フォトセッションには、澤山さんの遺影も収まった [写真]=浦正弘
注目されていたサンフレッチェ広島のゴールパフォーマンス。だが、それは急逝したクラブスタッフに捧げられるものとなった。
広島が横浜F・マリノスを2-0で破った富士ゼロックススーパーカップ2014。リーグ連覇中の広島は横浜FMに一昨年から3連敗しており、さらに今年元日の天皇杯決勝では直接対決の末にタイトルをさらわれていた。それを受け、エース佐藤寿人は試合後の取材エリアで開口一番に「しっかりと(横浜FMに)リベンジできたことが一番うれしい」と笑顔を浮かべた。大会前から「同じ相手に4連敗はできない。(ゼロックス杯は)絶対に勝ちたい」と話していた佐藤だが、広島にとってこの試合にはもう1つ、絶対に負けられない理由があった。
それが「母親みたいな存在で、いろいろなサポートをしてくれた」(佐藤)というクラブスタッフの急逝だった。宮崎キャンプ中の2月10日、長年クラブを支えてきたスタッフの澤山文枝さんが急逝。佐藤は「本当は宮崎から帰りたかったくらい。僕は広島へ来て10年になるけど、ずっとこのクラブを支えてきてくれた人。クラブとしても連覇を果たすまでに成長してきた中で、選手の支えになってくれた人でした」という澤山さんのために、チームは一丸となっていた。
以前からゴールパフォーマンスが評判の広島だが、この試合では澤山さんのために喪章を着用。選手間の意見を今シーズンからキャプテンを務める青山敏弘が取りまとめ、クラブ側と話し合って決めたという。
そして先制点を奪った後、「1点目のゴールは澤山さんに捧げようと話していた」(佐藤)という選手たちはメインスタンド側へ駆け寄り、喪章を掲げて天を指さした。
試合では気迫のプレーが続いた。前半から出足の良さが目立ち、球際でも厳しく競り合って主導権を握った。相手に押し込まれた時間帯にもペナルティーエリア内で相手のシュートを複数の選手が身体を投げ出してブロック。同じ相手に4連敗できないというプロとしての意地、そして澤山さんに捧ぐ強い気持ちをプレーで体現した。
表彰式終了後、優勝記念のフォトセッションには、家族とともに澤山さんの笑顔が収まっていた。青山は「今日は澤山さんに勝たせてもらった。遺影と一緒に祝うことができて良かったし、選手としては、ようやく見送ることができたと思う」と追悼のタイトル獲得に穏やかな笑みを浮かべた。
今シーズンはリーグ3連覇に加えて、AFCチャンピオンズリーグでも頂点を目指す広島。本格的なシーズン開幕を前に、佐藤は誓いを新たにする。
「僕たちにできることはクラブがさらに良くなるように尽力すること。澤山さんは天国から見守ってくれていると思うので、僕たちはそれに恥じることなく、いつでも良い報告ができるようにしなければならない」
ともに歩んできた澤山さんの思いも抱き、サンフレッチェ広島が王者としてのシーズンに臨む。
文=青山知雄(Jリーグサッカーキング編集長)
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