずに「ツァンシン」となったが、“日本サッカー界の父”として1960年代の日本代表を熱血指導したデットマール・クラマー氏(故人)が、よく口にした言葉でもある。

 大声援を背に主導権を握り、猛攻を仕掛けながらも、オマルが差配する乾坤一擲のカウンターへ常に備えるという長谷部の考えもまた、クラマー氏が唱えた「残心」につながるものがある。

 長谷部とボランチでコンビを組むと見られた柏木陽介(浦和レッズ)が左股関節に違和感を訴え、前日練習で別メニュー調整を強いられた。UAE戦の出場が難しい場合は、リオデジャネイロ・オリンピックで攻撃陣をけん引した大島僚太(川崎フロンターレ)がピッチに立つ可能性が高いとされている。彼にとってはA代表デビュー戦が異様なプレッシャーの掛かるアジア最終予選、しかも大事な初戦となる。ハリルホジッチ監督も大きな期待を寄せる23歳の実力を余すことなく発揮させるためにも、守備面でフォローする経験豊富な長谷部の存在は大きい。

「自分が出た時にはパートナーとなる選手の特徴をできるだけ生かしてあげたいし、逆に自分もそれで生かされたい。経験のある選手が落ち着いたプレーや態度を示せば、若い選手たちも伸び伸びとプレーできるので。その意味でも、経験ある選手がどのようなアクションを起こすのかがすごく大事」

 韓国との共同開催で予選免除となった2002年大会を除いて、日本代表がワールドカップ出場を決めた4大会はすべてアジア最終予選の初戦を白星で飾っている。対照的に“ドーハの悲劇”に日本中が涙した1993年のアジア最終予選の初戦は、サウジアラビア代表とスコアレスドローに終わっている。

「1年間という長い時間をかけて戦う最終予選の中で、初戦の大事さはみんな感じている。僕が経験している過去2回の最終予選も、スタートダッシュという部分では成功している」

 長谷部が必勝を誓えば、吉田も「何よりも失点しないことが大事」として、「後ろが我慢して締めるところを締めて、しっかりと点を取れば、おのずと勝ち点3がやってくる」と続けた。

 合言葉は「無失点」――。悔しい思いも含めた様々な経験を成長への糧に変えてきた男たちに支えられながら、ハリルジャパンがロシアの地へとつながる荒海へと出航する。

文=藤江直人

By 藤江直人

スポーツ報道を主戦場とするノンフィクションライター。

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