2013.03.19

名波 浩「育成や地域に様々な還元をできるクラブが増えていってほしい」

Jリーグサッカーキング4月号 掲載]
1990年代後半から2000年代初頭にかけて黄金時代を築いたジュビロ磐田。この常勝軍団の司令塔に君臨し、左足からの正確なパスで強力なアタッカー陣を操り、ピッチ全体を見渡していた彼の鋭い眼は、Jリーグ全体の現在、そして未来をどう見ているのか。
名波浩
インタビュー・文=青山知雄(Jリーグサッカーキング集長) 写真=新井賢一

名波さんはイタリアでプレーしましたが、日本のほうが優れている部分はありますか?

名波 やはり技術ですね。足下の技術は日本人のほうがしっかりしていて、繊細だと思います。イタリアにはロベルト・バッジョやアレッサンドロ・デル・ピエロ、フランチェスコ・トッティといったファンタジスタが数人いて、彼らが「イタリア人はテクニカルだ」というイメージを持たせているだけで、平均値では日本人のほうが全然上。ただ、彼らは場数を踏んでいるから、トラップとキックについてはしっかりできる。Jリーグでできていても、プレッシャーの厳しいセリエAでやるのはなかなか難しいとは思います。

技術面以外ではいかがでしょうか。

名波 勤勉さもそうですね。監督に「ここまで戻れ」とか「ここまで出ろ」と求められると、指示どおり忠実に動く。その能力は素晴らしい。体力、持久力も世界トップレベルだし、アジリティ(敏捷性)も高いです。

では、ズバリ足りないものは。

名波 判断の速さと判断材料の少なさ。試合中、パッと頭に浮かぶプレーの選択肢が日本人選手は2つでも、海外のトッププレーヤーは3つあったりします。チャレンジする術も危険を回避する術も、外国籍選手のほうが手数が多いですね。海外リーグでは常に頭を回転させて選択肢を考えておかなければいけないので、頭の反応が遅ければプレーの質も落ちます。香川や本田(圭佑)、清武(弘嗣)といった2列目の選手がチームの中心として君臨できているのは、彼らの頭にプレーのチョイスが増えているからだと思います。

サッカーのレベル以外で日本サッカーの素晴らしさを挙げると?

名波 クリーンさですね。これはJリーグが始まる前からフェアプレーの指導を継続してきた積み重ねでしょう。もちろん勝利を目指すことが大前提なので、フェアプレー賞を狙って試合に勝てなかったら全く意味がないですが、世界レベルの大会で表彰されることが多いのは非常にいいこと。ブラジル人選手はよく「マリーシア(ずる賢さ)が足りない」と言っていますが、フェアプレーは日本の良さとして継続してもらいたいですね。

スタジアムの雰囲気はいかがでしょう。

名波 Jリーグにはヨーロッパのような殺伐とした“完全アウェイ”の雰囲気はないですね。その温かさや、女性や子供が足を運びやすい点は日本の良さでしょうね。

その他にJリーグが世界に誇れる部分は?

名波 スタジアムのピッチは素晴らしいと思いますよ。あとは地元企業から協賛してもらえるようになったことかな。“おらが町のクラブ”というスタンスが、全国で確実に浸透しているように感じます。ホームタウンとの密着性も高くなっていますしね。

Jリーグは20周年を迎えました。ここから先には何が必要でしょうか?

名波 百年構想などの基本的な考え方は、絶対にそのまま持って行くべき。ただ、時代は変わっていくので、新しいものをどれだけ取り入れられるかが課題になるでしょうね。あとは選手の質。地元出身の選手が成長していけばファンは応援したくなるだろうし、クラブとしてはその人数を増やして、さらに質を上げていかなければならないと思います。

日本サッカー界が持っている可能性も変わってきました。

名波 日本代表の目指すものは変わりましたが、JFA(日本サッカー協会)が掲げる目標はサッカーファミリーを増やすこと。これにJリーグも足並みをそろえていかなければならない。Jリーグの質が上がってリーグ全体が盛り上がれば、裾野も広がって、日本サッカー界の発展につながると思いますから。

最後に、今後のJリーグに期待することを。

名波 地域密着という意味で、地元の子供たちを育てるための環境作りや資金投入を惜しまないでもらいたい。もちろんトップチームが強くなければ意味がないので、そこにお金を掛けるのは当然ですが、日本サッカー全体の発展を考え、育成や地域に様々な還元をできるクラブが増えていってほしいですね。

ファンの皆さんへ

 僕が現役の頃は、見ているお客さんにサッカーの楽しさを伝えたいと常々思っていました。年を重ねて余裕ができた頃は特にそういうプレーを出すよう心掛けていましたし、周囲の選手からも期待されていたので、ファンを楽しませることを頭に入れながらやっていました。

 02年の日韓W杯を経て、スタジアムを含めたハード面の充実が成されてきましたが、Jリーグは現在、秋春制へのシーズン移行を検討しています。これが実現すると雪国クラブのファンの方々は厳しい環境で観戦を強いられることもあるでしょうが、JFAやJリーグはドイツやオランダのように座席にヒーターを設置するなどの案も検討していて、お客さんにより楽しんでもらうための方法を模索する流れが形成されつつあります。これは素晴らしいことだと思っています。

 サッカーが好きになる理由は人それぞれだと思います。選手がカッコいい、生まれ育ったところにたまたまJクラブがあったなど、入口は何でもいい。好きな選手やクラブが変わることもあるかもしれません。でも、サッカーをずっと好きでいてもらいたい。スタジアムに足を運ぶ人も、テレビで見る人も、ずっとずっとサッカーを愛し続けてほしい。それが僕の願いです。